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第119話 見当違い
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部屋中が凍りつくかと思うほどの冷え冷えした声で問われ、俺はビクリと身体を震わせた。
「え……?」
「叔父様は、俺が、剣術大会で、優勝し、殿下と、結婚、することを、心から、応援、して、くださる、と」
一つ一つゆっくり言葉を区切って確認される。
なんだろう、何故か、すごく、めちゃくちゃ……、
ーー怖い!!!!
「え……、ご、ごめん、テオ……、殿下との婚約は、まだ、秘密、だったの……、かな? そういえば、国王陛下も、そんなこと、一言も……。ごめんね、先走って……、あ、俺の勘違い、だったのかも……。その、つまり、オーバン君が」
俺の身体はテオドールから放たれる怒気に当てられ、小刻みに震えていた。
「この期に及んでまたオーバンですかっ??!!」
「ひええええ、ごめんなさいっ!」
なにがそんなに気に食わないというのか!?
テオドールは涙目になっている俺をジロリと睨めつけた。
「謝っていただく必要など一切ありません。ええ、身に染みてよくわかりました。俺が今までやってきたことは、ほとんどすべて無駄なことだったということが!!
叔父様は結局、俺のことなどこれっぽっちも気にかけてくださっていないということも!」
「テオ……、違うよ、違うんだって! 俺は……」
「シャンタル様の言う通りでした! 俺は本当に何もわかっていない馬鹿者でした!
今まで叔父様のお気持ちを最優先に考えて生きてまいりました。しかし、それでは叔父様の心には全く響いてはいなかったということですねっ!」
テオドールは勢いよく立ち上がった。
「テオ! 俺だっていつもテオのことを……っ!」
テオドールは大股で歩いていくと、扉の前で俺を振り返った。
「もう、叔父様のお気持ちを第一に考えることはやめます。俺は俺のやりたいようにやらせていただきます!
それでもし、叔父様を泣かせることがあったとしても、俺はもう、容赦しません!
ーー叔父様、覚悟していてください。もう、逃げ道なんて、どこにも用意しませんから!
剣術大会は、俺が必ず優勝します。そして、その後起こることを、叔父様にはすべて受け入れていただきますっ!」
「テオっ!!」
ーー扉は音もなく閉まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それで……、出ていってしまったってこと!? だから今、テオドールは聖教会にいるのね!」
「うんっ……、グスッ、テオはっ、そもそも聖騎士は、聖教会で暮らすのがしきたりだって、言ってた、けどっ……、
そんなの、絶対っ、嘘でっ、もうきっと、俺のっ、顔なんてっ、見たくもないんだあっ! わぁあああん!」
枕に顔を埋めると、シャンタルはポンポンと俺の頭を撫でてくれた。
「テオドールの激情にも困ったものね! まだ若いから感情のコントロールがきかないのかしら?
それにしても……、本当にあなた達は、どうしてこういちいち面倒くさいのかしら!」
シャンタルは大きなため息をつく。
「ふぇええええ、ごめん、なさいっ、グスッ、グスッ……」
「ジュール、聖騎士が聖教会で暮らさなければいけないというのは本当よ。知り合いの騎士が言ってたから間違いないわ。
夜を徹しての儀式も多いらしいわよ。……よく知らないけど。
『聖騎士は、聖教会とともにある』というのが聖騎士の掟なんですって!」
背中を撫でられながら、お姉様の優しい声で諭されると、俺の心も幾分軽くなっていくようだった。
ーーそう、あのテオドール激怒の夜から3日後、テオドールは荷物をまとめて聖教会へ引っ越してしまっていた。
さすがに引っ越し当日の朝は、もうテオドールは怒ってなどいなかったが、明らかに俺と距離を置こうとしているということがわかる態度だった。
テオドールの言い分としては、本来なら聖騎士になったらすぐにでも聖教会で暮らさなければいけないところを、俺の捜索やらなにやらで伸ばし伸ばしにしていて、聖教会からいい加減、数ヶ月だけでもいいからここで暮らしてほしい、でないと教会に属する聖職者たちに示しがつかない、と泣きつかれたということらしい。
でも、テオドールの引っ越しは、おれとのいざこざが発端としていることは明白だった。
テオドールは一応俺のことを心配してか、屋敷の周りにすごい規模の結界を魔道具で張り、なおかつ聖騎士団から護衛を派遣してくれていた。しかも、どこから聞きつけたのか、こうしてシャンタルお姉様も俺のもとに駆けつけてくれた。
「で、テオドールは3ヶ月経ったら戻ってくるって、そう言ったのねっ!?」
「う、うんっ……、で、でもっ、グスッ、そんなの、う、嘘に、決まってるよ! だって、ちょうど3ヶ月後には、学園で剣術大会が開かれて、テオドールはそのままシャルロット殿下と結婚するんだからっ! うわああああん、テオはもう、ここには一生戻ってこないんだっ!!」
「はあ……、本当に、どこをどうやったらそういう考えにたどり着くのやら。まだテオドールが殿下と結婚するって決まったわけじゃないでしょ? それにジュール、あなたはテオドールの気持ちを聞いたんでしょ?」
「でも、でも……、俺がっ……」
泣きはらした顔の俺に、シャンタルお姉様は肩をすくめる。
「まあ、いいわ。テオドールがそういうつもりなら、こちらにも考えがあるわ。ジュール、お姉様にまかせておきなさい。
いつまでも意地を張っていたら、いったいどういうことになるか、目にもの見せてやるわ!」
「え……?」
「叔父様は、俺が、剣術大会で、優勝し、殿下と、結婚、することを、心から、応援、して、くださる、と」
一つ一つゆっくり言葉を区切って確認される。
なんだろう、何故か、すごく、めちゃくちゃ……、
ーー怖い!!!!
「え……、ご、ごめん、テオ……、殿下との婚約は、まだ、秘密、だったの……、かな? そういえば、国王陛下も、そんなこと、一言も……。ごめんね、先走って……、あ、俺の勘違い、だったのかも……。その、つまり、オーバン君が」
俺の身体はテオドールから放たれる怒気に当てられ、小刻みに震えていた。
「この期に及んでまたオーバンですかっ??!!」
「ひええええ、ごめんなさいっ!」
なにがそんなに気に食わないというのか!?
テオドールは涙目になっている俺をジロリと睨めつけた。
「謝っていただく必要など一切ありません。ええ、身に染みてよくわかりました。俺が今までやってきたことは、ほとんどすべて無駄なことだったということが!!
叔父様は結局、俺のことなどこれっぽっちも気にかけてくださっていないということも!」
「テオ……、違うよ、違うんだって! 俺は……」
「シャンタル様の言う通りでした! 俺は本当に何もわかっていない馬鹿者でした!
今まで叔父様のお気持ちを最優先に考えて生きてまいりました。しかし、それでは叔父様の心には全く響いてはいなかったということですねっ!」
テオドールは勢いよく立ち上がった。
「テオ! 俺だっていつもテオのことを……っ!」
テオドールは大股で歩いていくと、扉の前で俺を振り返った。
「もう、叔父様のお気持ちを第一に考えることはやめます。俺は俺のやりたいようにやらせていただきます!
それでもし、叔父様を泣かせることがあったとしても、俺はもう、容赦しません!
ーー叔父様、覚悟していてください。もう、逃げ道なんて、どこにも用意しませんから!
剣術大会は、俺が必ず優勝します。そして、その後起こることを、叔父様にはすべて受け入れていただきますっ!」
「テオっ!!」
ーー扉は音もなく閉まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それで……、出ていってしまったってこと!? だから今、テオドールは聖教会にいるのね!」
「うんっ……、グスッ、テオはっ、そもそも聖騎士は、聖教会で暮らすのがしきたりだって、言ってた、けどっ……、
そんなの、絶対っ、嘘でっ、もうきっと、俺のっ、顔なんてっ、見たくもないんだあっ! わぁあああん!」
枕に顔を埋めると、シャンタルはポンポンと俺の頭を撫でてくれた。
「テオドールの激情にも困ったものね! まだ若いから感情のコントロールがきかないのかしら?
それにしても……、本当にあなた達は、どうしてこういちいち面倒くさいのかしら!」
シャンタルは大きなため息をつく。
「ふぇええええ、ごめん、なさいっ、グスッ、グスッ……」
「ジュール、聖騎士が聖教会で暮らさなければいけないというのは本当よ。知り合いの騎士が言ってたから間違いないわ。
夜を徹しての儀式も多いらしいわよ。……よく知らないけど。
『聖騎士は、聖教会とともにある』というのが聖騎士の掟なんですって!」
背中を撫でられながら、お姉様の優しい声で諭されると、俺の心も幾分軽くなっていくようだった。
ーーそう、あのテオドール激怒の夜から3日後、テオドールは荷物をまとめて聖教会へ引っ越してしまっていた。
さすがに引っ越し当日の朝は、もうテオドールは怒ってなどいなかったが、明らかに俺と距離を置こうとしているということがわかる態度だった。
テオドールの言い分としては、本来なら聖騎士になったらすぐにでも聖教会で暮らさなければいけないところを、俺の捜索やらなにやらで伸ばし伸ばしにしていて、聖教会からいい加減、数ヶ月だけでもいいからここで暮らしてほしい、でないと教会に属する聖職者たちに示しがつかない、と泣きつかれたということらしい。
でも、テオドールの引っ越しは、おれとのいざこざが発端としていることは明白だった。
テオドールは一応俺のことを心配してか、屋敷の周りにすごい規模の結界を魔道具で張り、なおかつ聖騎士団から護衛を派遣してくれていた。しかも、どこから聞きつけたのか、こうしてシャンタルお姉様も俺のもとに駆けつけてくれた。
「で、テオドールは3ヶ月経ったら戻ってくるって、そう言ったのねっ!?」
「う、うんっ……、で、でもっ、グスッ、そんなの、う、嘘に、決まってるよ! だって、ちょうど3ヶ月後には、学園で剣術大会が開かれて、テオドールはそのままシャルロット殿下と結婚するんだからっ! うわああああん、テオはもう、ここには一生戻ってこないんだっ!!」
「はあ……、本当に、どこをどうやったらそういう考えにたどり着くのやら。まだテオドールが殿下と結婚するって決まったわけじゃないでしょ? それにジュール、あなたはテオドールの気持ちを聞いたんでしょ?」
「でも、でも……、俺がっ……」
泣きはらした顔の俺に、シャンタルお姉様は肩をすくめる。
「まあ、いいわ。テオドールがそういうつもりなら、こちらにも考えがあるわ。ジュール、お姉様にまかせておきなさい。
いつまでも意地を張っていたら、いったいどういうことになるか、目にもの見せてやるわ!」
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