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第109話 家族
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『ジュール、あなた……、テオドールを愛してるのね……』
シャンタルお姉様の言葉が、俺の脳内に響いた。
「ごめん、なんでもない……」
俺は首を振った。
俺がテオドールを愛していることに気付いたところで、一体どうなるというのだ。
俺の心はもう決まっていた。
俺はテオドールの『叔父』として、テオドールのこれからの華々しい人生をずっと見守っていきたい。
だから、『俺』という存在が、テオドールの人生の足枷にならないように、この想いは最後まで隠しておく。
ーーテオドールにだけは、幸せになってほしいから!!
「叔父様、手を握っても、いいですか?」
とても遠慮がちに、テオドールは切り出した。
「テオ……」
「叔父様の気持ちを無視してどうこうするつもりはありません。
ただ……、せめて以前のように触れ合うことはお許しいただけないでしょうか?」
テオドールの懇願に俺は頷いていた。
「うん。俺も、前みたいに戻りたいってずっと思ってた。
だから……」
テオドールは俺の手を握りしめた。
温かい手だった。
「俺は、ずっと叔父様のそばにいます」
何かを決意したような、テオドールの言葉。
「うん……」
また以前のように側にいてくれるという意味だろうか。
俺はテオドールの手を握り返していた。
昨晩、俺にあそこまで言われて、さすがにテオドールはあきらめたはずだ。
テオドールも俺の気持ちをわかってくれたのだろうか?
テオドールの俺を見つめる瞳は、温かく、穏やかだった。
「うん、そばにいて。たとえどんなことがあっても、俺たちは家族だよ」
本当はずっとテオドールのそばにいたい。
でもそんなことは無理だとわかっているから……。
せめて、今だけでも……。
「はい、俺と叔父様は家族です。いつまでも……」
その時、テオドールがどんな気持ちでこの言葉を言ったかなんて、その時の俺にはわかるわけもなかった。
俺はとても愚かで、考え無しで……。
だからその後も、俺は自分から問題をどんどんややこしくしてしまうことになったんだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別宅の自室に戻り、俺はベッドに腰掛けた。
――ここ数日、体調の良くない変化を感じていた。
このままでは、あと4、5日もすれば、俺はまた寝込んでしまうことになるだろう。
俺は下腹部に手をあてた。
――もう、猶予はほとんどない。
テオドールを受け入れないと決めたのだから、取るべき方法はほかにはない。
俺の決断を話したとき、シャンタルには「本当にいいの? 後悔しない?」と何度も念を押された。
――後悔なら、もうずっと前からしている。
俺はベッドにあおむけに寝転んだ。
「テオドール……」
俺はつぶやき、目を閉じた。
――愛している、という言葉はそのまま飲み込んだ。
……近くにいるのに、もう、こんなにも遠い……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日後。深夜――。
「ああっ、ジュール様っ! 私はどれだけ心配し、夜も眠れない日々を送ったことか……!
またこうして、あなたにお目にかかることができて、私はどれだけっ……!」
部屋に入ってくるなり、飛び掛からんばかりに俺に近づいてくるアンドレの首根っこを、後ろに控えていた黒い外套の男がむんずとつかんだ。
「おいっ、離しなさいっ! ほら、早くっ!」
「……」
アンドレに一喝され、男はしぶしぶといった感じでアンドレを解放した。
「まったく、あなたはもっと自分の立場をわきまえてくださいよっ!
っと……、ああ、ジュール様っ! ジュール様っ! 私にもっとよくその可愛いお顔を見せてください!!」
アンドレは俺のそばまでくると、俺の頬を両手で包み込んだ。
「アンドレ……、アンドレにも心配かけてごめんね」
「ああ、ジュール様、何をおっしゃるんです! 貴方は本当に見るたびに可愛らしく……っ、ぐっ!
ちょっと、あなた! 何回言えばわかるんです、いい加減にっ……!」
後ろから髪を強くひっぱられたのか、アンドレはその美しい顔をゆがませる。
「はは……っ、アンドレも、元気そうでよかった……。
今日は、ごめんね。わざわざ……」
そう、俺は別宅にアンドレを呼び寄せていた。
――俺の淫紋に対処してくれる組織の人間に、引き合わせてもらうために。
シャンタルお姉様の言葉が、俺の脳内に響いた。
「ごめん、なんでもない……」
俺は首を振った。
俺がテオドールを愛していることに気付いたところで、一体どうなるというのだ。
俺の心はもう決まっていた。
俺はテオドールの『叔父』として、テオドールのこれからの華々しい人生をずっと見守っていきたい。
だから、『俺』という存在が、テオドールの人生の足枷にならないように、この想いは最後まで隠しておく。
ーーテオドールにだけは、幸せになってほしいから!!
「叔父様、手を握っても、いいですか?」
とても遠慮がちに、テオドールは切り出した。
「テオ……」
「叔父様の気持ちを無視してどうこうするつもりはありません。
ただ……、せめて以前のように触れ合うことはお許しいただけないでしょうか?」
テオドールの懇願に俺は頷いていた。
「うん。俺も、前みたいに戻りたいってずっと思ってた。
だから……」
テオドールは俺の手を握りしめた。
温かい手だった。
「俺は、ずっと叔父様のそばにいます」
何かを決意したような、テオドールの言葉。
「うん……」
また以前のように側にいてくれるという意味だろうか。
俺はテオドールの手を握り返していた。
昨晩、俺にあそこまで言われて、さすがにテオドールはあきらめたはずだ。
テオドールも俺の気持ちをわかってくれたのだろうか?
テオドールの俺を見つめる瞳は、温かく、穏やかだった。
「うん、そばにいて。たとえどんなことがあっても、俺たちは家族だよ」
本当はずっとテオドールのそばにいたい。
でもそんなことは無理だとわかっているから……。
せめて、今だけでも……。
「はい、俺と叔父様は家族です。いつまでも……」
その時、テオドールがどんな気持ちでこの言葉を言ったかなんて、その時の俺にはわかるわけもなかった。
俺はとても愚かで、考え無しで……。
だからその後も、俺は自分から問題をどんどんややこしくしてしまうことになったんだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別宅の自室に戻り、俺はベッドに腰掛けた。
――ここ数日、体調の良くない変化を感じていた。
このままでは、あと4、5日もすれば、俺はまた寝込んでしまうことになるだろう。
俺は下腹部に手をあてた。
――もう、猶予はほとんどない。
テオドールを受け入れないと決めたのだから、取るべき方法はほかにはない。
俺の決断を話したとき、シャンタルには「本当にいいの? 後悔しない?」と何度も念を押された。
――後悔なら、もうずっと前からしている。
俺はベッドにあおむけに寝転んだ。
「テオドール……」
俺はつぶやき、目を閉じた。
――愛している、という言葉はそのまま飲み込んだ。
……近くにいるのに、もう、こんなにも遠い……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日後。深夜――。
「ああっ、ジュール様っ! 私はどれだけ心配し、夜も眠れない日々を送ったことか……!
またこうして、あなたにお目にかかることができて、私はどれだけっ……!」
部屋に入ってくるなり、飛び掛からんばかりに俺に近づいてくるアンドレの首根っこを、後ろに控えていた黒い外套の男がむんずとつかんだ。
「おいっ、離しなさいっ! ほら、早くっ!」
「……」
アンドレに一喝され、男はしぶしぶといった感じでアンドレを解放した。
「まったく、あなたはもっと自分の立場をわきまえてくださいよっ!
っと……、ああ、ジュール様っ! ジュール様っ! 私にもっとよくその可愛いお顔を見せてください!!」
アンドレは俺のそばまでくると、俺の頬を両手で包み込んだ。
「アンドレ……、アンドレにも心配かけてごめんね」
「ああ、ジュール様、何をおっしゃるんです! 貴方は本当に見るたびに可愛らしく……っ、ぐっ!
ちょっと、あなた! 何回言えばわかるんです、いい加減にっ……!」
後ろから髪を強くひっぱられたのか、アンドレはその美しい顔をゆがませる。
「はは……っ、アンドレも、元気そうでよかった……。
今日は、ごめんね。わざわざ……」
そう、俺は別宅にアンドレを呼び寄せていた。
――俺の淫紋に対処してくれる組織の人間に、引き合わせてもらうために。
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