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第107話 ダンデス家・本宅
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自分の生まれ育った家だというのに、ダンデス家の本宅の荘厳な雰囲気に俺はかなり緊張していた。
長い廊下を歩き、俺は客間に通される。
――やはり、まだ本当の意味では許されてはいないらしい。
客間ではすでに両親がソファに座って俺を待っていた。
「ジュール!」
母親が俺を見て立ち上がる。
「お母様!」
頬は紅潮し、目には涙が浮かんでいる。本当に、この人には迷惑をかけてばかりだ。
「本当によかったわ。また元気なあなたの姿を見られて……!」
そして……、
「ジュール、待っていたぞ」
父親はすっかり老け込み、声も弱々しく……、なっていなかった!
「お父様っ!!」
「今日はテオドールは来ていないのか?」
実の息子との数年ぶりの再会だというのに、なぜか一番はじめにテオドールのことを確かめてくる父親。
しかも、俺の記憶の中にある父親とは、ずいぶん印象がかわっており、肌はつやつやとして血色がいい。
いつもいかめしく眉間にしわを寄せているイメージしかなかったはずだが、なぜか今俺の目の前にいる父親はとても穏やかな顔つきに変わっていた。
「お父、さま……?」
「私は特に心配はしていなかったぞ。テオドールが、お前はどこかで無事に暮らしていると言っていたからな。まったく、いくつになっても世話の焼ける息子だ。
しかも、テオドールにここまで迷惑をかけて……。テオドールは聖騎士の仕事で忙しいんだ。それなのにここのところ、テオドールはお前に構いっきりで、聖教会にも迷惑をかけているんだぞ。
お前は一応テオドールの叔父にあたるのだから、もう少し自重して、自分のことくらいは自分でできるようにしろ!」
「……はい?」
この人、今テオドールって何回言った?
「ジュール、お父様は今テオドールに夢中なのよ」
隣に立つシャンタルお姉様がそっと俺に耳打ちする。
「夢中!?」
「ジュールがいなくなって、あの別宅に一人で暮らすのはあまりにかわいそうだから、私が本宅にテオドールを呼び寄せたの。まあ、もちろんはじめのうちは、お父様はテオドールと顔も合わせようとしなかったんだけど……」
「だけど?」
「テオドールが騎士団に入団したころから、ころっと態度が変わって……! どうやらお父様って昔から騎士にかなり憧れていたみたい! それでもって、テオドールはついに聖騎士になっちゃったでしょ?
そりゃ、お父様の喜びようったらすごかったわよ! 『ダンデス家から聖騎士が誕生したーーー!!』って大騒ぎでね、もちろん、祝賀パーティもお父様主催で盛大に開催したのよ。それ以降は、もうテオドールに心酔しちゃって、それはもう、ひどいものよ……」
シャンタルはあきれたようにため息をつく。
俺は驚きのあまり、しばし声を失った。
俺のいない間にそんなことがあったなんて! それで、この目の前の父親はこんなに上機嫌で、過去の俺の悪事もすっかり忘れてしまったかのようなふるまいなのか!?
それにしてもお父様が密かに騎士に憧れていたとは、人は見かけによらないものだ。たしかに、お父様にしても俺にしても、筋骨たくましいとはいいがたく、どうがんばっても騎士にはなれないタイプだ。正反対のタイプだからこそ、逆に憧れも強いのだろうか!?
ふがいない俺に変わって、理想の跡継ぎが目の前に現れ、お父様はすっかり満足しているようだ。
聖騎士の威力、すさまじすぎる!!
すぐに、メイドが手早くお茶の準備をしてくれたので、実に何年振りかの家族団らんとなった。場所はなぜか客間だったが……。
「ジュール、別宅で暮らすのはなにかと不便が多いだろう。お前も、そろそろここに戻ってきてもいいぞ」
紅茶のカップを手に、父親はさりげなく切りだした。
「へ!?」
「王宮や聖教会からもここは近いからな。テオドールにとってもそのほうがいいだろう!」
――やっぱりテオドールかよ?!
「それに、屋敷の中に聖騎士がいるといないでは、こう、安心感というか、華やぎがちがうからな!」
安心感はわかるけど、華やぎって何? っていうか俺って何? テオドールの添え物かなにか?
「お父様は、ジュールのせいでテオドールが別宅に戻ってしまったので、とても悲しんでいるのよ。
私もテオドールがこの家にいないのはとても寂しいわ」
――お母様、アンタもかっ!?
っていうか、俺のせいって何!?
実の息子の俺は、あのマリユス事件以来数年以上この家を離れていたのだがっ!? しかもその後2年半も行方不明っ!!
ちょっとの間の不在をここまで悲しまれるテオドールと俺の扱いの差って一体……。
「ああ、今日はゆっくりしていくといい。ジュール、夕食はお前の好物を用意しているからな。
もちろん泊っていってもいいが、お前の以前の部屋は今はテオドールの部屋になっているから、お前には客間を準備させる」
「はい!?」
なんと、俺の自室までテオドールにとってかわられていたとは!!!!
嫡男の俺がここにきてまさかの「お客様扱い」!!
俺は愕然としていた。家族との涙の再会を期待していたというのに、さっきから涙なんて一滴も出てこない!
出てくるのはため息だけ!
「シャンタル、聖教会に連絡して、テオドールにジュールは夜までここにいるからここに戻ってくるように伝えてくれ」
「はぁい、お父様」
すまし顔のシャンタルが返事をする。
すると俺の母親はぱあっと顔を輝かせた。
「あら、じゃあテオドールは夕食までにこちらに戻ってくるのね?
テオドールはなにが一番好きだったんでしたっけ? シェフに言ってメニューを変更させましょうか?」
アンタら、どんだけテオドールが好きなんだっ!
ーーっていうか俺の扱いぃいいいいい!!!!
長い廊下を歩き、俺は客間に通される。
――やはり、まだ本当の意味では許されてはいないらしい。
客間ではすでに両親がソファに座って俺を待っていた。
「ジュール!」
母親が俺を見て立ち上がる。
「お母様!」
頬は紅潮し、目には涙が浮かんでいる。本当に、この人には迷惑をかけてばかりだ。
「本当によかったわ。また元気なあなたの姿を見られて……!」
そして……、
「ジュール、待っていたぞ」
父親はすっかり老け込み、声も弱々しく……、なっていなかった!
「お父様っ!!」
「今日はテオドールは来ていないのか?」
実の息子との数年ぶりの再会だというのに、なぜか一番はじめにテオドールのことを確かめてくる父親。
しかも、俺の記憶の中にある父親とは、ずいぶん印象がかわっており、肌はつやつやとして血色がいい。
いつもいかめしく眉間にしわを寄せているイメージしかなかったはずだが、なぜか今俺の目の前にいる父親はとても穏やかな顔つきに変わっていた。
「お父、さま……?」
「私は特に心配はしていなかったぞ。テオドールが、お前はどこかで無事に暮らしていると言っていたからな。まったく、いくつになっても世話の焼ける息子だ。
しかも、テオドールにここまで迷惑をかけて……。テオドールは聖騎士の仕事で忙しいんだ。それなのにここのところ、テオドールはお前に構いっきりで、聖教会にも迷惑をかけているんだぞ。
お前は一応テオドールの叔父にあたるのだから、もう少し自重して、自分のことくらいは自分でできるようにしろ!」
「……はい?」
この人、今テオドールって何回言った?
「ジュール、お父様は今テオドールに夢中なのよ」
隣に立つシャンタルお姉様がそっと俺に耳打ちする。
「夢中!?」
「ジュールがいなくなって、あの別宅に一人で暮らすのはあまりにかわいそうだから、私が本宅にテオドールを呼び寄せたの。まあ、もちろんはじめのうちは、お父様はテオドールと顔も合わせようとしなかったんだけど……」
「だけど?」
「テオドールが騎士団に入団したころから、ころっと態度が変わって……! どうやらお父様って昔から騎士にかなり憧れていたみたい! それでもって、テオドールはついに聖騎士になっちゃったでしょ?
そりゃ、お父様の喜びようったらすごかったわよ! 『ダンデス家から聖騎士が誕生したーーー!!』って大騒ぎでね、もちろん、祝賀パーティもお父様主催で盛大に開催したのよ。それ以降は、もうテオドールに心酔しちゃって、それはもう、ひどいものよ……」
シャンタルはあきれたようにため息をつく。
俺は驚きのあまり、しばし声を失った。
俺のいない間にそんなことがあったなんて! それで、この目の前の父親はこんなに上機嫌で、過去の俺の悪事もすっかり忘れてしまったかのようなふるまいなのか!?
それにしてもお父様が密かに騎士に憧れていたとは、人は見かけによらないものだ。たしかに、お父様にしても俺にしても、筋骨たくましいとはいいがたく、どうがんばっても騎士にはなれないタイプだ。正反対のタイプだからこそ、逆に憧れも強いのだろうか!?
ふがいない俺に変わって、理想の跡継ぎが目の前に現れ、お父様はすっかり満足しているようだ。
聖騎士の威力、すさまじすぎる!!
すぐに、メイドが手早くお茶の準備をしてくれたので、実に何年振りかの家族団らんとなった。場所はなぜか客間だったが……。
「ジュール、別宅で暮らすのはなにかと不便が多いだろう。お前も、そろそろここに戻ってきてもいいぞ」
紅茶のカップを手に、父親はさりげなく切りだした。
「へ!?」
「王宮や聖教会からもここは近いからな。テオドールにとってもそのほうがいいだろう!」
――やっぱりテオドールかよ?!
「それに、屋敷の中に聖騎士がいるといないでは、こう、安心感というか、華やぎがちがうからな!」
安心感はわかるけど、華やぎって何? っていうか俺って何? テオドールの添え物かなにか?
「お父様は、ジュールのせいでテオドールが別宅に戻ってしまったので、とても悲しんでいるのよ。
私もテオドールがこの家にいないのはとても寂しいわ」
――お母様、アンタもかっ!?
っていうか、俺のせいって何!?
実の息子の俺は、あのマリユス事件以来数年以上この家を離れていたのだがっ!? しかもその後2年半も行方不明っ!!
ちょっとの間の不在をここまで悲しまれるテオドールと俺の扱いの差って一体……。
「ああ、今日はゆっくりしていくといい。ジュール、夕食はお前の好物を用意しているからな。
もちろん泊っていってもいいが、お前の以前の部屋は今はテオドールの部屋になっているから、お前には客間を準備させる」
「はい!?」
なんと、俺の自室までテオドールにとってかわられていたとは!!!!
嫡男の俺がここにきてまさかの「お客様扱い」!!
俺は愕然としていた。家族との涙の再会を期待していたというのに、さっきから涙なんて一滴も出てこない!
出てくるのはため息だけ!
「シャンタル、聖教会に連絡して、テオドールにジュールは夜までここにいるからここに戻ってくるように伝えてくれ」
「はぁい、お父様」
すまし顔のシャンタルが返事をする。
すると俺の母親はぱあっと顔を輝かせた。
「あら、じゃあテオドールは夕食までにこちらに戻ってくるのね?
テオドールはなにが一番好きだったんでしたっけ? シェフに言ってメニューを変更させましょうか?」
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