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第99話 裏切り
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「ジュールが消えて、おびただしい量の血がついたジュールの上着が見つかって、ジュールは強盗に殺されてしまったんだって、はじめはみんながそう思っていた。でも、テオドールだけは、絶対叔父様は生きてるって、生きてどこかに匿われているはずだって、言ってきかなくて……。
誰も最初は相手にしなかったよ。でも、シャルロットだけは違った。シャルロットはずっとテオドールのそばに寄り添って、励まして、ジュールの捜索のためにテオドールが騎士団に入れるように根回ししたり、聖騎士の試練のときも陛下を一人で説き伏せたり……、もう見ていて痛々しいほどの献身ぶりだった。
で、二人はそのうち、誰の目から見ても、とても親密な関係になった……」
「テオドールが、シャルロット殿下と……」
「いまはシャルロットには正式な婚約者がいないんだ。でもそれって、テオドールのためだってみんなわかってる。テオドールは出自のせいで、まだ難癖をつける古参の大臣はいるんだけど、なぜかあれほどすごかったシャルロット自身の魔力もほとんど枯渇してしまったみたいだし、一方でテオドールはいまとなっては誰もが認める聖騎士様だし、ここまで来たら陛下もきっと、テオドールとシャルロットの結婚を認めざるを得ないだろうって、そういう話」
そこまで言うと、オーバンは長い息を吐いた。
「そう、なんだ……。だから、テオドールはすぐにシャルロット殿下に会いにいったんだね……」
慌てて飛び出していったテオドール。きっと、シャルロット殿下にすぐにでも会いたくて……。
ーーなぜか俺の胸は強く締め付けられたみたいに、苦しくなった。
「俺は、あんたに期待してたんだ、ジュール」
オーバンはその明るいグリーンの瞳で俺を見つめた。
「期待……?」
「テオドールがジュールとまた出会えたら、きっとジュールへの想いが、シャルロットを超えていくんだろうって……。でも違ったみたいだ」
「……」
「俺たちはさ、勝手に想像してたんだ。ジュールはきっと今、劣悪な環境の中、ずっと助けを待っているんだって。だから一刻も早く、ジュールを助けにいかなきゃいけないんだって! でも……」
オーバンは唇を噛み締めた。
「ジュール! アンタは、俺たちの想像に反して、エディマですごく楽しそうに暮らしてた。それが悪いことだなんて言わない! ジュールがつらい思いをしてないってわかって、俺たちもテオドールも心底ホッとしたんだよ。でもさ……!」
オーバンの目元は怒りで赤く染まっていた。
「俺たちは、先に村で聞き込みをしたんだ。そしたらさ、誰もが口を揃えて言うんだよ。ああ、あの砂漠の東の国から来たっていうジュールって男は、ファウロスっていうこの国一番のいい男の恋人なんだって! 二人は見てて恥ずかしくなるほどいつもいちゃついてて、おそろいのピアスをつけて将来を誓い合った仲なんだって!
それを聞いたときの、テオドールの絶望した表情! 俺は絶対に忘れない!
ジュール、アンタは何も悪くない。一生懸命あの国で生き延びていただけだ。でも、でもさ、これってひどい裏切りだよ! テオドールはアンタのために、命をかけてきたのに、アンタときたら、あんな派手な色男とよろしくやってたなんてっ!」
「俺は……っ」
違う! と言いたかった。でも……、オーバンの言っていることは抗えない真実だった。
「教会への突入がギリギリだっただろ。あれ、ダメージを受けて茫然自失状態になっていたテオドールの回復を待ってたからなんだ。でもテオドールはすごいよ。しばらくして、また正気に戻って言ったんだ。『すべての決心はついた。叔父様は国に連れて帰る。それが私の使命だ』って」
「すべての決心……」
「あのとき、ジュールへの愛情の踏ん切りがついたんじゃないかな。俺もセルジュも、さすがに将来を誓い合った恋人と引き離すことに抵抗はあったけど、でも……」
オーバンは俺を睨みつけた。
「アンタの姿を見て、気が変わった。その長い髪、ボタンを外したシャツから見える灼けた肌。アンタを一目みて、団員たちが生唾飲み込んだの、知ってる?」
オーバンの言葉に、俺は慌ててシャツの合わせを掴んだ。
エディマは熱くて、シャツのボタンはいつも多めに開けていた。髪を切る機会なんてなくて、ずっと伸ばしていた。
「それなのに、アンタはまるで無自覚で……。テオドールが馬車とテントにアンタを隠すわけだよ。いまだって、アンタのことをきっと誰にも、見せたくないんだ……」
俺は思わず目を伏せる。
エディマにいて変わってしまった俺の姿。きっとすごくみすぼらしくて、恥ずかしくて、だらしなくて、人前に出せないくらいにみっともないのだろう。
「ごめん、オーバン君、俺……」
「あいつに、会いたい? あの褐色の肌の色男に……。あいつのこと、愛してたの?」
「違う!」
俺は叫んだ。
「ファウロスのことは、大好きだった。でも愛してたとか、そういうんじゃない。恋人っていうのも、便宜上……」
「でも、寝てたんでしょ?」
冷たい瞳が、俺を見据えていた。
「……」
「あの男に、抱かれたんだよね、何度も! 叔父様、もう俺もテオドールも子どもじゃない。ごまかすなよ! ジュール、アンタはテオドールの純粋な気持ちを踏みにじったんだ!」
誰も最初は相手にしなかったよ。でも、シャルロットだけは違った。シャルロットはずっとテオドールのそばに寄り添って、励まして、ジュールの捜索のためにテオドールが騎士団に入れるように根回ししたり、聖騎士の試練のときも陛下を一人で説き伏せたり……、もう見ていて痛々しいほどの献身ぶりだった。
で、二人はそのうち、誰の目から見ても、とても親密な関係になった……」
「テオドールが、シャルロット殿下と……」
「いまはシャルロットには正式な婚約者がいないんだ。でもそれって、テオドールのためだってみんなわかってる。テオドールは出自のせいで、まだ難癖をつける古参の大臣はいるんだけど、なぜかあれほどすごかったシャルロット自身の魔力もほとんど枯渇してしまったみたいだし、一方でテオドールはいまとなっては誰もが認める聖騎士様だし、ここまで来たら陛下もきっと、テオドールとシャルロットの結婚を認めざるを得ないだろうって、そういう話」
そこまで言うと、オーバンは長い息を吐いた。
「そう、なんだ……。だから、テオドールはすぐにシャルロット殿下に会いにいったんだね……」
慌てて飛び出していったテオドール。きっと、シャルロット殿下にすぐにでも会いたくて……。
ーーなぜか俺の胸は強く締め付けられたみたいに、苦しくなった。
「俺は、あんたに期待してたんだ、ジュール」
オーバンはその明るいグリーンの瞳で俺を見つめた。
「期待……?」
「テオドールがジュールとまた出会えたら、きっとジュールへの想いが、シャルロットを超えていくんだろうって……。でも違ったみたいだ」
「……」
「俺たちはさ、勝手に想像してたんだ。ジュールはきっと今、劣悪な環境の中、ずっと助けを待っているんだって。だから一刻も早く、ジュールを助けにいかなきゃいけないんだって! でも……」
オーバンは唇を噛み締めた。
「ジュール! アンタは、俺たちの想像に反して、エディマですごく楽しそうに暮らしてた。それが悪いことだなんて言わない! ジュールがつらい思いをしてないってわかって、俺たちもテオドールも心底ホッとしたんだよ。でもさ……!」
オーバンの目元は怒りで赤く染まっていた。
「俺たちは、先に村で聞き込みをしたんだ。そしたらさ、誰もが口を揃えて言うんだよ。ああ、あの砂漠の東の国から来たっていうジュールって男は、ファウロスっていうこの国一番のいい男の恋人なんだって! 二人は見てて恥ずかしくなるほどいつもいちゃついてて、おそろいのピアスをつけて将来を誓い合った仲なんだって!
それを聞いたときの、テオドールの絶望した表情! 俺は絶対に忘れない!
ジュール、アンタは何も悪くない。一生懸命あの国で生き延びていただけだ。でも、でもさ、これってひどい裏切りだよ! テオドールはアンタのために、命をかけてきたのに、アンタときたら、あんな派手な色男とよろしくやってたなんてっ!」
「俺は……っ」
違う! と言いたかった。でも……、オーバンの言っていることは抗えない真実だった。
「教会への突入がギリギリだっただろ。あれ、ダメージを受けて茫然自失状態になっていたテオドールの回復を待ってたからなんだ。でもテオドールはすごいよ。しばらくして、また正気に戻って言ったんだ。『すべての決心はついた。叔父様は国に連れて帰る。それが私の使命だ』って」
「すべての決心……」
「あのとき、ジュールへの愛情の踏ん切りがついたんじゃないかな。俺もセルジュも、さすがに将来を誓い合った恋人と引き離すことに抵抗はあったけど、でも……」
オーバンは俺を睨みつけた。
「アンタの姿を見て、気が変わった。その長い髪、ボタンを外したシャツから見える灼けた肌。アンタを一目みて、団員たちが生唾飲み込んだの、知ってる?」
オーバンの言葉に、俺は慌ててシャツの合わせを掴んだ。
エディマは熱くて、シャツのボタンはいつも多めに開けていた。髪を切る機会なんてなくて、ずっと伸ばしていた。
「それなのに、アンタはまるで無自覚で……。テオドールが馬車とテントにアンタを隠すわけだよ。いまだって、アンタのことをきっと誰にも、見せたくないんだ……」
俺は思わず目を伏せる。
エディマにいて変わってしまった俺の姿。きっとすごくみすぼらしくて、恥ずかしくて、だらしなくて、人前に出せないくらいにみっともないのだろう。
「ごめん、オーバン君、俺……」
「あいつに、会いたい? あの褐色の肌の色男に……。あいつのこと、愛してたの?」
「違う!」
俺は叫んだ。
「ファウロスのことは、大好きだった。でも愛してたとか、そういうんじゃない。恋人っていうのも、便宜上……」
「でも、寝てたんでしょ?」
冷たい瞳が、俺を見据えていた。
「……」
「あの男に、抱かれたんだよね、何度も! 叔父様、もう俺もテオドールも子どもじゃない。ごまかすなよ! ジュール、アンタはテオドールの純粋な気持ちを踏みにじったんだ!」
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