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第92話 襲撃
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ランタンを空に飛ばしてから10日ほど経った日のことだった。その日も朝からとても暑かった。
新しい依頼の打ち合わせだといって首都に出向いていたファウロスだったが、昼を過ぎてすぐに、慌てた様子で教会に戻ってきた。
「ファウロス、早かったね」
俺は、畑で収穫した芋を入れた籠を手に、教会に戻るところだった。
黒い外套をかぶったファウロスは無言で俺に近づくと、俺が持っていた籠をひったくった。
「ジュール、すぐに隠れろ!」
「は? 急に何? そんな怖い顔して、どうした……」
「いいから、早く!」
ファウロスは俺の手を引くと、教会の地下へと続く階段を開けた。
教会の地下室は貯蔵庫にもなっており、ひんやりとした室内には収穫した芋や豆類も置いてある。
「ここにしばらく隠れてるんだ。結界を張っておくが、誰が来ても絶対に扉を開けるなよ!」
早口で言うと、ファウロスは合わせた手のひらに魔力をため始める。
「ちょっと、いきなりどういうことだよ! なんで、俺が……」
「俺にあんたを殺すように命じたあの男から接触があったんだ!
あんたの国で、なにか国を揺るがすような大きな動きがあったらしい。
そして、どういうわけか、あの男はあんたがこの国で生きていることを知ったようだ」
「……!」
「もう、すぐそこまで来てる。わかるんだ、なにかとてつもなく強い力を感じる。
俺一人で太刀打ちできるかどうか……、でも大丈夫だ、応援を呼ぶから、ジュールはここに隠れて一歩も出るな!
なにも、心配しなくていいから!」
そう言いながらも、ファウロスの瞳はせわしなく揺れ、動揺しているのは明らかだった。
「ファウロス、俺、これ以上ファウロスに迷惑をかけられない! だから、俺は……」
「駄目だっ!」
ファウロスは俺を抱きしめると、そのまま唇を重ねてきた。
「んっ……」
「駄目だ! あんたのことは俺が守る! 絶対に!
絶対に、誰にも、渡さないっ……」
俺の首筋を強く吸うと、ファウロスは俺のピアスにも魔力を込めた。
「ファウロス……」
「お願いだ、お願いだから、ここにいてくれ。何も心配はいらないから……」
ファウロスはあやすように俺の背中を撫でる。
「わかった……」
俺はファウロスの耳のピアスにそっと触れる。
「いいか、ここを出れば結界は壊れる。だから、絶対にここから動くな」
ファウロスは俺に念押しすると、慌ただしく部屋から出ていく。
「ファウロス、気を付けて! 絶対に無事で戻ってきて!」
俺の言葉に、ファウロスは振り向きざまに微笑んだ。
「ああ、絶対に! 俺を誰だと思ってるんだよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地下室に隠れて数時間は何も起こらなかった。
もしかしたらファウロスの勘違いなのかもしれない。
俺のいた国とエディマでは、10年以上前から国交を断絶している。だから、たとえ国の重鎮であったとしても、簡単にはエディマには入ってこられない。
俺は一人、部屋の隅で膝を抱えていた。
もしファウロスの早とちりだったとしたら、あとしばらくすれば俺はここから出られるだろう。そうすれば俺は、いつものようにファウロスとシスター、子供たちと食卓を囲み、きっと夜には……。
ダンダンダンッと強く壁をたたく断続的な音が響いた。
そして、子供たちの悲鳴ーー。
俺は思わず立ち上がり、扉に耳を押し当てた。
外からは何かを破壊するような音、そして逃げまどう子供たちの声が聞こえてくる。
――来た。そして、目的は、俺だ!
俺がここにいる限り、子供たちが犠牲になってしまう。
俺がドアに手をかけたとき、外から扉がノックされた。
「ジュールさんっ、いいか、絶対に扉を開けちゃ駄目だよ!」
シスターの声。相手に悟られないためか、エディマの言葉で話しかけてくる。
「僕たちは大丈夫です! ですから、絶対にここを動かないでください」
シモンの声は冷静だった。
「駄目だよ、そんなこと、できない!」
俺は叫んだ。
いまもひっきりなしにあちこちから悲鳴が上がっている。
「大丈夫だ。私を誰だと思ってるんだい? これでも、一昔前じゃ、……んだよーー!!」
しかし、その声は大きな魔力の砲撃にかき消されてしまった。
「シスターっ、シモンっ!?」
呼びかけるが、返事はない。
しばらくすると、こちらにゆっくりと向かってくる足音が聞こえてきた。
「なぜ魔法が使える修道女がここにいる!? しかも、魔力の結界とは、なんと小癪な!
やはり、お前が諸悪の根源だな……。
ジュール・ダンデス! 隠れても無駄だ! そこにいるのはわかっている。この者たちの命が惜しければ、一刻も早く出てこい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たくさんのエール!感想もありがとうございます。
とっても元気が出ました!
これからも更新がんばります。最終回まで駆け抜けていきます!!
ありがとうございました。皆様の応援に感謝です♡
新しい依頼の打ち合わせだといって首都に出向いていたファウロスだったが、昼を過ぎてすぐに、慌てた様子で教会に戻ってきた。
「ファウロス、早かったね」
俺は、畑で収穫した芋を入れた籠を手に、教会に戻るところだった。
黒い外套をかぶったファウロスは無言で俺に近づくと、俺が持っていた籠をひったくった。
「ジュール、すぐに隠れろ!」
「は? 急に何? そんな怖い顔して、どうした……」
「いいから、早く!」
ファウロスは俺の手を引くと、教会の地下へと続く階段を開けた。
教会の地下室は貯蔵庫にもなっており、ひんやりとした室内には収穫した芋や豆類も置いてある。
「ここにしばらく隠れてるんだ。結界を張っておくが、誰が来ても絶対に扉を開けるなよ!」
早口で言うと、ファウロスは合わせた手のひらに魔力をため始める。
「ちょっと、いきなりどういうことだよ! なんで、俺が……」
「俺にあんたを殺すように命じたあの男から接触があったんだ!
あんたの国で、なにか国を揺るがすような大きな動きがあったらしい。
そして、どういうわけか、あの男はあんたがこの国で生きていることを知ったようだ」
「……!」
「もう、すぐそこまで来てる。わかるんだ、なにかとてつもなく強い力を感じる。
俺一人で太刀打ちできるかどうか……、でも大丈夫だ、応援を呼ぶから、ジュールはここに隠れて一歩も出るな!
なにも、心配しなくていいから!」
そう言いながらも、ファウロスの瞳はせわしなく揺れ、動揺しているのは明らかだった。
「ファウロス、俺、これ以上ファウロスに迷惑をかけられない! だから、俺は……」
「駄目だっ!」
ファウロスは俺を抱きしめると、そのまま唇を重ねてきた。
「んっ……」
「駄目だ! あんたのことは俺が守る! 絶対に!
絶対に、誰にも、渡さないっ……」
俺の首筋を強く吸うと、ファウロスは俺のピアスにも魔力を込めた。
「ファウロス……」
「お願いだ、お願いだから、ここにいてくれ。何も心配はいらないから……」
ファウロスはあやすように俺の背中を撫でる。
「わかった……」
俺はファウロスの耳のピアスにそっと触れる。
「いいか、ここを出れば結界は壊れる。だから、絶対にここから動くな」
ファウロスは俺に念押しすると、慌ただしく部屋から出ていく。
「ファウロス、気を付けて! 絶対に無事で戻ってきて!」
俺の言葉に、ファウロスは振り向きざまに微笑んだ。
「ああ、絶対に! 俺を誰だと思ってるんだよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地下室に隠れて数時間は何も起こらなかった。
もしかしたらファウロスの勘違いなのかもしれない。
俺のいた国とエディマでは、10年以上前から国交を断絶している。だから、たとえ国の重鎮であったとしても、簡単にはエディマには入ってこられない。
俺は一人、部屋の隅で膝を抱えていた。
もしファウロスの早とちりだったとしたら、あとしばらくすれば俺はここから出られるだろう。そうすれば俺は、いつものようにファウロスとシスター、子供たちと食卓を囲み、きっと夜には……。
ダンダンダンッと強く壁をたたく断続的な音が響いた。
そして、子供たちの悲鳴ーー。
俺は思わず立ち上がり、扉に耳を押し当てた。
外からは何かを破壊するような音、そして逃げまどう子供たちの声が聞こえてくる。
――来た。そして、目的は、俺だ!
俺がここにいる限り、子供たちが犠牲になってしまう。
俺がドアに手をかけたとき、外から扉がノックされた。
「ジュールさんっ、いいか、絶対に扉を開けちゃ駄目だよ!」
シスターの声。相手に悟られないためか、エディマの言葉で話しかけてくる。
「僕たちは大丈夫です! ですから、絶対にここを動かないでください」
シモンの声は冷静だった。
「駄目だよ、そんなこと、できない!」
俺は叫んだ。
いまもひっきりなしにあちこちから悲鳴が上がっている。
「大丈夫だ。私を誰だと思ってるんだい? これでも、一昔前じゃ、……んだよーー!!」
しかし、その声は大きな魔力の砲撃にかき消されてしまった。
「シスターっ、シモンっ!?」
呼びかけるが、返事はない。
しばらくすると、こちらにゆっくりと向かってくる足音が聞こえてきた。
「なぜ魔法が使える修道女がここにいる!? しかも、魔力の結界とは、なんと小癪な!
やはり、お前が諸悪の根源だな……。
ジュール・ダンデス! 隠れても無駄だ! そこにいるのはわかっている。この者たちの命が惜しければ、一刻も早く出てこい!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たくさんのエール!感想もありがとうございます。
とっても元気が出ました!
これからも更新がんばります。最終回まで駆け抜けていきます!!
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