【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
92 / 165

第92話 襲撃

しおりを挟む
 ランタンを空に飛ばしてから10日ほど経った日のことだった。その日も朝からとても暑かった。


 新しい依頼の打ち合わせだといって首都に出向いていたファウロスだったが、昼を過ぎてすぐに、慌てた様子で教会に戻ってきた。

「ファウロス、早かったね」

 俺は、畑で収穫した芋を入れた籠を手に、教会に戻るところだった。

 黒い外套をかぶったファウロスは無言で俺に近づくと、俺が持っていた籠をひったくった。

「ジュール、すぐに隠れろ!」

「は? 急に何? そんな怖い顔して、どうした……」

「いいから、早く!」


 ファウロスは俺の手を引くと、教会の地下へと続く階段を開けた。

 教会の地下室は貯蔵庫にもなっており、ひんやりとした室内には収穫した芋や豆類も置いてある。


「ここにしばらく隠れてるんだ。結界を張っておくが、誰が来ても絶対に扉を開けるなよ!」

 早口で言うと、ファウロスは合わせた手のひらに魔力をため始める。

「ちょっと、いきなりどういうことだよ! なんで、俺が……」

「俺にあんたを殺すように命じたあの男から接触があったんだ!
あんたの国で、なにか国を揺るがすような大きな動きがあったらしい。
そして、どういうわけか、あの男はあんたがこの国で生きていることを知ったようだ」

「……!」

「もう、すぐそこまで来てる。わかるんだ、なにかとてつもなく強い力を感じる。
俺一人で太刀打ちできるかどうか……、でも大丈夫だ、応援を呼ぶから、ジュールはここに隠れて一歩も出るな!
なにも、心配しなくていいから!」

 そう言いながらも、ファウロスの瞳はせわしなく揺れ、動揺しているのは明らかだった。

「ファウロス、俺、これ以上ファウロスに迷惑をかけられない! だから、俺は……」

「駄目だっ!」

 ファウロスは俺を抱きしめると、そのまま唇を重ねてきた。

「んっ……」

「駄目だ! あんたのことは俺が守る! 絶対に!
絶対に、誰にも、渡さないっ……」

 俺の首筋を強く吸うと、ファウロスは俺のピアスにも魔力を込めた。


「ファウロス……」

「お願いだ、お願いだから、ここにいてくれ。何も心配はいらないから……」

 ファウロスはあやすように俺の背中を撫でる。


「わかった……」

 俺はファウロスの耳のピアスにそっと触れる。


「いいか、ここを出れば結界は壊れる。だから、絶対にここから動くな」

 ファウロスは俺に念押しすると、慌ただしく部屋から出ていく。
 

「ファウロス、気を付けて! 絶対に無事で戻ってきて!」


 俺の言葉に、ファウロスは振り向きざまに微笑んだ。

「ああ、絶対に! 俺を誰だと思ってるんだよ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 地下室に隠れて数時間は何も起こらなかった。

 もしかしたらファウロスの勘違いなのかもしれない。
 俺のいた国とエディマでは、10年以上前から国交を断絶している。だから、たとえ国の重鎮であったとしても、簡単にはエディマには入ってこられない。

 俺は一人、部屋の隅で膝を抱えていた。

 もしファウロスの早とちりだったとしたら、あとしばらくすれば俺はここから出られるだろう。そうすれば俺は、いつものようにファウロスとシスター、子供たちと食卓を囲み、きっと夜には……。


 ダンダンダンッと強く壁をたたく断続的な音が響いた。

 そして、子供たちの悲鳴ーー。

 俺は思わず立ち上がり、扉に耳を押し当てた。


 外からは何かを破壊するような音、そして逃げまどう子供たちの声が聞こえてくる。

 ――来た。そして、目的は、俺だ!


 俺がここにいる限り、子供たちが犠牲になってしまう。

 俺がドアに手をかけたとき、外から扉がノックされた。


「ジュールさんっ、いいか、絶対に扉を開けちゃ駄目だよ!」

 シスターの声。相手に悟られないためか、エディマの言葉で話しかけてくる。


「僕たちは大丈夫です! ですから、絶対にここを動かないでください」

 シモンの声は冷静だった。


「駄目だよ、そんなこと、できない!」

 俺は叫んだ。
 いまもひっきりなしにあちこちから悲鳴が上がっている。


「大丈夫だ。私を誰だと思ってるんだい? これでも、一昔前じゃ、……んだよーー!!」

 しかし、その声は大きな魔力の砲撃にかき消されてしまった。


「シスターっ、シモンっ!?」

 呼びかけるが、返事はない。


 しばらくすると、こちらにゆっくりと向かってくる足音が聞こえてきた。


「なぜ魔法が使える修道女がここにいる!? しかも、魔力の結界とは、なんと小癪な!
やはり、お前が諸悪の根源だな……。
ジュール・ダンデス! 隠れても無駄だ! そこにいるのはわかっている。この者たちの命が惜しければ、一刻も早く出てこい!」











・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たくさんのエール!感想もありがとうございます。
とっても元気が出ました!
これからも更新がんばります。最終回まで駆け抜けていきます!!
ありがとうございました。皆様の応援に感謝です♡


しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...