【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
91 / 165

第91話 魔法のランタン

しおりを挟む
 気づくとこのエディマに来てから、あっという間に2年と数か月が過ぎていた。

 この国の言葉も、日常会話くらいなら理解できるようになった。
 教会の仕事を手伝う傍ら、ファウロスに言われて子供たちに簡単な算術や自分の国の言葉を教えたりもする。
 畑仕事も板についてきて、定期的にベッドを共にしているファウロスによると、ここに来たころと比べると俺もすこしは逞しい体つきになったらしい。 

 肌は日に焼け、クセで波打つ髪は背中の半分近くまで伸びて、ファウロスに貰った紐で束ねている。

 この国では男も女も髪を伸ばしている。俺が育った国では、男は短髪が普通で、長髪にしているものの多くは魔導士やそれに準じた職業に就くものだ。
 屋敷に理髪師が習慣的に来るのが当たり前だった俺は、この国に来て髪を整えるのにも金がかかることを知った。
 エディマで生活して俺は、今まで俺がいた環境で当たり前だったすべてのことが、それはとても貴重で、とても恵まれていたということを実感した。



「ジュールさん、こっちだよ!」

 シモンが俺の手を引く。

 ポルの村では祭りがおこなわれていた。
 村の中心部には、たくさんの屋台がでており、あちこちからいい匂いがしてくる。

 厚切りの肉や、揚げ菓子、果物や飴といった食べ物の店だけではなく、子どもが喜ぶような玩具を扱う店もたくさんあった。

 俺は教会の子供たちを連れて、あちこちを見て回る。

 光る石の店をのぞき込んでいると、後ろから肩をたたかれた。


「あら、ジュールじゃない。ねえ、ファウロスとはいつ別れるの?」

 祭りのために着飾った村の娘たちが数人、あっという間に俺を取り囲む。


「ははっ、今のところまだ予定はない、かな?」

「いい加減、ファウロスを自由にしてよ!」

「そうよ! ファウロスはみんなのものなんだから!」

「えーっと……」

 こんな感じで、俺が村を歩いていると、よく女性たちに冗談交じりに絡まれる。


 それもこれも、ファウロスが俺のことを『真剣につきあっている唯一無二の恋人』だと周りに宣言しているせいだ。
 実際のところ、身体の関係があるとはいえ、ファウロスと俺とは恋人といった甘ったるい関係ではない。
 あえて言うならば、同士や相棒といった関係が近いだろう。だがそんな言い訳は女性たちには通用するはずもなく……。

「おいおい、やめておけよ。見ててわかるだろ。どっちかってーと、ファウロスの方がジュールに夢中なんだよ!」

 店の男が、にやにやしながらひげを撫でる。
 
「うそよ! この男、絶対ファウロスに悪い魔法をかけたんだよ!」
「じゃなきゃ、あんなに女好きだったファウロスが男に夢中になるわけなんてない!」
「ジュール、早くファウロスにかけた魔法をといてよ!」

「えっと、俺は魔法が使えるほど魔力はなくて……」

 女たちの迫力に、俺は一歩後ずさる。

 ファウロスの恋人だと周知されることで、俺はその辺の男に絡まれる心配もないし、方々の店でもいろいろとサービスされたりとありがたいことも多い。

 だが、村の娘たちや、娼館の女性たちの俺への当たりは確実にキツくなっている!!!!


「ジュールさん、ほら、あっち! ランタンの店が出てるよ!」

 シモンが俺の手を引き、女性たちのなかから引っ張り出してくれた。

「あっ、ちょっと!」
「まだ話は終わってないんだから!」
「ファウロスにたまには店に来るよう言っておいてよ!」


「お姉さんたち、またね!」

 いつも気の利くシモンは、こうして俺をいつも助けてくれる頼りになる存在だった。




 シモンは、魔法の火で灯すランタンの店に、俺を連れて行った。

「このランタンに想いを乗せて飛ばすと、大切な人のもとに届けてくれるって言われているんです」

「へえ、すごくきれいだね」

 臙脂のベールをかぶった初老の女性が、俺に一つのランタンを差し出してくる。

「うちのランタンは特別だよ。世界中どこへでも、想い人に愛を届けられるんだから。その上、愛が実ること間違いなし!
お兄さんも、おひとついかが?」

「世界中……、どこにでも……」

 この小さなランタンが、まさか本当に砂漠を超えることなどできないだろう。手に取ったこのランタン自体にも、魔力はそれほど感じられない。
 おそらくこのランタンは、ちょっとしたおまじないや願掛けといった側面が強いのだろう。

 でも……。

 今のところ国に戻る何の手立てもない俺は、このランタンにとても心惹かれた。
 もし、このランタンが砂漠を超え、テオドールの元に届けば……。


 ――俺の気持ちが、伝えられるだろうか?


「一つ、ください」

 俺の代わりに、シモンが銅貨を店の女性に渡していた。

「はい、ジュールさん。これで、ジュールさんの国の大切な人に、想いを届けて」

「でも、シモン、もっと他に欲しいものは……?」

 シモンは首を振って、俺にランタンを押し付ける。

「僕からのプレゼントだよ」

「シモン……、ありがとう」

 俺はシモンの優しさを素直に受け取ることにした。



「ランタンに乗せられるメッセージは一言だけだよ。届けたい人を思い浮かべて、魔力を込めて。
その想いが強ければ強いほど、ランタンは高く上がっていくよ!」

 店の女性の説明に、俺は頷き魔力を込める。

 ――俺にもっと力があれば、遥かかなたまで、ランタンを飛ばすことができるのに……!

「そうそう、その調子だよ! いいねえ、ゾクゾクしてきたよ!
じゃあ、私からもサービスだよ。
火力強めで熱く、もっと熱く……、高く高く、飛ぶように……、さ、メッセージを乗せるんだ!」


 俺の持つランタンに、思いのほか強い魔力が店の女性から注ぎ込まれる。
 それと同時に、俺はきつく目を閉じ、指先に力を集める。


 『――大好きだよ』


 ランタンに熱い魔力がたまるのを待って、俺は両手を高く上げた。
 そっと手を離すと、ランタンは上空へ高く、高くのぼっていった。


 ――この想いが、どうか届きますように。



 






しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...