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第81話 同郷の輩
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「そうと決まれば話は早い! ジュール立てるか?
さっそくみんなに紹介するよ」
ファウロスが俺の手を取ってベッドから立たせてくれた。
だが、やはり昏睡していたというだけあって足元がかなりふらふらする。
そんなおぼつかない足取りの俺を、ファウロスは支えてくれた。
そんな俺たちに、小さな子供たちもがあとから続いた。
「ここは……、教会?」
俺のいた部屋は二階にあった。せまい階段を下りて外へでると、同じ敷地内に古びた教会があった。
「そう。今いたところが、俺たちが住んでいるところ。まあ、寝場所しかない狭い小屋みたいな家だけど……、教会の奥には食堂があるからメシはそこね。裏には井戸があるから、水浴びするんだったらあとで案内するよ」
「うん……」
俺の頬にあたる熱く乾いた風に、ここはエディマなんだと改めて実感する。
踏みしめる大地も、俺がいた国とは全く違う赤い砂で覆われていた。
砂漠に近いこの国は、1年中を通して熱く、荒れた土地のため食物があまり育たないと聞く。
緑や草花が常にそばにあった俺がいた国とは全く違い、砂漠に近いこの土地は、どこか無機質で乾いた印象だった。
「ジュールの国にも、教会はあるよな? この国は、もともと多神教で、他宗教についても寛容なんだ。礼拝に通ってくれるとシスターも喜ぶよ。俺は不真面目だから怒られてばっかりでさ」
ファウロスは俺の背中を押すと、教会の扉をあけた。
「わあ……!」
古びた石造りの教会は、とても趣があった。天窓のステンドグラスから、光が漏れている。
「由緒ある教会なんだけど、維持するにはなかなかね……」
ファウロスはつぶやく。たしかに、あちこちにガタがきているのだろう。床は今にも踏み抜かれそうだったし、扉は、奇妙な音を立てて閉まった。
「シスター、いる?」
ファウロスはチャペルをつっきると、脇の扉を開けて呼びかけた。
「いるよー!」
奥から女性の声がして、ほどなくするとシスターがあらわれた。50代くらいの優しそうな人だった。
肌は白く、瞳と髪は灰色だ。おそらく……、この国の人間ではない。
「新しい客だ。丁重にもてなしを頼むよ!」
「ったく、ついには大人の男まで連れてくるとは……!
それに、こんなむさくるしいところでどうもてなすっていうんだよ! あらあら、ようこそ。
ゆっくりしていってくださいね。本当に、何もないところですけど」
シスターは俺に微笑みかける。
「あのっ、ジュール・ダンデスです! このたびはお世話になります」
「まあまあ、品の良いこと。さすが、貴族のお坊ちゃまは違うわね」
「出自の悪いみなしごで悪かったな!」
ファウロスが悪態をつく。
「お腹が空いてるんじゃない? スープでよかったら鍋にあるよ」
シスターの言葉に、俺の腹はぐぅーとなった。
――身体は正直だ。
豆の入ったスープで腹を満たした俺は、ファウロスに身の回りのものを買いに行くように言われた。
「シモン、町まで案内してやれ。ジュール、こいつはシモン。あんたとは同郷だよ。
通訳にもなるし、歳のわりにしっかりしたやつだからわかんないことがあったらコイツに聞いて!」
ファウロスに髪をくしゃくしゃにされた少年が、真面目な顔つきで俺に近づいてきた。
「よろしく……、ジュールさん」
――あ、この子、俺に水を差しだしてくれた子だ。
日焼けをしているが、もとは白い肌に、栗色の髪、濃い群青の瞳のシモン。
――彼はなぜ、ここにいるのだろう……。
シモンに案内されて、敷地の出口で待っていると、シモンがロバを引いてきた。
「どうぞ、乗ってください」
「へ?」
「は?」
俺とシモンは二人で顔を見合わせた。
「……なんで、俺が乗るの?」
「ジュールさんは、貴族で……、大切なお客様だから……」
「シモンは何歳?」
「9歳、ですけど……」
「じゃあ、シモンが乗って」
俺はロバの手綱を引いた。
「困ります……っ、だって、僕は……」
俺はシモンの両脇に手を入れてその小さな体を持ち上げると、無理矢理ロバに乗せた。
「さ、出発! っていうか、どっちに行けばいいの?」
「……こっちです」
町までは意外に距離が長く、俺はロバに乗らなかったことをちょっとだけ後悔した……。
こんなこと、シモンには絶対言えないけど……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
エディマの町は、白い石で作られた町だった。
熱い気候のせいか、老若男女を問わず、白い外套を頭からかぶって、日差しをよけている。
皆一様に褐色の肌に黒髪黒目をしており、当然俺とシモンは町でも目立っていた。
シモンは町で一番高級だという洋品店に俺を案内した。
「どうぞ、好きなものを買ってください。ファウロスに、ジュールさんの欲しいものは何でも買うように言われています」
「……」
洋品店の中は、他の店とは違い、いま俺が着ているようなタイプの服も売っているようだった。生地もさらさらしていて、町にいる人たちが着ている衣服とは明らかに質が違う。
「あのさ、俺、別に服にはこだわりがないんだ。だから、買うなら町のみんなが着ているような感じのヤツがいいかな」
「でも……」
シモンが不安げに俺を見る。
「ほら、今シモンが着てるみたいな、ざっくりした感じのシャツがほしいな。風が通って涼しそうだし。
あと、このズボンだと暑いから、町の人たちがはいてたみたいな丈が短めのズボンもほしい。
このブーツもここの気候には合わないから、サンダルもあると助かる」
「そんなの……、駄目ですっ!!」
なぜか涙目になったシモンが抱き着いてきた。
「シモン?」
「ジュールさんにはいっぱい贅沢して、ここでも優雅に暮らしてもらわないと、困るんですっ!!」
シモンはしゃくりあげる。
「へ……? なんで?」
シモンはぎゅっと俺の背中のシャツを握り締めた。
「ジュールさんごめんなさい! ジュールさんがここに来たのは、もとはといえば、僕のせいなんですっ!」
さっそくみんなに紹介するよ」
ファウロスが俺の手を取ってベッドから立たせてくれた。
だが、やはり昏睡していたというだけあって足元がかなりふらふらする。
そんなおぼつかない足取りの俺を、ファウロスは支えてくれた。
そんな俺たちに、小さな子供たちもがあとから続いた。
「ここは……、教会?」
俺のいた部屋は二階にあった。せまい階段を下りて外へでると、同じ敷地内に古びた教会があった。
「そう。今いたところが、俺たちが住んでいるところ。まあ、寝場所しかない狭い小屋みたいな家だけど……、教会の奥には食堂があるからメシはそこね。裏には井戸があるから、水浴びするんだったらあとで案内するよ」
「うん……」
俺の頬にあたる熱く乾いた風に、ここはエディマなんだと改めて実感する。
踏みしめる大地も、俺がいた国とは全く違う赤い砂で覆われていた。
砂漠に近いこの国は、1年中を通して熱く、荒れた土地のため食物があまり育たないと聞く。
緑や草花が常にそばにあった俺がいた国とは全く違い、砂漠に近いこの土地は、どこか無機質で乾いた印象だった。
「ジュールの国にも、教会はあるよな? この国は、もともと多神教で、他宗教についても寛容なんだ。礼拝に通ってくれるとシスターも喜ぶよ。俺は不真面目だから怒られてばっかりでさ」
ファウロスは俺の背中を押すと、教会の扉をあけた。
「わあ……!」
古びた石造りの教会は、とても趣があった。天窓のステンドグラスから、光が漏れている。
「由緒ある教会なんだけど、維持するにはなかなかね……」
ファウロスはつぶやく。たしかに、あちこちにガタがきているのだろう。床は今にも踏み抜かれそうだったし、扉は、奇妙な音を立てて閉まった。
「シスター、いる?」
ファウロスはチャペルをつっきると、脇の扉を開けて呼びかけた。
「いるよー!」
奥から女性の声がして、ほどなくするとシスターがあらわれた。50代くらいの優しそうな人だった。
肌は白く、瞳と髪は灰色だ。おそらく……、この国の人間ではない。
「新しい客だ。丁重にもてなしを頼むよ!」
「ったく、ついには大人の男まで連れてくるとは……!
それに、こんなむさくるしいところでどうもてなすっていうんだよ! あらあら、ようこそ。
ゆっくりしていってくださいね。本当に、何もないところですけど」
シスターは俺に微笑みかける。
「あのっ、ジュール・ダンデスです! このたびはお世話になります」
「まあまあ、品の良いこと。さすが、貴族のお坊ちゃまは違うわね」
「出自の悪いみなしごで悪かったな!」
ファウロスが悪態をつく。
「お腹が空いてるんじゃない? スープでよかったら鍋にあるよ」
シスターの言葉に、俺の腹はぐぅーとなった。
――身体は正直だ。
豆の入ったスープで腹を満たした俺は、ファウロスに身の回りのものを買いに行くように言われた。
「シモン、町まで案内してやれ。ジュール、こいつはシモン。あんたとは同郷だよ。
通訳にもなるし、歳のわりにしっかりしたやつだからわかんないことがあったらコイツに聞いて!」
ファウロスに髪をくしゃくしゃにされた少年が、真面目な顔つきで俺に近づいてきた。
「よろしく……、ジュールさん」
――あ、この子、俺に水を差しだしてくれた子だ。
日焼けをしているが、もとは白い肌に、栗色の髪、濃い群青の瞳のシモン。
――彼はなぜ、ここにいるのだろう……。
シモンに案内されて、敷地の出口で待っていると、シモンがロバを引いてきた。
「どうぞ、乗ってください」
「へ?」
「は?」
俺とシモンは二人で顔を見合わせた。
「……なんで、俺が乗るの?」
「ジュールさんは、貴族で……、大切なお客様だから……」
「シモンは何歳?」
「9歳、ですけど……」
「じゃあ、シモンが乗って」
俺はロバの手綱を引いた。
「困ります……っ、だって、僕は……」
俺はシモンの両脇に手を入れてその小さな体を持ち上げると、無理矢理ロバに乗せた。
「さ、出発! っていうか、どっちに行けばいいの?」
「……こっちです」
町までは意外に距離が長く、俺はロバに乗らなかったことをちょっとだけ後悔した……。
こんなこと、シモンには絶対言えないけど……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
エディマの町は、白い石で作られた町だった。
熱い気候のせいか、老若男女を問わず、白い外套を頭からかぶって、日差しをよけている。
皆一様に褐色の肌に黒髪黒目をしており、当然俺とシモンは町でも目立っていた。
シモンは町で一番高級だという洋品店に俺を案内した。
「どうぞ、好きなものを買ってください。ファウロスに、ジュールさんの欲しいものは何でも買うように言われています」
「……」
洋品店の中は、他の店とは違い、いま俺が着ているようなタイプの服も売っているようだった。生地もさらさらしていて、町にいる人たちが着ている衣服とは明らかに質が違う。
「あのさ、俺、別に服にはこだわりがないんだ。だから、買うなら町のみんなが着ているような感じのヤツがいいかな」
「でも……」
シモンが不安げに俺を見る。
「ほら、今シモンが着てるみたいな、ざっくりした感じのシャツがほしいな。風が通って涼しそうだし。
あと、このズボンだと暑いから、町の人たちがはいてたみたいな丈が短めのズボンもほしい。
このブーツもここの気候には合わないから、サンダルもあると助かる」
「そんなの……、駄目ですっ!!」
なぜか涙目になったシモンが抱き着いてきた。
「シモン?」
「ジュールさんにはいっぱい贅沢して、ここでも優雅に暮らしてもらわないと、困るんですっ!!」
シモンはしゃくりあげる。
「へ……? なんで?」
シモンはぎゅっと俺の背中のシャツを握り締めた。
「ジュールさんごめんなさい! ジュールさんがここに来たのは、もとはといえば、僕のせいなんですっ!」
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