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第76話 王女の婚約者
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「なるほどな、だからテオドールのヤツ、学園であんなに機嫌が悪かったんだな……」
目の前のオーバンは、あきれたように俺を見る。
俺はうつむき、目の前のジャムクッキーに手を伸ばした。
「で、ケンカの原因は何だよ?」
俺は思わず、クッキーをのどに詰まらせそうになる。
「む、……言えない」
結局あれから5日たった今も、テオドールとはちゃんと話せていない。
どんなことがあっても続いていた、行ってきますとおかえりなさいのハグだってなくなっている。
「どうせ、くだらないことなんだろ? さっさと仲直りしろよ! こっちも迷惑なんだよな。あいつがむすっとしてるとシャルロットたちもうるさいし」
「ゴメン……」
「はーっ、そんな顏するくらいなら、ジュールから折れてやれよ! どうせあいつはジュール叔父様のことなら全肯定なんだからさ!
ごめんねって可愛く言って、頬っぺたをすりすりしてやればすぐに機嫌直るだろ!」
「でも、今回はそう簡単にはいかなさそうなんだよね……」
俺は紅茶のカップをそっと指で撫でた。
なんだかんだいって、オーバンとのこの「秘密の会合」もずいぶん長い間続いている。月に1回程度こうして秘密裡にお茶をしているだけなのだが、オーバンから聞けるテオドールでの学園での活躍ぶりは、俺にとっては貴重な情報だった。
「あーあ、……ったく、どいつもこいつも……、俺だって今大変な目に遭ってるってのに」
オーバンは天井を仰ぐ。
どうやらオーバンは甘いものが苦手らしい。だが、毎回俺のために、テーブルの上にはたくさんのお菓子を用意してくれている。そういうところもとても好感がもてるが、あいかわらずシャルロット王女の前ではなかなか素直になれないらしく、いつも俺は王女の愚痴を聞かされている。
「シャルロット殿下と何かあったの?」
俺の言葉に、オーバンはめずらしく顔を曇らせた。
「あのさ、俺、シャルロットの婚約者をおろされるかもしれない」
「おろされる……?」
オーバンは神妙な顔をして頷いた。
「シャルロットの魔力が規格外ってのは知ってるよな? だが、シャルロットは自身は、自分の魔力の強大さについてはあまり頓着していないらしい。最近はあんたやテオドールを追いかけまわすのに夢中だからな。国王陛下も、シャルロットが幸せならそれでいいっていう考えだ。だが、古参の大臣たちの考えは違う。シャルロットは国の宝だ、とかなんとかいって、昔から信奉してるんだ。そして、その魔力をシャルロットの子どもに引き継がすのが、自分たちの使命だ、とかなんとか……。で、家柄は良くても、魔力量はそこそこしかない俺は、シャルロットの結婚相手としては不足なんだってさ……」
「そんな、酷い……!」
まるでシャルロット王女とその子どもを、自分たちのために利用しようとしているように聞こえる。
「最近シャルロットの魔力量がさらに増えたんだ。多分、成長が止まる20歳過ぎくらいまでは増え続けるんじゃないかな? それを知った大臣の爺さんたちは大喜びでさ! 最近じゃ、シャルロットのことを聖女扱いしてるんだ。やばいよ、アイツら、マジで……。だから今王宮では、シャルロットの新しい婚約者として、魔力の強い魔導士たちの名前があがってる……。家柄や血筋よりも、魔力の継承を優先させるべきだってね」
「勝手に婚約者を代えるなんて! シャルロット殿下の気持はどうなるんだよっ!」
俺は思わず大声を出していた。
オーバンはため息をつく。
「今はまだ水面下で動いているだけだが、そのうち、国王陛下に進言するやつがでてくるだろう。俺の父上は絶対に反対するって言ってたけど、どうなるか……」
「オーバン君のシャルロット殿下への気持は本物だよ! 俺が証明するっ!」
オーバンは俺の手を取った。
「ありがとう、ジュール。やっぱりあんただけだよ。俺のことをわかってくれてるのは!」
「オーバン君っ! 俺はいつも君の味方だよ!」
俺たちはしっかり手を握り合った。
――だが、そんな俺たち二人の真の目的は、テオドールとシャルロット王女の結婚なのだから、まったくもって訳が分からない……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰り際にオーバンに念を押された。
「ジュール、あんたも身の回りには気を付けた方がいい。あんまり一人で出歩かない方がいいぞ。
王都に出るときは、護衛にテオドールを連れて行くように!」
「またまたぁ、大げさだなあ、オーバン君は! 俺なんて、誰に狙われるんだよ!」
へらりと笑う俺に、オーバンは怖い顔をした。
「学園ではシャルロットに言い寄ってた男がつぎつぎ尋問にかけられてるんだ。まあどれも、大事にはなってないみたいだけど……。
あんたが思ってるより、ことは重大だぞ!」
「……わかった。気を付けるよ、オーバン君」
だが、その時の俺は、オーバンに言われたことをたいして気に留めておらず、他人事のように感じていた。
――だから結局、オーバンの警告を無視した俺は、取り返しのつかない事態に巻き込まれることになってしまったのだ……。
目の前のオーバンは、あきれたように俺を見る。
俺はうつむき、目の前のジャムクッキーに手を伸ばした。
「で、ケンカの原因は何だよ?」
俺は思わず、クッキーをのどに詰まらせそうになる。
「む、……言えない」
結局あれから5日たった今も、テオドールとはちゃんと話せていない。
どんなことがあっても続いていた、行ってきますとおかえりなさいのハグだってなくなっている。
「どうせ、くだらないことなんだろ? さっさと仲直りしろよ! こっちも迷惑なんだよな。あいつがむすっとしてるとシャルロットたちもうるさいし」
「ゴメン……」
「はーっ、そんな顏するくらいなら、ジュールから折れてやれよ! どうせあいつはジュール叔父様のことなら全肯定なんだからさ!
ごめんねって可愛く言って、頬っぺたをすりすりしてやればすぐに機嫌直るだろ!」
「でも、今回はそう簡単にはいかなさそうなんだよね……」
俺は紅茶のカップをそっと指で撫でた。
なんだかんだいって、オーバンとのこの「秘密の会合」もずいぶん長い間続いている。月に1回程度こうして秘密裡にお茶をしているだけなのだが、オーバンから聞けるテオドールでの学園での活躍ぶりは、俺にとっては貴重な情報だった。
「あーあ、……ったく、どいつもこいつも……、俺だって今大変な目に遭ってるってのに」
オーバンは天井を仰ぐ。
どうやらオーバンは甘いものが苦手らしい。だが、毎回俺のために、テーブルの上にはたくさんのお菓子を用意してくれている。そういうところもとても好感がもてるが、あいかわらずシャルロット王女の前ではなかなか素直になれないらしく、いつも俺は王女の愚痴を聞かされている。
「シャルロット殿下と何かあったの?」
俺の言葉に、オーバンはめずらしく顔を曇らせた。
「あのさ、俺、シャルロットの婚約者をおろされるかもしれない」
「おろされる……?」
オーバンは神妙な顔をして頷いた。
「シャルロットの魔力が規格外ってのは知ってるよな? だが、シャルロットは自身は、自分の魔力の強大さについてはあまり頓着していないらしい。最近はあんたやテオドールを追いかけまわすのに夢中だからな。国王陛下も、シャルロットが幸せならそれでいいっていう考えだ。だが、古参の大臣たちの考えは違う。シャルロットは国の宝だ、とかなんとかいって、昔から信奉してるんだ。そして、その魔力をシャルロットの子どもに引き継がすのが、自分たちの使命だ、とかなんとか……。で、家柄は良くても、魔力量はそこそこしかない俺は、シャルロットの結婚相手としては不足なんだってさ……」
「そんな、酷い……!」
まるでシャルロット王女とその子どもを、自分たちのために利用しようとしているように聞こえる。
「最近シャルロットの魔力量がさらに増えたんだ。多分、成長が止まる20歳過ぎくらいまでは増え続けるんじゃないかな? それを知った大臣の爺さんたちは大喜びでさ! 最近じゃ、シャルロットのことを聖女扱いしてるんだ。やばいよ、アイツら、マジで……。だから今王宮では、シャルロットの新しい婚約者として、魔力の強い魔導士たちの名前があがってる……。家柄や血筋よりも、魔力の継承を優先させるべきだってね」
「勝手に婚約者を代えるなんて! シャルロット殿下の気持はどうなるんだよっ!」
俺は思わず大声を出していた。
オーバンはため息をつく。
「今はまだ水面下で動いているだけだが、そのうち、国王陛下に進言するやつがでてくるだろう。俺の父上は絶対に反対するって言ってたけど、どうなるか……」
「オーバン君のシャルロット殿下への気持は本物だよ! 俺が証明するっ!」
オーバンは俺の手を取った。
「ありがとう、ジュール。やっぱりあんただけだよ。俺のことをわかってくれてるのは!」
「オーバン君っ! 俺はいつも君の味方だよ!」
俺たちはしっかり手を握り合った。
――だが、そんな俺たち二人の真の目的は、テオドールとシャルロット王女の結婚なのだから、まったくもって訳が分からない……。
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帰り際にオーバンに念を押された。
「ジュール、あんたも身の回りには気を付けた方がいい。あんまり一人で出歩かない方がいいぞ。
王都に出るときは、護衛にテオドールを連れて行くように!」
「またまたぁ、大げさだなあ、オーバン君は! 俺なんて、誰に狙われるんだよ!」
へらりと笑う俺に、オーバンは怖い顔をした。
「学園ではシャルロットに言い寄ってた男がつぎつぎ尋問にかけられてるんだ。まあどれも、大事にはなってないみたいだけど……。
あんたが思ってるより、ことは重大だぞ!」
「……わかった。気を付けるよ、オーバン君」
だが、その時の俺は、オーバンに言われたことをたいして気に留めておらず、他人事のように感じていた。
――だから結局、オーバンの警告を無視した俺は、取り返しのつかない事態に巻き込まれることになってしまったのだ……。
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