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第65話 オーバンのたくらみ
しおりを挟む「『キスしないと出られない部屋』だってぇ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「しっ、テオドールの気配が近づいてくる。もう時間がないぞ!」
「その遊び、まだ学園で流行ってるの?」
俺の言葉に、オーバンは目を丸くした。
「え? ジュールも知ってるのか?」
「知ってるも何も、俺が学園に通ってたころも、パーティの定番でさ。チャラい奴らがよくやってた悪戯だよ」
――ま、地味な俺は常に蚊帳の外でしたけどね。
意中の可愛い女の子とどうしてもキスしたい男子が、その魔法部屋で女の子とキスできるかできないかっていうので、男子たちが盛り上がっていたのを思い出す。
「あいつら二人だってまんざらじゃないはずだ。そういう状況をお膳立てしてやれば、喜んでキスくらいするだろ」
「そうなのかな……」
俺が首を傾げたその時、ドンドンドンと破壊されるかとおもうほど強く扉が叩かれた。
「おいっ、オーバンっ、そこにいるのはわかってるんだ! 叔父様っ、ご無事ですかっ!?
オーバンっ、命が惜しければすぐこのドアを開けろ!!」
腹の底に響くようなテオドールの声。
――テオドールってこんな怖い声も出せるんだ……。
「ちっ、まったく、アイツは過保護すぎる! シャルロットのためにも、早く叔父様離れさせないとな!」
オーバンの瞳がいたずらっぽく光る。
「ねえ……、オーバン君、俺、今すごーく嫌なこと考えちゃったんだけど……」
「なに、ジュール? 何でも言って」
こそこそと二人で話している間も、扉は今にも破られそうな勢いだ。だが、オーバンの結界が張られているため、おそらく扉が開くことはない……はず。
「くそっ、オーバンっ、卑怯だぞっ、結界を張って叔父様に何をする気だっ!? 指一本でも触れてみろ! ただでは済まさないからな!」
テオドールの怒号に、俺の胸は痛んだ。
「ここってもしかして、もうすでに『キスしないと出られない部屋』になってるの? だとしたら、俺たちは……」
不吉な考えに俺は背筋が寒くなる。
そんな俺に、オーバンはふっと軽く笑った。
「ジュール、俺はまだこの部屋の魔法を発動させてないよ。でも、アンタがそんなにも俺とキスしたいっていうなら、ここで一回、しておく?」
後ろ首を不意につかまれ、俺は喉の奥で悲鳴を上げる。
「ヒっ……、い、いや、いいですっ、大丈夫っ、全然」
「もったいぶるなよ。いいだろ、婚約者なんだから、キスの一つや二つ……」
オーバンの可愛らしい唇が、俺の唇に迫る。
「いやっ、ダメっ! 駄目だよっ、こんなのっ、絶対……!!」
ドゴォオオオオン!!!!
地鳴りなのかというものすごい音とともに、ついに扉が開かれた。
「テオ!!」
「オーバン、貴様っ、殺すっ!!!!」
――武力と迫力で、魔法で張った結界を破れるということを、俺はその時はじめて知ったのだった。
怒りに満ちたテオドールが、オーバンに近づいてくる。
――やばいっ、このままじゃ本当にオーバン君が亡き者にされてしまうっ!!
俺はオーバンをかばおうと、オーバンの前に立つ。
「待てっ、テオドールっ! 早まるな!」
「叔父様……、なぜこんな狼藉者をかばうのですかっ!? 叔父様はやっぱりオーバンのことが……っ」
ぎりぎりと歯ぎしりするテオドール。完全に正気を失っている!!
「違うって、テオ、オーバン君とは何でもないから、だから、落ち着いてっ、ねっ!!」
「落ち着いてなどいられませんっ! あんなにオーバンと密着して、叔父様はいったい何を……っ!?」
と、その時、
「まあああああああ!!!! これはいったい何の騒ぎなの? これからパーティだっていうのに扉を壊したのは誰っ!?
今すぐ説明しなさいっ、ジュールっ!!」
テオドールの背後から甲高い声が上がる。
――怒りに満ちたテオドールよりもさらに恐ろしい、シャンタルお姉様の登場だった。
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