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第62話 甘い錯覚
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「ジュール」
何を思ったのか、エリオットは立ち上がると、ソファの俺の隣に密着して腰掛けてきた。
「な、なんでしょう?」
藍色の強い瞳が、俺のすぐそばにある。
「お前は、どう思っている? つまり、その……、俺とこういう関係になったこと、について、だ」
俺は少し顎を引いた。
「えっ、そりゃ、もちろん、すごく、ありがたく、思っています。だって、エリオット先輩はご自身の呪いの研究のためと言えども、俺なんかを相手に、ああいうことをしてくださって、俺にとってはいわば命の恩人ですし……」
自ら身を挺して研究に取り組むエリオット。
なにが悲しゅうて俺様が学園時代のショボい男の後輩を抱かなければならないのだろうかと文句も言わず、俺の中に精を注いでくれているのだ。
「その、お前は……、嫌ではないのか? 俺と、こういうことをして……」
珍しく口ごもるエリオット。
「え? 嫌とか、そんなの全然ないですよ。本当に、ご迷惑をおかけして、申し訳ないというか……。
むしろ、こんなに良くしていただいて……」
――むしろ嫌なのはエリオットの方だろう。
「ジュール、気持ちがいいか? 俺とのセックスは」
「……ぐ、う……、は、はい。とても……」
こんな風に感想を直接求めないでほしい!! 恥ずかしすぎるから!!
かあーっと赤くなった俺の頬を包み込むと、エリオットはそのままキスしてきた。
「せんぱ……!」
きつく抱きしめられて、深く口づけられる。
「もっと、口を開けて……」
「む、あ、ふぅっ……」
なんだよこんな、優しくて蕩けそうで、まるで、まるで……、恋人同士みたいな、愛してるよ、みたいなキス!!
「ジュール、俺とのキスは、気持ちいいか?」
「あ、ん……、気持ちいい……」
上あごを舐められ、歯列をなぞられ、俺は身体を震わせた。
そんな俺に、エリオットは自分の指を俺の指に絡めてくる。
――こんなの、恋人つなぎじゃん!
こんなことしながら、深いキスを続けていると、まるで、こんなの……。
「ジュール……」
「ん……、エリオット、先輩……」
甘くささやかれると、俺の目の前にいるのは、もしかしたら俺の恋人なのではないかと錯覚してしまう。
長すぎるキスですっかり蕩け切ってしまったところで、エリオットは俺から身体を離した。
「芝居を見に行くのが好きだそうだな?」
エリオットは自分のデスクから、紺色の封筒を取り出した。
「ええ、俺が好きというより、どちらかというとテオドールが……」
「仕事柄、チケットを譲り受けることが多い。俺は普段はあまり芝居には興味がないのだが……」
差し出された封筒を開けてみると、今話題の舞台のチケットが2枚入っていた。
「わあ! これ、観に行きたいと思っていた舞台です! でもなかなかチケットがとりづらくて!」
「よければ、どうだ、今度……」
「いいんですか! うれしいです! テオドールと観に行ってきますね!」
「……は?」
藍色の瞳が、凍り付く。
「え!?」
なにか俺は変なことを言ってしまったのだろうか。
「いや、いい……。テオドール……、そうか、甥っ子の面倒をみていたんだな。
連れて行ってやるといい」
エリオットはくしゃりと俺の頭を撫でた。
「はい、ありがとうございます」
――俺は気づいていなかった。
俺に大切な人がいるように、エリオットにももちろん大切な人がいたことに。
でも未熟な俺は、いつも自分の目の前のことに夢中で、周りのことまで目を配ったり、心を寄せたりすることをしなかった。
だから、俺は……、いつも自分勝手に、周りの人をそうとは知らず傷つけていたんだ……。
何を思ったのか、エリオットは立ち上がると、ソファの俺の隣に密着して腰掛けてきた。
「な、なんでしょう?」
藍色の強い瞳が、俺のすぐそばにある。
「お前は、どう思っている? つまり、その……、俺とこういう関係になったこと、について、だ」
俺は少し顎を引いた。
「えっ、そりゃ、もちろん、すごく、ありがたく、思っています。だって、エリオット先輩はご自身の呪いの研究のためと言えども、俺なんかを相手に、ああいうことをしてくださって、俺にとってはいわば命の恩人ですし……」
自ら身を挺して研究に取り組むエリオット。
なにが悲しゅうて俺様が学園時代のショボい男の後輩を抱かなければならないのだろうかと文句も言わず、俺の中に精を注いでくれているのだ。
「その、お前は……、嫌ではないのか? 俺と、こういうことをして……」
珍しく口ごもるエリオット。
「え? 嫌とか、そんなの全然ないですよ。本当に、ご迷惑をおかけして、申し訳ないというか……。
むしろ、こんなに良くしていただいて……」
――むしろ嫌なのはエリオットの方だろう。
「ジュール、気持ちがいいか? 俺とのセックスは」
「……ぐ、う……、は、はい。とても……」
こんな風に感想を直接求めないでほしい!! 恥ずかしすぎるから!!
かあーっと赤くなった俺の頬を包み込むと、エリオットはそのままキスしてきた。
「せんぱ……!」
きつく抱きしめられて、深く口づけられる。
「もっと、口を開けて……」
「む、あ、ふぅっ……」
なんだよこんな、優しくて蕩けそうで、まるで、まるで……、恋人同士みたいな、愛してるよ、みたいなキス!!
「ジュール、俺とのキスは、気持ちいいか?」
「あ、ん……、気持ちいい……」
上あごを舐められ、歯列をなぞられ、俺は身体を震わせた。
そんな俺に、エリオットは自分の指を俺の指に絡めてくる。
――こんなの、恋人つなぎじゃん!
こんなことしながら、深いキスを続けていると、まるで、こんなの……。
「ジュール……」
「ん……、エリオット、先輩……」
甘くささやかれると、俺の目の前にいるのは、もしかしたら俺の恋人なのではないかと錯覚してしまう。
長すぎるキスですっかり蕩け切ってしまったところで、エリオットは俺から身体を離した。
「芝居を見に行くのが好きだそうだな?」
エリオットは自分のデスクから、紺色の封筒を取り出した。
「ええ、俺が好きというより、どちらかというとテオドールが……」
「仕事柄、チケットを譲り受けることが多い。俺は普段はあまり芝居には興味がないのだが……」
差し出された封筒を開けてみると、今話題の舞台のチケットが2枚入っていた。
「わあ! これ、観に行きたいと思っていた舞台です! でもなかなかチケットがとりづらくて!」
「よければ、どうだ、今度……」
「いいんですか! うれしいです! テオドールと観に行ってきますね!」
「……は?」
藍色の瞳が、凍り付く。
「え!?」
なにか俺は変なことを言ってしまったのだろうか。
「いや、いい……。テオドール……、そうか、甥っ子の面倒をみていたんだな。
連れて行ってやるといい」
エリオットはくしゃりと俺の頭を撫でた。
「はい、ありがとうございます」
――俺は気づいていなかった。
俺に大切な人がいるように、エリオットにももちろん大切な人がいたことに。
でも未熟な俺は、いつも自分の目の前のことに夢中で、周りのことまで目を配ったり、心を寄せたりすることをしなかった。
だから、俺は……、いつも自分勝手に、周りの人をそうとは知らず傷つけていたんだ……。
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