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第59話 密談
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「よく来たね」
扉を開けると、グリーンの爽やかな色合いの上着を着たオーバンが、席について俺を待ち構えていた。
「オーバン君……」
ここは王都の奥まった一画にある高級料理店。普段から国の要人が使用しているのか、入口は屈強な衛兵で警備されており、おいそれと一般人が近づくことはできないようになっていた。
俺は今日、王都へ買い物に出るとエマに言って、馬車を出した。馬車は指示通り、少し離れたところにある裏道に止めてある。
あきらかに不似合いな俺がおっかなびっくり入り口の前に立つと、あらかじめ話が通っていたのか、衛兵はすっと避け、俺に地下へと続く道を示した。
地下へと降り切ったところには、重厚な扉があった。あらかじめ料理店と聞かされていなければ、この場所が一体何なのか、誰にも分らないだろう。
「ここは、父上がよく利用する店なんだ。俺も顔がきくから重宝してるんだ。……貴方と俺との秘密の逢瀬にはもってこいだろ?」
オーバンは俺にウィンクして寄越した。
俺が席に着くと、すぐにお茶の用意がテーブルに運ばれてくる。
「こんな大げさなことをしなくても、君とはいつでも話くらいできるのに……」
俺の言葉に、オーバンはかぶりを振った。
「駄目だな、ジュールは何もわかってないんだから。まあ、ゆっくり話そうよ。せっかく二人きり、なんだから」
意味ありげな視線を俺に送ると、オーバンは次々と運ばれてくる色とりどりの菓子を俺に示す。
「ジュールは甘いものが大好きなんだろ? たくさん食べてよ」
「すごく美味しそうだね!」
俺は目を輝かす。さすが公爵家の息子! お店と料理のグレードが半端ない!
「セルジュに言って、今日は剣術部の稽古をかなり長引かせるようにしてるから、ゆっくりできるだろ」
「じゃあ、テオドールの帰りは遅いんだ……」
さっそく木苺の乗ったタルトに手を伸ばす俺。そんな俺の手を、不意にオーバンは掴んだ。
「ジュール、わかってるの? 貴方って人は……。一人でこんなところにのこのこやってきて」
「は? 来いっていったのは、オーバン君だろ!?」
俺がタルトを死守しようと反対の手を出したところを、またそのままオーバンに掴まれた。
「ねえ、本当に危機感がないようだから、先に念押ししておくけど、俺はあなたの秘密の婚約者、なんだよ?」
「オーバン君はまた、そんな冗談を言って……!」
ぐっと握られたままの手を、俺は振りほどこうとする。
だが、オーバンは真剣な表情で俺を睨んできて……、
「テオドールが心配になるのもわかる気がするな。ねえ、ジュール。今ここで、俺が貴方を押し倒しても、誰も助けには来ないんだよ! その意味、わかってる?」
俺の目は真ん丸になる。
「は!? なにそれ! またまた、オーバン君は俺をからかって! そもそもオーバン君はシャルロット殿下のために俺と手を組んだんでしょ?
そんな君が、俺を押し倒すわけないだろ? 俺だって、それくらいわかってるよ!」
とたんにオーバンの手から力が抜ける。
俺は自由になった手で、さっそく木苺のタルトを取り上げ、フォークを突き刺した。
「ああ……、マジで毒気抜かれた……、あのさ、ジュール、あんたはもっといろいろと警戒心を持った方がいい! そりゃ俺は、こんな見た目で弱っちくみえるかもしれないけど、一応男なんだけど!」
「うんうん、オーバン君は世界一男らしい、男の中の男だよ!」
さくっとしたパイの感触に、俺は恍惚となる。
「ジュール! 俺はもちろんシャルロットのことも大事に思ってるけど、アンタのこともちゃんと好きなんだよっ!」
「俺も、オーバン君のことが好きだよ!」
――この木苺、本当に甘酸っぱくて、最高!!
「ジュールっ!!」
オーバンはエメラルドの瞳を吊り上げる。
俺はそんなオーバンににっこりとほほ笑んで見せた。
「オーバン君がシャルロット殿下のことをすごーく大事に想ってるのはもちろんわかってるよ。俺も、テオドールのことをすごく大事に想ってるからね。だから俺は、シャルロット殿下にもテオドールにも幸せになってもらいたいし、もちろんオーバン君にも同じくらい幸せになってもらいたいんだ」
俺の言葉にオーバンは腕を組み、ムッとした表情になる。
「……こんな調子じゃ、テオドールはこの先、ずいぶん苦労するだろうな」
しばらくオーバンはあきれたような表情で、俺がタルトを平らげるのを見守っていた。
――さて、お次はこの木の実がふんだんに入ったパウンドケーキを……。
「シャルロットとテオドールをキスさせるぞ」
「……むぐっ!!!!」
俺はおもわずケーキをのどに詰まらせた。
扉を開けると、グリーンの爽やかな色合いの上着を着たオーバンが、席について俺を待ち構えていた。
「オーバン君……」
ここは王都の奥まった一画にある高級料理店。普段から国の要人が使用しているのか、入口は屈強な衛兵で警備されており、おいそれと一般人が近づくことはできないようになっていた。
俺は今日、王都へ買い物に出るとエマに言って、馬車を出した。馬車は指示通り、少し離れたところにある裏道に止めてある。
あきらかに不似合いな俺がおっかなびっくり入り口の前に立つと、あらかじめ話が通っていたのか、衛兵はすっと避け、俺に地下へと続く道を示した。
地下へと降り切ったところには、重厚な扉があった。あらかじめ料理店と聞かされていなければ、この場所が一体何なのか、誰にも分らないだろう。
「ここは、父上がよく利用する店なんだ。俺も顔がきくから重宝してるんだ。……貴方と俺との秘密の逢瀬にはもってこいだろ?」
オーバンは俺にウィンクして寄越した。
俺が席に着くと、すぐにお茶の用意がテーブルに運ばれてくる。
「こんな大げさなことをしなくても、君とはいつでも話くらいできるのに……」
俺の言葉に、オーバンはかぶりを振った。
「駄目だな、ジュールは何もわかってないんだから。まあ、ゆっくり話そうよ。せっかく二人きり、なんだから」
意味ありげな視線を俺に送ると、オーバンは次々と運ばれてくる色とりどりの菓子を俺に示す。
「ジュールは甘いものが大好きなんだろ? たくさん食べてよ」
「すごく美味しそうだね!」
俺は目を輝かす。さすが公爵家の息子! お店と料理のグレードが半端ない!
「セルジュに言って、今日は剣術部の稽古をかなり長引かせるようにしてるから、ゆっくりできるだろ」
「じゃあ、テオドールの帰りは遅いんだ……」
さっそく木苺の乗ったタルトに手を伸ばす俺。そんな俺の手を、不意にオーバンは掴んだ。
「ジュール、わかってるの? 貴方って人は……。一人でこんなところにのこのこやってきて」
「は? 来いっていったのは、オーバン君だろ!?」
俺がタルトを死守しようと反対の手を出したところを、またそのままオーバンに掴まれた。
「ねえ、本当に危機感がないようだから、先に念押ししておくけど、俺はあなたの秘密の婚約者、なんだよ?」
「オーバン君はまた、そんな冗談を言って……!」
ぐっと握られたままの手を、俺は振りほどこうとする。
だが、オーバンは真剣な表情で俺を睨んできて……、
「テオドールが心配になるのもわかる気がするな。ねえ、ジュール。今ここで、俺が貴方を押し倒しても、誰も助けには来ないんだよ! その意味、わかってる?」
俺の目は真ん丸になる。
「は!? なにそれ! またまた、オーバン君は俺をからかって! そもそもオーバン君はシャルロット殿下のために俺と手を組んだんでしょ?
そんな君が、俺を押し倒すわけないだろ? 俺だって、それくらいわかってるよ!」
とたんにオーバンの手から力が抜ける。
俺は自由になった手で、さっそく木苺のタルトを取り上げ、フォークを突き刺した。
「ああ……、マジで毒気抜かれた……、あのさ、ジュール、あんたはもっといろいろと警戒心を持った方がいい! そりゃ俺は、こんな見た目で弱っちくみえるかもしれないけど、一応男なんだけど!」
「うんうん、オーバン君は世界一男らしい、男の中の男だよ!」
さくっとしたパイの感触に、俺は恍惚となる。
「ジュール! 俺はもちろんシャルロットのことも大事に思ってるけど、アンタのこともちゃんと好きなんだよっ!」
「俺も、オーバン君のことが好きだよ!」
――この木苺、本当に甘酸っぱくて、最高!!
「ジュールっ!!」
オーバンはエメラルドの瞳を吊り上げる。
俺はそんなオーバンににっこりとほほ笑んで見せた。
「オーバン君がシャルロット殿下のことをすごーく大事に想ってるのはもちろんわかってるよ。俺も、テオドールのことをすごく大事に想ってるからね。だから俺は、シャルロット殿下にもテオドールにも幸せになってもらいたいし、もちろんオーバン君にも同じくらい幸せになってもらいたいんだ」
俺の言葉にオーバンは腕を組み、ムッとした表情になる。
「……こんな調子じゃ、テオドールはこの先、ずいぶん苦労するだろうな」
しばらくオーバンはあきれたような表情で、俺がタルトを平らげるのを見守っていた。
――さて、お次はこの木の実がふんだんに入ったパウンドケーキを……。
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「……むぐっ!!!!」
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