上 下
57 / 165

第57話 叔父様の好み

しおりを挟む
「叔父様の気配がするから来てみたら……、オーバン、前に警告したはずだぞ!」


 うん、テオドールの顔が怖い。すごく、怖い。

 腰の長剣を抜いたら、この場にいるもの全員真っ二つにされそうな勢い!!


 それにしても俺の気配って一体何? はっ、もしかして俺ってなんか変な匂いとかしてる!?




「あのね、テオ、さっき偶然ここでオーバン君に会って……」

 さり気なく袖口の匂いをくんくん嗅いでから、俺はテオドールに向かってへらりと微笑んだ。


「僕、ジュール叔父様にたくさんお手紙を書いたはずなのに、ジュール叔父様には一通も届いていないっていうんだ。ねえ、テオドールおかしいと思わない?」

 またもやぶりっ子仕様に様変わりしたオーバンが、その可愛らしい唇を尖らせる。


「……」

 オーバンの言葉に、テオドールはむっと口をへの字に曲げた。


「まさか、テオドールのせいで僕からのお手紙が叔父様に届かない、なんてこと、ないよね? テオドール?」

 目を瞬かせるオーバンに、テオドールは左足を一歩引き、ついに腰の長剣に手をかけた。


「叔父様叔父様うるさい!! ジュール叔父様は俺の叔父様だっ! お前のじゃないっ!」

「わあっ、僕怖いっ! 叔父様ぁ、助けて!」

 ちゃっかり俺の背中の後ろに隠れるオーバン。ちなみにちっとも怖そうじゃない。その証拠に赤い舌をぺろりと出している。

 テオドールが一体何に腹をたてているのかはよくわからないが、とにかくオーバンとテオドールの仲はあまりよろしくないようだ。

 しかしここは王立学園。そして相手は王族の親戚の公爵家の息子!


 俺はテオドールに向き直った。


「テオ、お友達と喧嘩しちゃだめだよ。ほら、もうやめて。仲直りしよう!」

「……叔父様っ!」

「はいっ、ほら、ふたりは握手して。仲直り!!」

 俺はテオドールとオーバンの手を取ると、無理やりふたりを近づけた。


「ほら、テオドール、君の大好きな叔父様がそうおっしゃってるんだ。握手して仲直りしようよ」

 オーバンがテオドールに顎をしゃくる。


「貴様っ……」

 テオドールはギリ、と唇を噛み締めたが、俺に手を取られてしぶしぶ従った。

「はい、じゃあ、握手ね」

 二人の手を握らせた俺。


 ーーあれ、俺ってば、年長者として割といいことしてる感じ?


 だが、テオドールと握手したオーバンは、あっという間に顔が真っ赤になった。


「ぐあっ! っ!!!! 痛っア、クソっ、このっ……!」


「今度叔父様に手を出したら、お前の全身の骨を砕いてやるからな!」



 ーーアレ?

 空耳??



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そしてまた前回と同様に、テオドールと一緒に帰ることになった俺。

 ーー次回からはエリオット先輩の言う通り、テオドールの下校までに屋敷に帰れる時間に学園に行くことにしよう、うん、絶対そうしよう!

 そしてやっぱり前回と同様に、馬車の中で黙り込んだまま何も言わないテオドール。

 うん、怒ってるね。これは、間違いなく怒ってる!


 しかし、俺とて何も学習しないというわけではない!

 しつこく何度も話しかけて失敗した前回の経験を活かし、今回はテオドールの怒りが収まるまで刺激することは避け、馬車の中では何も言わないことにした。


「……」

「……」

 しかし、この沈黙! 地味につらい!!


 こういうとき、俺とテオドールはいつもどれだけいろいろなことを語り合ってきたかということに嫌というほど気付かされる。



「……ああいう男が、好みなんですか?」

 腕を組み、目を閉じていた俺に、テオドールが話しかけてきた。

「……好み?」

「……っ、オーバンのことですっ! 叔父様はっ、ああいう、身体が小さくて見た目が中性的な男のほうが本当は好きなんですかっ!? 俺は、叔父様が騎士のような男が好きだと言うから、これまで一生懸命鍛えてきたのにっ!!」


「はあっ!?」

 テオドールはぎりぎりと歯ぎしりした。


「俺っ、すごく悔しいですっ! 叔父様は昔から俺のこと、可愛い可愛いって褒めてくれていたのに、俺の背が伸びてから、全然……っ、頭も撫でてくれないしっ!
しかも、オーバンのこと、初めて会った時に綺麗で可愛い子だって言ってたし……!! 最近は俺を差し置いてオーバンとすごく仲良くしているみたいだし!
叔父様はもう俺のことなんて、可愛いと思ってくださらないんですかっ!?」


 ーーええっ!? ちょっと待て! テオドールってばそんなことを考えていたのか!?


 そんなテオドールの子供っぽくて可愛い独占欲に、俺は思わずニマニマしてしまった。


「テオ、誤解だよ! 俺にとって一番可愛いのはいつだってテオドールだよ! そんなの決まってるじゃないか! 最近頭を撫でてなかったのは、テオの身長が高くなって届かなくなっただけであって、俺はいつだってテオをなでなでしたいって思ってるよ!」

「本当、ですか?」

 潤んだ漆黒の瞳。なぜか妙な色気があり、思わず俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。 

「本当の本当だよ! オーバン君は、テオの学園の友達だろ? 失礼なことがあったら困ると思って対応しているだけであって……、そもそも俺はいつも言っている通り、かっこよくて勇敢な騎士みたいな男に昔から憧れてるんだ!」

「叔父様っ!!」

「ぐえっ……」

 テオドールに力任せに抱きつかれ、俺は蛙が潰れたみたいな声を出した。


「叔父様っ、大好きです……っ!」

「俺も、大好きだよ、テオ」


 抱き返すと、テオドールは俺の耳元で言った。


「叔父様、頭を撫でてもらっていいですか?」

「もちろん、いいよ!」


 微笑む俺の膝に、テオドールは自分の頭を載せてきた。



 ーー膝枕かよっ!!!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

自分のことを疎んでいる年下の婚約者にやっとの思いで別れを告げたが、なんだか様子がおかしい。

槿 資紀
BL
年下×年上 横書きでのご鑑賞をおすすめします。 イニテウム王国ルーベルンゲン辺境伯、ユリウスは、幼馴染で5歳年下の婚約者である、イニテウム王国の王位継承権第一位のテオドール王子に長年想いを寄せていたが、テオドールからは冷遇されていた。 自身の故郷の危機に立ち向かうため、やむを得ず2年の別離を経たのち、すっかりテオドールとの未来を諦めるに至ったユリウスは、遂に自身の想いを断ち切り、最愛の婚約者に別れを告げる。 しかし、待っていたのは、全く想像だにしない展開で――――――。 展開に無理やり要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。 内容のうち8割はやや過激なR-18の話です。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

処理中です...