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第41話 呪いの研究

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「ジュール、元気そうだな。流行り病が治ったと思ったら、恐ろしい呪いを受けて療養中と聞いていたが……」

 エリオットの冷静すぎる視線が、俺に向けられる。

「ぐっ……」

 俺は勧められたクッキーを喉につまらせた。


 やばい、そういえば、そういう事になってるんだった! まさかここで知り合いに会うとは思わず、迂闊だった……。


「呪いのせいで、婚約も破棄したと聞いていたから、よほどのことかと思っていたのだが。義理の甥の心配で、学園に乗り込んで来るほど元気だったとは……」

 エリオットの藍色の瞳で探るように見つめられると、俺は居心地が悪くなってしまう。

「すみません……、呪い自体は、そこまで……、というか、まあなんとか、抑える方法が見つかったので、日常生活にはあまり苦労していない、というか……」

 言葉を濁す俺に、エリオットは小さく息を吐いた。


「俺が送った見舞いの花や品にも、なんの返答がないから、どれほど悪いのかと心配していたのだが」

「えっ、見舞いっ!?」


 ーー初耳だ。ということは、本宅に届いているのだろうか? シャンタルお姉様は何も言っていなかったが……。


「すみません。エリオット先輩。俺、いま療養のために別宅にいるんで……」

「いや、別にいい。おそらくシャンタルさんだろう。シャンタルさんは昔から、俺をお前に近づかせないようにしていた節があるからな」

「はあ……」

 お姉様も、俺がエリオットを苦手としていることを知っていたのだろうか?




「ところで、俺が呪いの研究をしているのは知っているか?」

 エリオットは、ティーカップをすきのない優美な所作でソーサーに戻した。

「いえ、初耳、です」

「すでに、王宮の魔法研究室からも助成金を得ている」

 成績優秀だったエリオット。たしか、学園時代にもなにかの研究で賞を何度かもらっていた気がする。

「呪いの研究は、俺のいわば、ライフワークだ」

「はあ、ライフワーク……」

 少し自慢げなエリオット。学園を卒業したのに、大層なことだ。きっと、常になにか勉強をしていないと気がすまないタイプなのだろう。だが、研究や学術などに縁のない俺には関係のない話だった。

「で、今俺の目の前には、非常に興味深い研究対象がいる」

 エリオットの藍色の瞳が、俺を値踏みするように見つめていた。


「……は? 研究、対象…‥?」

 俺はきょろきょろとあたりを見回す。しかし、当然、この部屋には俺とエリオットしかいない。


「見せろ」

「え!?」

「呪いを受けたものは、必ずその身体にその呪いの印が刻まれる。お前の身体に刻まれた印を見せてみろ! モノによっては、俺が解呪してやらんこともない!」


「えっ、解呪……? できるん、ですか?」

 呪いの解呪はかなり専門性が高い分野だ。魔導師といえども、呪いの解呪は難しいと聞く。
 だが、エリオットほどの優秀かつ魔力の高い男ならば、もしくは……。


「俺はすでに何種類もの呪いの解呪に成功している。もし俺がすでに研究済みの呪いであれば、たやすく解除できる。だが、まだ未解決の呪いだとしても、今後の研究次第で解呪方法はかならず見つかる!」

「すごいっ!」

 しかし、俺ははたと気がついた。



 ーーさっきから「呪い」ってことで話が進んでるけど、俺の「呪い」ってば単なる「淫紋」じゃん!!!!

 こんなの、エリオット先輩に見せられるわけないじゃん!!!!


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