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第38話 童いさかい大人しらず

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「じゃあ、行ってくるよ! エマ! もし俺が遅くなったら、お姉様のところで用事を済ませてから帰ってくるとかなんとか、適当にごまかしておいてくれ!」

「はーい。わかりましたぁ」

 はたきを手に、あきれ顔のエマ。

「絶対に、テオドールには気づかれないようにしてくれよ! 俺が学園に直談判に行ったなんて知ったら、テオのプライドが傷ついてしまうからっ!」

「そもそも、テオドール坊ちゃまが学園で、いじめ? に遭ってるなんて到底信じられませんけどねえ~。あの坊ちゃまなら、いじめっ子の一人や二人、簡単に返り討ちにできるでしょう? 剣術だってお得意なんだし」

「それが、王立学園のいじめの陰湿なところなんだ! 俺も通っていたからわかるんだ。あの公爵家の息子なんて、典型的な策略型いじめ主犯格の顔つきだよ! 虫も殺さぬ美少年みたいなふりをして、先生たちにはいい顔しつつ、裏であの体力自慢の騎士団長の息子に、俺の可愛いテオドールをボコらせてるんだ! 絶対そうに違いない!!」

「はあ~、王立学園も、いろいろ大変なんですねぇ~」


 全く親身になってくれないエマ。
 でもいいんだ! 大丈夫だよ、テオドール! 叔父様がちゃんと解決してあげるからね! 君の学園生活の無事はこれで保証されたっ!!

 俺としたことが、あの性悪いじめっ子二人に会うまで、テオドールが順風満帆な学園生活を送っていると勝手に信じ込んでしまっていた。
 だが、よく考えてみれば、テオドールはこの屋敷に一度も友人を呼んだことがない。テオドールの記念すべき15歳のお誕生日会も、俺とお姉様の3人だけだった。友達の少ない俺ですら、たまには友人が家に遊びに来たりしていたことを考えると、これは異常事態だ!

 授業が終わると剣術の稽古以外は、友人と遊んだりすることもなく家にまっすぐ帰ってくることからも、テオドールには学園で親しくしてる友人がいないことがわかる。

 ――きっとテオドールはこの複雑な家庭環境のせいで、いじめに遭っていたのだ!! 見た目も性格も頭脳も完璧なテオドール、いじめられるとしたら、ポイントはそこしかない!! それもこれも、元をただせばすべて俺のせいだ。俺がふがいないせいで、可愛いテオドールが……っ!
 だからこれは絶対に、叔父の俺が解決しなけらばならない問題なのだ!



 今日は剣術の稽古で、テオドールの帰りが遅くなる日。俺はその日を狙って、放課後、担任の先生に面談を申し込んでいた。

 実はお姉様からは、以前から、テオドールの学園のことは全部お姉様がやるから俺は絶対に関わらないように、と念を押されていたのだが、仕方がない、今は緊急事態だ。それに学園でいじめられていることを、テオドールだってシャンタルお姉様には絶対に知られたくないだろう。これは男の沽券にかかわる問題なのだ!


 久しぶりに余所行きの服に身を包んだ俺は、ぐっと拳を握り締め、馬車に乗り込んだ。

 ――いざ、王立学園へっ!!






 だが……、

「えーっ、テオドール君が、いじめ、ですかぁ!? あはっ、ありえなーい。テオドール君の叔父様って、すごく面白い方なんですねえ!」

 テオドールの担任だという先生は、桃色の髪の、まだ若い女性の白魔導士だった。


「いえっ、だから! きっと先生にもわからないような巧妙な手段をつかってですね……っ!」

 白魔導士の先生は、指輪のたくさん嵌った両手を大きく広げた。


「そもそもぉ~、テオドール君と、オーバン君と、セルジュ君はぁ、すっごく仲良しの3人組なんですよ! 学園でも特に人気のあるイケメンたちで……」

 俺はダンっ、と机に手をついた。


「先生は騙されていますっ! 仲良しだなんて、絶対、絶対嘘です! テオドールに家でお二人のことを聞いたら『あいつらには絶対に関わらないで!』って言われたんですよ! ということはですね、テオドールとも……」

「まあまあまあ! テオドール君の叔父様! 今は、保護者の方たちにはいろいろ知られたくないこともあるお年頃なんですぅ。だから、叔父様もテオドール君のことを信じて、あたたかーい目で見守ってあげてくださいっ! ねっ!?」

「しかし……っ!!」


「とーにかくーっ、あのテオドール君がいじめに遭う、なんて絶対あり得ませんから!! それにっ、私のクラスにはいじめなど存在しません! 私のこの白魔導士の名に懸けて誓いますっ!!」

 興奮したのか、先生の後ろから白い波動が立ち上った。その波動は、みるみるうちに白い大蛇の姿になり……。



 ――怖ーーいっ!!!!



「……」

 というわけで、すごすごと引き下がってしまった俺。情けない、情けなさすぎる……。

「そうだっ、こういう時は校長先生にっ!」

 担任が駄目なら、その上!


 俺が校長室へ向かおうと踵を返したその時……、


「ジュール・ダンデス!!」


 厳しい声が、俺を呼び止めた。



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