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第30話 彼のすべて
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彼らは、仕事として俺を抱いているだけなのだから、それは当たり前のこと。そして、俺は自分の命をつなぐために、男の精を受けなければならない定め……。
だが、男の精を胎内に摂取し、軽くなった身体と引き換えに、俺はいつもなんとも言えない気持ちになる。
割り切りましょうーー、とアンドレは言った。アンドレのようなたくさんの人から称賛され、愛されるのが当然な人間なら、こんなふうにセックスを一つの快楽としてとらえることもできるのかもしれない。
ーーでも……。
俺はそういう人間じゃない。抱かれたら、その相手を憎からず思ってしまう。そして、その相手と、心の繋がりも持ちたいと願ってしまう……。
「アンドレ……」
俺は、あの優しいアクアブルーの瞳を思い出していた。
アンドレは、俺を抱く相手が俺に執着しないために、何人かの男で俺を交代に抱かせることにしている。その対策は、半分成功していて、半分失敗している……。
なぜなら……、
「会いたい……」
アンドレは大きな勘違いをしている。だって、俺は最初にアンドレに抱かれたときから、すでにアンドレに執着してしまっているのだから……。
水を飲みに、寝間着にガウンを羽織って階下まで降りていった。
「叔父様……?」
なぜかキッチンにいたテオドールが、ふらつく俺を抱きとめてくれた。すでに時間は深夜。
エマももう自室で就寝しているところだ。
「テオドール……、どうして?」
「呪いの治療は、終わられたのですね……」
テオドールの声も、暗い。
「うん、のどが渇いたから、水を……。テオドールもなにか飲みに来たの?」
「俺は……、明日の朝食に叔父様に野いちごの果実水を飲んでいただこうとおもって、今仕込みをしていたんです」
キッチンの広いテーブルには、たくさんの野いちごと、大きな瓶が置いてあった。
「テオドール、いつも言っているけど、俺のためにそんなことしなくていいんだよ! 明日も学園があるんだし……」
テオドールは首を振った。
「いえ、俺がやりたいからやっているだけです。いつも……、呪いの治療の翌日は叔父様はなんとなく元気がないように思えたので……。お好きな野いちごの果実水で、すこしでも気分良くなっていただければ……と」
「ありがとう。テオドール。ごめんね、心配かけて。大丈夫だよ。身体もすっかり元気だし」
顔を上げる俺に、テオドールはなぜか悲しい顔をして、抱きしめてきた。
「叔父様、俺じゃ駄目ですか……?」
「は?」
「俺では、叔父様の慰めには、なりませんか?」
「何言ってるんだ? 十分、慰められてる。テオドールがいるから、俺は頑張れるんだよ」
俺はテオドールの背中をトントンと叩いた。
「俺は、叔父様のすべてになりたいんですっ!」
テオドールの言葉に、俺はテオドールのおでこと自分のおでこをコツンとくっつけた。
「テオドール、すでに君は俺の全てだよ」
「……っ!!!!」
とたんに、真っ赤になるテオドール。
ーー可愛いっ!!
「だから何も心配しないで。あっ、そうだ。俺もまだ眠くないし、この果実酒の仕込み、手伝うよ」
俺はテオドールから離れると、キッチンの上にある野いちごに手を伸ばした。
「はい……」
テオドールは赤い顔のまま、俺の横に並ぶ。
ーーそうだ。俺にはテオドールがいる。
テオドールのためにも、頑張るんだ!
だが、こうやって俺が自分の気持ちを無理やりごまかして男たちに抱かれ続けていたことが、このあとさらなる波紋を呼ぶことになるなんて、その時の俺は全然気がついていなかった。
だが、男の精を胎内に摂取し、軽くなった身体と引き換えに、俺はいつもなんとも言えない気持ちになる。
割り切りましょうーー、とアンドレは言った。アンドレのようなたくさんの人から称賛され、愛されるのが当然な人間なら、こんなふうにセックスを一つの快楽としてとらえることもできるのかもしれない。
ーーでも……。
俺はそういう人間じゃない。抱かれたら、その相手を憎からず思ってしまう。そして、その相手と、心の繋がりも持ちたいと願ってしまう……。
「アンドレ……」
俺は、あの優しいアクアブルーの瞳を思い出していた。
アンドレは、俺を抱く相手が俺に執着しないために、何人かの男で俺を交代に抱かせることにしている。その対策は、半分成功していて、半分失敗している……。
なぜなら……、
「会いたい……」
アンドレは大きな勘違いをしている。だって、俺は最初にアンドレに抱かれたときから、すでにアンドレに執着してしまっているのだから……。
水を飲みに、寝間着にガウンを羽織って階下まで降りていった。
「叔父様……?」
なぜかキッチンにいたテオドールが、ふらつく俺を抱きとめてくれた。すでに時間は深夜。
エマももう自室で就寝しているところだ。
「テオドール……、どうして?」
「呪いの治療は、終わられたのですね……」
テオドールの声も、暗い。
「うん、のどが渇いたから、水を……。テオドールもなにか飲みに来たの?」
「俺は……、明日の朝食に叔父様に野いちごの果実水を飲んでいただこうとおもって、今仕込みをしていたんです」
キッチンの広いテーブルには、たくさんの野いちごと、大きな瓶が置いてあった。
「テオドール、いつも言っているけど、俺のためにそんなことしなくていいんだよ! 明日も学園があるんだし……」
テオドールは首を振った。
「いえ、俺がやりたいからやっているだけです。いつも……、呪いの治療の翌日は叔父様はなんとなく元気がないように思えたので……。お好きな野いちごの果実水で、すこしでも気分良くなっていただければ……と」
「ありがとう。テオドール。ごめんね、心配かけて。大丈夫だよ。身体もすっかり元気だし」
顔を上げる俺に、テオドールはなぜか悲しい顔をして、抱きしめてきた。
「叔父様、俺じゃ駄目ですか……?」
「は?」
「俺では、叔父様の慰めには、なりませんか?」
「何言ってるんだ? 十分、慰められてる。テオドールがいるから、俺は頑張れるんだよ」
俺はテオドールの背中をトントンと叩いた。
「俺は、叔父様のすべてになりたいんですっ!」
テオドールの言葉に、俺はテオドールのおでこと自分のおでこをコツンとくっつけた。
「テオドール、すでに君は俺の全てだよ」
「……っ!!!!」
とたんに、真っ赤になるテオドール。
ーー可愛いっ!!
「だから何も心配しないで。あっ、そうだ。俺もまだ眠くないし、この果実酒の仕込み、手伝うよ」
俺はテオドールから離れると、キッチンの上にある野いちごに手を伸ばした。
「はい……」
テオドールは赤い顔のまま、俺の横に並ぶ。
ーーそうだ。俺にはテオドールがいる。
テオドールのためにも、頑張るんだ!
だが、こうやって俺が自分の気持ちを無理やりごまかして男たちに抱かれ続けていたことが、このあとさらなる波紋を呼ぶことになるなんて、その時の俺は全然気がついていなかった。
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