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第28話 子離れの第一歩
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精気を十分すぎるほど吸収した俺は、今まで食欲がなかったのが嘘みたいなくらい、びっくりするくらいよく食べた。
「良かったわ。ジュール。あまりにも痩せてしまっていたから本当に心配したのよ。その分じゃ、すぐにもとに戻りそうね。さあ、デザートはジュールの大好物のレモンパイよっ!」
「レモン、パイ……」
テオドールとエマが一緒に焼いてくれたというレモンパイ。
うん、もちろん俺はレモンパイもそれなりに好きだ。好きだけど……、
ーーレモンパイが大好物なのって、お姉様ですよね!?
「叔父様、いっぱい食べてくださいね!」
期待に満ちたテオドールの瞳で見つめられては、たくさん食べないわけにはいかない。
すでにメインディッシュで腹いっぱいだった俺だったが、なんとかレモンパイも無理して詰め込んだ。
「あの……、叔父様」
久しぶりに満腹になった俺がふうふういっていると、隣のテオドールが俺に顔を近づけて、小声で言った。
「実は、叔父様のために、ダークチェリーパイも作ったんです。一晩寝かせて、ちょうど明日食べ頃になると思います!」
「えっ、嘘っ!? 俺、ダークチェリーパイが一番好きなんだ! なんで、分かったんだ?」
「エマさんに教えていただきました。レモンパイが大好物なのは本当はシャンタル様で、叔父様は昔からダークチェリーパイに目がないんだって!」
ふふっと照れたように笑うテオドール。
「テオドールっ! ありがとう! 俺、すごく嬉しいよ」
すると、テオドールはテーブルの下で俺の手を握ってきた。
「俺、叔父様のためなら、なんだってできます! だから、これからは俺のことをもっと頼ってくださいね!」
「テオドールっ!」
まだ14歳だというのに、自分を頼って欲しいというテオドールのいじらしさに、俺は感動を通り越して、魂の震えを感じた。
「テオドール、俺だってテオドールのためだったら、どんなことだってするよ。これからは絶対にテオドールを心配させたりしないから! それにこの呪いもいつか絶対に解呪して、誰にも恥じないような立派なテオドールの叔父になってみせるからね!」
だが俺の鼻息荒い意気込みは、あまりテオドールには響かなかったようだ。
「立派な、叔父……」
テオドールは少し顔を曇らせ、俺の手を痛いくらいに握りしめてきた。
「俺のことはテオドールは何も心配しなくていいよ! これからテオドールは王立学園で一生懸命勉強して、剣術も頑張って、それから……」
「叔父様っ……」
テオドールは黒曜石のようにきらめく瞳で俺をまっすぐに見据えた。
「俺、早く大人になります。早く大人になって、俺が、叔父様を絶対に守りますからっ!」
「え……、いや、すぐに大人にならなくっていいんだよ、学生時代は貴重なんだし、ゆっくりと青春を謳歌して……」
どうにも噛み合わない会話。俺としてはせっかくこんなに可愛いテオドールを今のうちに十分に堪能したい。いっぱい甘やかして、可愛がって「叔父様♡」っていっぱい言われたい。
ーー俺ってそんなに頼りないのかな……?
首をひねる俺に、テオドールはニッコリと微笑んだ。
「待っていてくださいね、叔父様!」
ーー何を!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなこんなで、あっという間にテオドールが王立学園に入学する日となった。
俺も学園までついて行きたかったが、お姉様に一言「過保護!」と怒られてしまった。お姉様は手続きのために、テオドールと一緒に行くのに、ずるい……。
「では、行ってまいります、叔父様」
俺が見立ててあげた青い上着をすっきりと着こなしたテオドール。
ーーカッコよすぎで、死ぬ……。
こんなに素敵だったら、きっとシャーロット王女どころか、学園中の女の子がテオドールのことを好きになって、仁義なき戦いが繰り広げられてしまうに違いない。そんなことになったら、俺はどうすればいいのか……。
「あの、叔父様?」
俺が頭を抱えていると、テオドールがずいっと俺に近づいてきた。
「ん? テオドール、なにか?」
テオドールは頬を染め、俺の耳元で小さく言った。
「あの、俺……、すごく緊張していて……。叔父様に抱きしめてもらってもいいですか? 叔父様にぎゅってしてもらったら、俺、すごく安心するんです」
「テオドールっ!!!!」
俺はテオドールを力いっぱい抱きしめた。
「頑張ってくるんだよ。もし嫌なことがあったり、意地悪な子がいたらすぐ俺に教えて! 先生に言ってあげるからっ!」
「ふふっ……、はい、わかりました」
テオドールの甘い声が、俺の耳元をくすぐる。
「叔父様……、大好きです」
テオドールが俺の背中に手を回して言った。
「俺も、大好きだよ。テオドール、頑張ってきてね。無理しちゃだめだよ」
「ジュール、甘やかしすぎよ! テオドール、もう良いでしょ、行くわよ!」
お姉様が後ろから急かす。
テオドールは少し不満げに俺から離れた。
「行ってまいります!」
手を降って馬車に乗り込むテオドール。俺は馬車が小さくなるまでずっと手を振って見送っていた。
ーーこれが、子離れの第一歩なのか……。
俺は、心の中で滂沱の涙を流していた……。
「良かったわ。ジュール。あまりにも痩せてしまっていたから本当に心配したのよ。その分じゃ、すぐにもとに戻りそうね。さあ、デザートはジュールの大好物のレモンパイよっ!」
「レモン、パイ……」
テオドールとエマが一緒に焼いてくれたというレモンパイ。
うん、もちろん俺はレモンパイもそれなりに好きだ。好きだけど……、
ーーレモンパイが大好物なのって、お姉様ですよね!?
「叔父様、いっぱい食べてくださいね!」
期待に満ちたテオドールの瞳で見つめられては、たくさん食べないわけにはいかない。
すでにメインディッシュで腹いっぱいだった俺だったが、なんとかレモンパイも無理して詰め込んだ。
「あの……、叔父様」
久しぶりに満腹になった俺がふうふういっていると、隣のテオドールが俺に顔を近づけて、小声で言った。
「実は、叔父様のために、ダークチェリーパイも作ったんです。一晩寝かせて、ちょうど明日食べ頃になると思います!」
「えっ、嘘っ!? 俺、ダークチェリーパイが一番好きなんだ! なんで、分かったんだ?」
「エマさんに教えていただきました。レモンパイが大好物なのは本当はシャンタル様で、叔父様は昔からダークチェリーパイに目がないんだって!」
ふふっと照れたように笑うテオドール。
「テオドールっ! ありがとう! 俺、すごく嬉しいよ」
すると、テオドールはテーブルの下で俺の手を握ってきた。
「俺、叔父様のためなら、なんだってできます! だから、これからは俺のことをもっと頼ってくださいね!」
「テオドールっ!」
まだ14歳だというのに、自分を頼って欲しいというテオドールのいじらしさに、俺は感動を通り越して、魂の震えを感じた。
「テオドール、俺だってテオドールのためだったら、どんなことだってするよ。これからは絶対にテオドールを心配させたりしないから! それにこの呪いもいつか絶対に解呪して、誰にも恥じないような立派なテオドールの叔父になってみせるからね!」
だが俺の鼻息荒い意気込みは、あまりテオドールには響かなかったようだ。
「立派な、叔父……」
テオドールは少し顔を曇らせ、俺の手を痛いくらいに握りしめてきた。
「俺のことはテオドールは何も心配しなくていいよ! これからテオドールは王立学園で一生懸命勉強して、剣術も頑張って、それから……」
「叔父様っ……」
テオドールは黒曜石のようにきらめく瞳で俺をまっすぐに見据えた。
「俺、早く大人になります。早く大人になって、俺が、叔父様を絶対に守りますからっ!」
「え……、いや、すぐに大人にならなくっていいんだよ、学生時代は貴重なんだし、ゆっくりと青春を謳歌して……」
どうにも噛み合わない会話。俺としてはせっかくこんなに可愛いテオドールを今のうちに十分に堪能したい。いっぱい甘やかして、可愛がって「叔父様♡」っていっぱい言われたい。
ーー俺ってそんなに頼りないのかな……?
首をひねる俺に、テオドールはニッコリと微笑んだ。
「待っていてくださいね、叔父様!」
ーー何を!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなこんなで、あっという間にテオドールが王立学園に入学する日となった。
俺も学園までついて行きたかったが、お姉様に一言「過保護!」と怒られてしまった。お姉様は手続きのために、テオドールと一緒に行くのに、ずるい……。
「では、行ってまいります、叔父様」
俺が見立ててあげた青い上着をすっきりと着こなしたテオドール。
ーーカッコよすぎで、死ぬ……。
こんなに素敵だったら、きっとシャーロット王女どころか、学園中の女の子がテオドールのことを好きになって、仁義なき戦いが繰り広げられてしまうに違いない。そんなことになったら、俺はどうすればいいのか……。
「あの、叔父様?」
俺が頭を抱えていると、テオドールがずいっと俺に近づいてきた。
「ん? テオドール、なにか?」
テオドールは頬を染め、俺の耳元で小さく言った。
「あの、俺……、すごく緊張していて……。叔父様に抱きしめてもらってもいいですか? 叔父様にぎゅってしてもらったら、俺、すごく安心するんです」
「テオドールっ!!!!」
俺はテオドールを力いっぱい抱きしめた。
「頑張ってくるんだよ。もし嫌なことがあったり、意地悪な子がいたらすぐ俺に教えて! 先生に言ってあげるからっ!」
「ふふっ……、はい、わかりました」
テオドールの甘い声が、俺の耳元をくすぐる。
「叔父様……、大好きです」
テオドールが俺の背中に手を回して言った。
「俺も、大好きだよ。テオドール、頑張ってきてね。無理しちゃだめだよ」
「ジュール、甘やかしすぎよ! テオドール、もう良いでしょ、行くわよ!」
お姉様が後ろから急かす。
テオドールは少し不満げに俺から離れた。
「行ってまいります!」
手を降って馬車に乗り込むテオドール。俺は馬車が小さくなるまでずっと手を振って見送っていた。
ーーこれが、子離れの第一歩なのか……。
俺は、心の中で滂沱の涙を流していた……。
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