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第26話 姉弟の誓い
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俺は、腹の底からどうしようもないほどの激しい怒りが湧いてくるのを感じた。
「つい、出来心、で? アイツっ、俺のことを、一体、なんだとっ……!」
身体は小刻みに震え、指先ががすうっと冷たくなっていく。
最低な男だとは分かっていた。でも俺のことをこんなふうに、まるでペットかおもちゃみたいに考えていたことを目の当たりにして、俺の怒りは頂点に達していた。
そして何より、そんな男に、一時ではあるが夢中になって、何もかも許して、挙句の果てには自分の命まで脅かすような淫紋を刻ませてしまった自分自身を、俺は許すことができなかった。
「ジュール、あなたの気持ちはわかるわ。こんな淫紋を刻まれて、あなたの人生はめちゃくちゃよ。お母様には……、淫紋のことはうまく隠して、私からそれとなく話しておくわ。お父様は、まだ弱っているからそっとしておきましょう。それと……、残念だけど、イネスとのことは婚約解消ということで話を進めるわね」
「イネス……」
そうだ。俺は自分の婚約者すらも、幸せにすることができなかった。俺も、マリユス同等の最低な男だ。
「ジュール、私もあなたと同じようにすごく怒っているのよ。もともと、あなたとマリユスを引き合わせたのは私よ。私も、すごく責任を感じているの。お互いの利益のためだったとはいえ、あんな男を私の家に引き入れてしまった……、あなたは、それで……」
「お姉様は何も悪くありませんっ! 全ては、俺の至らなさが原因ですっ!」
「ジュール……」
「ジュール様……」
二人の憐れむような視線が、俺には苦しかった。
俺は唇を噛み締めた。
「俺は、これからどうやって周りの人に償っていけば……。お姉様にもこんなに迷惑をかけてしまって、俺は、自分自身を許すことができませんっ!」
「ジュール! なんてかわいそうな子!」
お姉様が俺の手を取った。
「でもね、まだ諦めちゃ駄目よ。私、テオドールを見て思いついたの。あの子……、すっかりいい子になってるじゃない! 初めて会った時は生気がない人形みたいな子だと思ってたけど……。ジュール、あの子を立派に育て上げて、起死回生を狙うのよっ!」
「起死回生!?」
お姉様は俺の手をきつく握りしめた。
「聞いたのよ。テオドールがもうすぐ入学する王立学園には、同じ学年にシャーロット王女がいらっしゃるの。テオドールのあの完璧な見た目をもってすれば、王女の心を射止めることもきっとできるわ。テオドールが王女と結婚することになれば、長年のお父様の悲願だった、ダンデス家と王族との婚姻関係が結べるの! そうすれば、お父様の悲しみもいやされ、ダンデス家はマリユスによってけがされた汚名をそそぐことができ、再び家の栄誉を取り戻すことができる。そうよ、これは、マリユスへの究極の復讐なのよ!!
そしてすべては、ダンデス家の養子となったテオドールの活躍にかかっているのよ!」
「お姉様っ!!」
俺は、シャンタルの手を固く握り返した。
ーーでも、そんな簡単にいくだろうか? しかし、俺の可愛いテオドールの可能性は無限大だ! あの可愛くて優しいテオドールを好きにならない女性なんて、きっと世界に一人もいない!!
もしかしたら、シャーロット王女だって、あるいは……。
「確かに、王女と結婚となれば、ダンデス家の爵位も上がる可能性がありますね。我々も、王族の関係者が顧客にいるとなれば、大変な名誉です。私も陰ながら応援させていただきますよ、ジュール様」
アンドレが俺を励ます。
「息子のテオドールが王女と結婚するとなれば、きっと、あのマリユスだってびっくりして戻ってくるでしょう。あの計算高いマリユスのことだから、テオドールの父親ヅラをして急にひょっこり顔を出すに違いないわ! そこをとっつかまえて、ジュールに刻んだ淫紋を解呪させたあと、みんなでボコボコにしてうさを晴らしましょう! ね、そうしましょう、ジュール!」
「お姉様っ、さすがです! 俺は一生お姉様についていきますっ!」
そして俺たち姉弟は誓い合ったのだ。
ーー打倒、マリユス・ロルジュ。そして、養子となったテオドールをシャルロット王女と結婚させ、ダンデス家の名誉を取り戻すことを!!
「つい、出来心、で? アイツっ、俺のことを、一体、なんだとっ……!」
身体は小刻みに震え、指先ががすうっと冷たくなっていく。
最低な男だとは分かっていた。でも俺のことをこんなふうに、まるでペットかおもちゃみたいに考えていたことを目の当たりにして、俺の怒りは頂点に達していた。
そして何より、そんな男に、一時ではあるが夢中になって、何もかも許して、挙句の果てには自分の命まで脅かすような淫紋を刻ませてしまった自分自身を、俺は許すことができなかった。
「ジュール、あなたの気持ちはわかるわ。こんな淫紋を刻まれて、あなたの人生はめちゃくちゃよ。お母様には……、淫紋のことはうまく隠して、私からそれとなく話しておくわ。お父様は、まだ弱っているからそっとしておきましょう。それと……、残念だけど、イネスとのことは婚約解消ということで話を進めるわね」
「イネス……」
そうだ。俺は自分の婚約者すらも、幸せにすることができなかった。俺も、マリユス同等の最低な男だ。
「ジュール、私もあなたと同じようにすごく怒っているのよ。もともと、あなたとマリユスを引き合わせたのは私よ。私も、すごく責任を感じているの。お互いの利益のためだったとはいえ、あんな男を私の家に引き入れてしまった……、あなたは、それで……」
「お姉様は何も悪くありませんっ! 全ては、俺の至らなさが原因ですっ!」
「ジュール……」
「ジュール様……」
二人の憐れむような視線が、俺には苦しかった。
俺は唇を噛み締めた。
「俺は、これからどうやって周りの人に償っていけば……。お姉様にもこんなに迷惑をかけてしまって、俺は、自分自身を許すことができませんっ!」
「ジュール! なんてかわいそうな子!」
お姉様が俺の手を取った。
「でもね、まだ諦めちゃ駄目よ。私、テオドールを見て思いついたの。あの子……、すっかりいい子になってるじゃない! 初めて会った時は生気がない人形みたいな子だと思ってたけど……。ジュール、あの子を立派に育て上げて、起死回生を狙うのよっ!」
「起死回生!?」
お姉様は俺の手をきつく握りしめた。
「聞いたのよ。テオドールがもうすぐ入学する王立学園には、同じ学年にシャーロット王女がいらっしゃるの。テオドールのあの完璧な見た目をもってすれば、王女の心を射止めることもきっとできるわ。テオドールが王女と結婚することになれば、長年のお父様の悲願だった、ダンデス家と王族との婚姻関係が結べるの! そうすれば、お父様の悲しみもいやされ、ダンデス家はマリユスによってけがされた汚名をそそぐことができ、再び家の栄誉を取り戻すことができる。そうよ、これは、マリユスへの究極の復讐なのよ!!
そしてすべては、ダンデス家の養子となったテオドールの活躍にかかっているのよ!」
「お姉様っ!!」
俺は、シャンタルの手を固く握り返した。
ーーでも、そんな簡単にいくだろうか? しかし、俺の可愛いテオドールの可能性は無限大だ! あの可愛くて優しいテオドールを好きにならない女性なんて、きっと世界に一人もいない!!
もしかしたら、シャーロット王女だって、あるいは……。
「確かに、王女と結婚となれば、ダンデス家の爵位も上がる可能性がありますね。我々も、王族の関係者が顧客にいるとなれば、大変な名誉です。私も陰ながら応援させていただきますよ、ジュール様」
アンドレが俺を励ます。
「息子のテオドールが王女と結婚するとなれば、きっと、あのマリユスだってびっくりして戻ってくるでしょう。あの計算高いマリユスのことだから、テオドールの父親ヅラをして急にひょっこり顔を出すに違いないわ! そこをとっつかまえて、ジュールに刻んだ淫紋を解呪させたあと、みんなでボコボコにしてうさを晴らしましょう! ね、そうしましょう、ジュール!」
「お姉様っ、さすがです! 俺は一生お姉様についていきますっ!」
そして俺たち姉弟は誓い合ったのだ。
ーー打倒、マリユス・ロルジュ。そして、養子となったテオドールをシャルロット王女と結婚させ、ダンデス家の名誉を取り戻すことを!!
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