25 / 165
第25話 マリユスからの伝言
しおりを挟む
「仕方ないわね……、追加料金は支払わないわよ!」
「もちろん、料金の範囲内です」
「俺は、嫌ですっ!」
何かの書類にサインしようとしているお姉さまのペンを、俺はひったくった。
「そ、そんな、入れ替わり、立ち替わり、たくさんの人と、俺は……、俺は、定期的に……しなきゃいけないってことですか!? そんなの、そんなの……っ!」
「ああ、ジュール様、そんな顔をなさらないで……。また第二のマリユスを作らないための苦肉の策なのです」
「そうよ、ジュール。ここの人たちは、みんな素敵な人達ばかりだし、素性も確かだから後腐れなくて安心なのよ。それとも、ジュールは自分でそういう相手を探せるの? どこの馬の骨ともわからない変態爺とそういうことができるのっ!?」
「……」
シャンタルお姉様の言葉に、俺はぐぅの音も出ない。
それにしてもお姉様、なんでそんなにアンドレの組織について詳しいの!?
「ジュール様、きちんとうちのキャストが対応できているか確認するためにも、私も何回かに一度は、お相手させていただきます。だからご心配なく。ご不満があれば遠慮なく、私におっしゃってください」
「アンドレ……」
アンドレとのさきほどの熱に浮かされたようなひと時を思い出し、俺は赤面する。俺はまたアンドレと、ああいうことができるのだろうか。それだったら……。
「ちょっと、アンドレ、あなた、もう現場には出ていないっていうのは、嘘だったの?」
「いえ、ジュール様は特例中の特例ですから……」
「まさかあなたまでジュールに執着する、なんてことはないでしょうね!?」
シャンタルが疑いの視線を向ける。
「私はこれで身を立てている男です。そのようなことがあれば信用問題にかかわりますから」
相変わらず人を食ったような笑顔のアンドレ。
「まあ、いいわ。で、淫紋についてはどんな感じなの」
「やはり解呪は、マリユス本人にしか不可能ですね。魔力が強すぎて、歯が立ちませんでした。もしくは、何十年後か、ジュール様に性欲がなくなる頃には自然に消えるかもしれません」
――ちょっと、待て!
「マリユスが消えた今、どうすることもできないのね。ああ、ジュール一人がなんでこんな目に!!」
――ちょっと、待て!
「一ヶ月ごとでは、もしもの時に不安が残ります。ジュール様の体調も考えて、三週間おき、ということでいかがでしょう?」
「本当に商売上手ね。いいわ。ジュールが怖がらないように、優しくてルックスのとびきりいい相手を選んでちょうだい」
「もちろんです」
「ちょっと、待って!!!!」
割って入った俺に、二人は目を見合わせた。
「さっきから、なんで俺抜きで勝手に話がすすんでるんですかっ!? あと、マリユスが消えたって、どういうことですかっ!?」
お姉さまはため息をつくと、俺に一通の封書を差し出した。
「今朝方届いたのよ。それで慌ててこっちに来たの」
差出人は書かれていない。俺は封筒のなかから、便箋を取り出した。
『親愛なるシャンタル
いろいろと迷惑をかけたね。国外追放も悪くないかと思っていたんだが、行き先を聞いて気が変わったよ。君にはさらに迷惑をかけることになるが、ほとぼりが冷めるまでしばらく姿をくらますことにした。
ひとつだけ、君に伝えておかなければいけないことがある。つい出来心でジュールに淫紋を刻んでしまったんだ。男に定期的に抱かれないと一ヶ月で衰弱死してしまうように設定してあるから、君のお友達にでも頼んで、ジュールに精気を補充してやってくれ。くれぐれも、ジュールに本気になるような奴はやめてくれよ。
まあ、どちらにせよ、そのうちジュールのことは俺が迎えにいくつもりでいるから、よろしく伝えておいてくれ。しばらく逢えなくて寂しいけど、ちゃんと俺のことをいい子で待っているようにって。じゃ、またそのうち会おう! マリユス』
「もちろん、料金の範囲内です」
「俺は、嫌ですっ!」
何かの書類にサインしようとしているお姉さまのペンを、俺はひったくった。
「そ、そんな、入れ替わり、立ち替わり、たくさんの人と、俺は……、俺は、定期的に……しなきゃいけないってことですか!? そんなの、そんなの……っ!」
「ああ、ジュール様、そんな顔をなさらないで……。また第二のマリユスを作らないための苦肉の策なのです」
「そうよ、ジュール。ここの人たちは、みんな素敵な人達ばかりだし、素性も確かだから後腐れなくて安心なのよ。それとも、ジュールは自分でそういう相手を探せるの? どこの馬の骨ともわからない変態爺とそういうことができるのっ!?」
「……」
シャンタルお姉様の言葉に、俺はぐぅの音も出ない。
それにしてもお姉様、なんでそんなにアンドレの組織について詳しいの!?
「ジュール様、きちんとうちのキャストが対応できているか確認するためにも、私も何回かに一度は、お相手させていただきます。だからご心配なく。ご不満があれば遠慮なく、私におっしゃってください」
「アンドレ……」
アンドレとのさきほどの熱に浮かされたようなひと時を思い出し、俺は赤面する。俺はまたアンドレと、ああいうことができるのだろうか。それだったら……。
「ちょっと、アンドレ、あなた、もう現場には出ていないっていうのは、嘘だったの?」
「いえ、ジュール様は特例中の特例ですから……」
「まさかあなたまでジュールに執着する、なんてことはないでしょうね!?」
シャンタルが疑いの視線を向ける。
「私はこれで身を立てている男です。そのようなことがあれば信用問題にかかわりますから」
相変わらず人を食ったような笑顔のアンドレ。
「まあ、いいわ。で、淫紋についてはどんな感じなの」
「やはり解呪は、マリユス本人にしか不可能ですね。魔力が強すぎて、歯が立ちませんでした。もしくは、何十年後か、ジュール様に性欲がなくなる頃には自然に消えるかもしれません」
――ちょっと、待て!
「マリユスが消えた今、どうすることもできないのね。ああ、ジュール一人がなんでこんな目に!!」
――ちょっと、待て!
「一ヶ月ごとでは、もしもの時に不安が残ります。ジュール様の体調も考えて、三週間おき、ということでいかがでしょう?」
「本当に商売上手ね。いいわ。ジュールが怖がらないように、優しくてルックスのとびきりいい相手を選んでちょうだい」
「もちろんです」
「ちょっと、待って!!!!」
割って入った俺に、二人は目を見合わせた。
「さっきから、なんで俺抜きで勝手に話がすすんでるんですかっ!? あと、マリユスが消えたって、どういうことですかっ!?」
お姉さまはため息をつくと、俺に一通の封書を差し出した。
「今朝方届いたのよ。それで慌ててこっちに来たの」
差出人は書かれていない。俺は封筒のなかから、便箋を取り出した。
『親愛なるシャンタル
いろいろと迷惑をかけたね。国外追放も悪くないかと思っていたんだが、行き先を聞いて気が変わったよ。君にはさらに迷惑をかけることになるが、ほとぼりが冷めるまでしばらく姿をくらますことにした。
ひとつだけ、君に伝えておかなければいけないことがある。つい出来心でジュールに淫紋を刻んでしまったんだ。男に定期的に抱かれないと一ヶ月で衰弱死してしまうように設定してあるから、君のお友達にでも頼んで、ジュールに精気を補充してやってくれ。くれぐれも、ジュールに本気になるような奴はやめてくれよ。
まあ、どちらにせよ、そのうちジュールのことは俺が迎えにいくつもりでいるから、よろしく伝えておいてくれ。しばらく逢えなくて寂しいけど、ちゃんと俺のことをいい子で待っているようにって。じゃ、またそのうち会おう! マリユス』
161
お気に入りに追加
1,466
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる