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第24話 アンドレ・オーリックという男

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「遅いっ!」

 ふらつく身体をアンドレに抱えられるようにして階下へ降りると、シャンタルは応接間で腕組みをしてイライラしながら待っていた。

「大変お待たせしました」

 アンドレはシャンタルが発する怒りのオーラにも全く動じる様子はない。

「なーにーが、お待たせっ、よ! 一体何時間かかってるの!?
男相手ならちゃちゃっと終わるって言ってたじゃない! それに何!? ジュールはぐったりしたままで、全然元気になっていないじゃない!
あなた、ちゃんと仕事をしたのっ!?」

 シャンタルがすごい剣幕でアンドレに詰め寄った。


「それが……、ジュール様に思いもよらぬ抵抗にあってしまったりといろいろありまして、当初の予定より時間が……」

 ニコニコと笑いながら説明するアンドレを、シャンタルは睨みつけた。


「抵抗っ? ジュール大丈夫なのっ!? 可愛そうに、この男にひどいことをっ!」

 シャンタルお姉さまがアンドレから俺を引き離した。

「ご心配なく。最後は二人ともとても楽しめましたから。ただ、ちょっと盛り上がりすぎまして、ジュール様の足腰が立たなくなってしまいまして……」


「ううっ……」

 俺はソファーに崩れ落ちるように座ると、顔を手で覆った。

「ジュールっ! 何てこと! アンドレっ、これはいったいどういうことなのッ!?」

「お姉様……、違うんです」

 俺は消え入るような声で言った。

「どうしたの、ジュール、お姉様に何でも話しなさい」


「俺っ……、俺は、この状況に我慢できません! なぜお姉さまは平然とされているのですかっ!? お姉さまは俺がさっきまで、上で何をしてきたか、ご存知ってことですよね!? それを、それを……」

 つい今しがたまで、激しいセックスをしていた男とお姉さまと俺との三者面談……。死にたい……。


「ああ、ジュール、可愛そうに……。でも今更じゃない、何も気にすることはないのよ」

 シャンタルは俺の隣に座ると、俺の肩を抱いた。

「そうですよ。ジュール様、何も恥ずかしがることはありませんよ。シャンタル様はすべてご承知のこと。それに、これはれっきとした治療、なのですから」

 俺は顔を上げる。

「治療……」

「そうです。これからも定期的に、私の運営する組織でジュール様を全面的にサポートさせていただきます」

「組織、サポート……?」



 ――そういえば、このアンドレって一体全体何者なんだ!?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「というわけで、私は女性のために少しでもこの世界を良くしようと、この事業を始めたわけです」

「……」

 アンドレ・オーリック。生まれは王都。宝石店を営む家の一人娘だったアンドレの母親は、店を訪れた高位貴族の若者と恋に落ちた。だた、その貴族にはすでに婚約者がいたため、アンドレの母親は隠れてその貴族と付き合い、アンドレを身ごもった。だが、母親の妊娠を知ったその高位貴族は、そのことが明るみに出ることを恐れたのか、その後ぷっつりと音信不通となった。アンドレの母親は、父親の存在を隠してアンドレを出産した……。

 ここまでならこの国でよく聞く一つの悲恋の物語だった。だが、生まれたアンドレはそれで終わる男ではなかった。

「私は、母親をはじめ、貴族の男たちの傲慢なやり口に泣かされた女性を数多く見てきました。この国には、娼館や飲み屋、売春婦など、男を悦ばせたり楽しませたりするものはたくさんあるのに、女性は家に縛られ、閉じ込められて、いつも男の犠牲になるばかりでした。私はそんな女性たちを解放してあげたいと思ったのです!!」

 そう、アンドレの運営する組織というのは、女性を悦ばせたり楽しませたりするサービスを提供している、らしい。
 
 そしてアンドレの目論見通り、日ごろ抑圧されている女性たちの間でアンドレの組織はどんどん口コミで広がり、いまや貴族のご婦人、ご令嬢の間では知らぬものはない存在となっているらしい。

「もちろん、お身体だけでなく、その心も含めて満足していただくのが私たちのモットーです!」

 アンドレは胸を張る。


「……」

 俺はそんなアンドレをジト目で見つめた。

 アンドレの事業は、たしかに女性のためになっていることだし、大変立派なものだと思うのだが……、


「でも、俺、男です……」

 俺の言葉に、アンドレはふわりと笑みを浮かべる。


 この笑い方、本当に、ずるい!!


「シャンタル様のご紹介なので、ジュール様は特別です。たしかに、基本的には女性のお客様にしか対応いたしませんが、ジュール様は十分いやら……、かわいらしく、また同性といえども、淫紋がある方相手の交合はかなりの快感が伴いますので、うちの男性キャストでも性的に十分反応できます!
それに、ジュール様はあのマリユス・ロルジュといういわゆる世界共通の女性の敵の被害者なのですから、十分にうちの顧客としての資格があります」

「でも、俺は……」

「ジュール、人間、時に受け入れることも必要よ。マリユスにつけられた淫紋がある限り、誰かとはそういうことをしないといけないんだから。それともジュールにはそういう当てがあるの?」

「あ、あるわけっ、ないですっ!」

 俺の全否定に、シャンタルとアンドレは大きく頷いた。
 地味に傷つく俺……。



「ただ、一つ問題があります」

 アンドレの美しい顔が翳る。

「なに? 

「ジュール様には誰か一人を専属でつける、ということができないのです……」

「どういう意味?」

「先ほど、ジュール様のお相手をして確信しました。おそらく淫紋の影響もあるのでしょうが、ジュール様との交合には中毒性があるため、何回も連続して同じ者がお相手すると、そのキャストがジュール様に執着してしまい、業務に支障をきたす恐れがございます」

「まあ……!」


「……よって、こちらからのご提案ですが、何人かの自制心の強いキャストを厳選いたしますので、その者たちに輪番制でお相手させていただく、ということでいかがでしょうか?」




 ――ちょっと、待て!!


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