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第13話 お姉様の策略
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二人の間に沈黙が流れた。
「あの、お姉様、それはいったい、どういう……」
「ジュール、あなたがテオドールを引き取るのよ。そして、立派に育て上げなさい!」
「ちょ、ちょっと、待ってください! 全く意味がわかりません。
そもそも私はマリユスとっ」
「ジュール、あなた、あの時私に泣いてわびたわね。お姉様に償えるならこれから何でもしますって」
俺はぐっとつまった。確かに言った、言ったけれども!!
「でも、それとこれとはっ……」
「それもこれも、全部ジュール、あなたも関わっていることでしょう?
あなたとのことがなければ、今もテオドールはアルボン家で暮らしていたのよ。どうなの? あなたに罪の意識はないの?」
シャンタルのエメラルドの瞳が俺を追い詰めていく。
「あります……っ、けど、私がマリウスに対してどんな気持ちでいるか、お姉様ならわかってくださるでしょう!?」
「それなら、余計に好都合だわ! テオドールはあなたと同じ。生まれたときからマリユスを憎んでいるのよ。どう? 同じ敵を持つ同士、仲良く暮らせると思わない?」
「でも私はっ、子どもを育てたことなんてないしっ」
「テオドールはもう14歳よ。赤ちゃんじゃないの。一通り自分のことは何でもできるわ。
それより、ジュール。私はあなたのことが心配なのよ。その様子だと、どうせ毎日ろくに食べていないんでしょう?
こんななにもないところで一人きりで生活なんて、寂しくて死んでしまいそうになるわよ。その点、若い男の子が来てくれたら、この家もパッと明るくなるでしょう! 年だって言うほど離れていないし……」
「ですが……、ですがっ」
最初からわかっていた。俺がシャンタルに口でかなうはずなどないことを。
「それに、この家はとてもいい場所にあるの。ほら、あなたも通ってた王立学園がすぐそばにあるって、気づいてた? さっそく来月からテオドールをここから通わすように手続きは済んでいるのよ。ジュール、どうせ暇でしょうからテオドールの勉強もたまには見てあげるのよ」
「学園……、来月っ!?」
俺は目をむいた。
なぜすでに手続きが済んでいるのか? 俺に断るという選択肢は、はなからないのか? というか、テオドールがここに住むのは、すでにお姉様のなかで決まっていること!?
「よかったわ。ジュールがいろいろ便利なここに住んでいてくれて! まさに一石二鳥ね。
そうそう、あとお姉様ね、デマル男爵と正式に婚約したから!」
「は!? え!?」
話の展開の速さに、全くついていけない。
デマル男爵といえば、王都で一番の商家の富豪である。若くして成り上がった男で、もちろん男爵を名乗ってはいるが、生粋の貴族ではなく、その莫大な富により得た爵位だ。
「お父様が弱っている今のうちに結婚することにしたの!
いつものお父様なら絶対大反対ですからね! ちょうどよかったわ!
お姉様、いろんなひとと付き合ってみてわかったのよ。やっぱり最後はお金が一番大事なんだってね!」
「お、お、お姉様……」
艶やかに笑うその姿は、まさに大輪の赤い薔薇……。
ーーそんなこと、お姉様の口から聞きたくなかった……。
「というわけで、結婚前までにテオドールのことをなんとかしておきたいのよ。ね、ジュールお願い、いいわよね?」
このままでは、完全にシャンタルに丸め込まれるいつものパターンだ。
俺は歯を食いしばって大きく息を吸い込んだ。
「お姉様がなんと言おうと、絶対に、無理ですっ! 俺はっ、俺はまだマリウスのこと、完全に忘れてないんですよっ! なのに、なのにあんなにそっくりな息子がそばにいたら、どんな気持ちになるかっ……!
俺はお姉様みたいに簡単に切り替えられませんっ」
一気に言い切ると、はあはあと息切れがした。20年間生きてきて、姉のシャンタルにここまで反発したのは生まれてはじめてだった。
「そう、なの……、じゃあ、しょうがないわね」
急にしおらしくなったシャンタルは、一口紅茶を飲んで目を伏せる。
「……」
「すごく、残念だわ。テオドールにはすごく、可愛そうだけど、やっぱりペラム子爵に引き取ってもらうしかないわね……」
「ペラム子爵ですって!?」
思わず俺は立ちあがっていた。
ペラム子爵といえば、美少年や若い男に目がない変態爺だ!
俺もまだ10代のはじめだったころ、どこかのパーティで尻を触られたことがある。
その時の気持ちの悪い感触と、ペラム子爵のしたり顔を思い出し、俺は身震いした。
「ペラム子爵は、テオドールのことを大変気に入ってくださって、すぐにでも養子に欲しいとおっしゃっているの、でも……」
「お姉様っ、何を考えているんですかっ!?
そ、そんなの! テオドールが手籠めにされるに決まってるじゃないですか! 養子だとかいって、毎晩自分のベッドの相手にするに決まっています!」
テオドールは誰がなんと言おうと美しい。まだ成長途中の若枝のような身体を組み敷いて思い通りにしたいという加虐趣味の男は大勢いるだろう。
ペラムのような変態にとっては、まさに垂涎ものの存在に違いない。
若干14歳のテオドールが、ペラムの性の餌食になることを想像して、俺は全身鳥肌が立った。
「絶対、絶対に駄目ですっ!!」
俺の剣幕とは逆に、シャンタルはにっこりと微笑んだ。
「じゃ、ジュールが引き取ってくれるということでいいわね。良かったわ。お姉様もこれで一安心よ。それじゃ、いまからテオドールにあなたを改めて紹介するから、行きましょ」
シャンタルは立ち上がると、まるで自分の家のように、スタスタと歩いていく。
「お姉様っ! えっ、ちょっとっ!?」
まんまとシャンタルにはめられた俺!
だが気づいたときには、すでに俺がテオドールを引き取ることは決定事項となっていた。
「あの、お姉様、それはいったい、どういう……」
「ジュール、あなたがテオドールを引き取るのよ。そして、立派に育て上げなさい!」
「ちょ、ちょっと、待ってください! 全く意味がわかりません。
そもそも私はマリユスとっ」
「ジュール、あなた、あの時私に泣いてわびたわね。お姉様に償えるならこれから何でもしますって」
俺はぐっとつまった。確かに言った、言ったけれども!!
「でも、それとこれとはっ……」
「それもこれも、全部ジュール、あなたも関わっていることでしょう?
あなたとのことがなければ、今もテオドールはアルボン家で暮らしていたのよ。どうなの? あなたに罪の意識はないの?」
シャンタルのエメラルドの瞳が俺を追い詰めていく。
「あります……っ、けど、私がマリウスに対してどんな気持ちでいるか、お姉様ならわかってくださるでしょう!?」
「それなら、余計に好都合だわ! テオドールはあなたと同じ。生まれたときからマリユスを憎んでいるのよ。どう? 同じ敵を持つ同士、仲良く暮らせると思わない?」
「でも私はっ、子どもを育てたことなんてないしっ」
「テオドールはもう14歳よ。赤ちゃんじゃないの。一通り自分のことは何でもできるわ。
それより、ジュール。私はあなたのことが心配なのよ。その様子だと、どうせ毎日ろくに食べていないんでしょう?
こんななにもないところで一人きりで生活なんて、寂しくて死んでしまいそうになるわよ。その点、若い男の子が来てくれたら、この家もパッと明るくなるでしょう! 年だって言うほど離れていないし……」
「ですが……、ですがっ」
最初からわかっていた。俺がシャンタルに口でかなうはずなどないことを。
「それに、この家はとてもいい場所にあるの。ほら、あなたも通ってた王立学園がすぐそばにあるって、気づいてた? さっそく来月からテオドールをここから通わすように手続きは済んでいるのよ。ジュール、どうせ暇でしょうからテオドールの勉強もたまには見てあげるのよ」
「学園……、来月っ!?」
俺は目をむいた。
なぜすでに手続きが済んでいるのか? 俺に断るという選択肢は、はなからないのか? というか、テオドールがここに住むのは、すでにお姉様のなかで決まっていること!?
「よかったわ。ジュールがいろいろ便利なここに住んでいてくれて! まさに一石二鳥ね。
そうそう、あとお姉様ね、デマル男爵と正式に婚約したから!」
「は!? え!?」
話の展開の速さに、全くついていけない。
デマル男爵といえば、王都で一番の商家の富豪である。若くして成り上がった男で、もちろん男爵を名乗ってはいるが、生粋の貴族ではなく、その莫大な富により得た爵位だ。
「お父様が弱っている今のうちに結婚することにしたの!
いつものお父様なら絶対大反対ですからね! ちょうどよかったわ!
お姉様、いろんなひとと付き合ってみてわかったのよ。やっぱり最後はお金が一番大事なんだってね!」
「お、お、お姉様……」
艶やかに笑うその姿は、まさに大輪の赤い薔薇……。
ーーそんなこと、お姉様の口から聞きたくなかった……。
「というわけで、結婚前までにテオドールのことをなんとかしておきたいのよ。ね、ジュールお願い、いいわよね?」
このままでは、完全にシャンタルに丸め込まれるいつものパターンだ。
俺は歯を食いしばって大きく息を吸い込んだ。
「お姉様がなんと言おうと、絶対に、無理ですっ! 俺はっ、俺はまだマリウスのこと、完全に忘れてないんですよっ! なのに、なのにあんなにそっくりな息子がそばにいたら、どんな気持ちになるかっ……!
俺はお姉様みたいに簡単に切り替えられませんっ」
一気に言い切ると、はあはあと息切れがした。20年間生きてきて、姉のシャンタルにここまで反発したのは生まれてはじめてだった。
「そう、なの……、じゃあ、しょうがないわね」
急にしおらしくなったシャンタルは、一口紅茶を飲んで目を伏せる。
「……」
「すごく、残念だわ。テオドールにはすごく、可愛そうだけど、やっぱりペラム子爵に引き取ってもらうしかないわね……」
「ペラム子爵ですって!?」
思わず俺は立ちあがっていた。
ペラム子爵といえば、美少年や若い男に目がない変態爺だ!
俺もまだ10代のはじめだったころ、どこかのパーティで尻を触られたことがある。
その時の気持ちの悪い感触と、ペラム子爵のしたり顔を思い出し、俺は身震いした。
「ペラム子爵は、テオドールのことを大変気に入ってくださって、すぐにでも養子に欲しいとおっしゃっているの、でも……」
「お姉様っ、何を考えているんですかっ!?
そ、そんなの! テオドールが手籠めにされるに決まってるじゃないですか! 養子だとかいって、毎晩自分のベッドの相手にするに決まっています!」
テオドールは誰がなんと言おうと美しい。まだ成長途中の若枝のような身体を組み敷いて思い通りにしたいという加虐趣味の男は大勢いるだろう。
ペラムのような変態にとっては、まさに垂涎ものの存在に違いない。
若干14歳のテオドールが、ペラムの性の餌食になることを想像して、俺は全身鳥肌が立った。
「絶対、絶対に駄目ですっ!!」
俺の剣幕とは逆に、シャンタルはにっこりと微笑んだ。
「じゃ、ジュールが引き取ってくれるということでいいわね。良かったわ。お姉様もこれで一安心よ。それじゃ、いまからテオドールにあなたを改めて紹介するから、行きましょ」
シャンタルは立ち上がると、まるで自分の家のように、スタスタと歩いていく。
「お姉様っ! えっ、ちょっとっ!?」
まんまとシャンタルにはめられた俺!
だが気づいたときには、すでに俺がテオドールを引き取ることは決定事項となっていた。
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