10 / 165
第10話 裏切りと絶望
しおりを挟むそこから先は、壮絶な嵐の中にいるような感覚だった。
俺とマリユスとのコトの真っ最中を目撃した父親は、怒りのあまり血管が切れてしまったのか、なんとその場に泡を吹いて倒れてしまったのだ。
騒ぎを聞きつけたメイドが、母親を呼び、母親が俺の部屋に駆けつけたときには、俺とマリウスはかろうじて服を着ていたが、部屋や寝台の様子から俺たち二人が何をしていたのかは、バレバレだった。
「お義母様っ、これはっ、これは違うんですっ、これはッ……!」
まさに間男のテンプレのセリフを履きながら、マリユスは俺から離れた。
「シャンタルがあなたと婚約してから、ジュールの様子がどこかおかしいと思ったら……、まさかこんなことになっていたとは……」
唇を震わせておののく母親だったが、指示と対応は的確そのものだった。
「旦那様を寝室に運びなさい。それから、ジュールはこの部屋に閉じ込めてしばらく出さないように。マリユスはとりあえず3階の客間に監禁を。その間にマリユスの持ち物や身の回りのものをすべて捜索しなさい。おそらく……、この様子ではジュールのほかにもたくさん愛人がいるでしょう……、各所に報告しなければ」
「はい、奥様!」
執事をはじめとした、屋敷の男衆が母親の指図通り、倒れた父親を寝室に運び、罪人の俺たちを拘束した。
「マリユス! あなたっ、ジュールにだけは手を出さないって、あれほど約束したでしょう!」
金切り声に振り向くと、目を三角にしたシャンタルが、マリユスに向かって吠えていた。
「シャンタル、すまない、つい……、だってジュールは……」
「だってもへちまもないっ!! あなたっ、ジュールの純粋さにつけこんで、ジュールをおもちゃにしていたのねっ!
よくも私の可愛いジュールをっ!! 許せないわっ! どうせ手を出すなら、その辺に処女のご令嬢なんて掃いて捨てるほどいたでしょうっ!?」
俺にはシャンタルの怒りのポイントがどこにあるのかはわからなかったが、続けてシャンタルが言ったセリフに俺は大きな衝撃を受けた。
「王の側室のカミーユとはどうなったのよっ! どうせ、今日も逢いに行っていたんでしょっ!?」
そう、奇しくもその日は、王の側室のカミーユの29歳の誕生日だったのだ。どんな因果か俺と同じ誕生日だったカミーユを祝いに、マリユスは王宮に忍び込んでいたらしい。もちろん俺の誕生会をすっぽかして……。
そして俺は、マリユスは俺の他にも愛人がいたこと、しかもその愛人と比べられて、俺が誕生日を後回しにされていたことを同時に知ることになった……。
その時の俺は、まだ本当に子どもで、マリユスがただひたすら自分を愛しているのだと信じ切っていた。
だから、自分のほかにもマリユスの愛を受けている人がいること、そして、その人のほうが自分よりも優先順位が高かったことを知った俺は、立ち直れないほどのショックを受けていた。
「マリユス、酷いよっ! 信じてたのにっ! 俺のこと愛してるって、あんなに、言ってたじゃないか!」
俺は目に涙をためながら、マリユスを睨んだ。
「も、もちろん、愛しているよ、ジュール。君への気持ちは本当に偽りはないっ!」
「……ジュール。馬鹿な子ね。すっかりマリユスに騙されていたのね……」
シャンタルが悲しげな視線を俺に向ける。
「とにかく、このことは絶対に表には出ないようにしなければ。
シャンタル、王の側室とマリユスが密通しているというのは間違いないのね。だったらとりあえず、そのことを王宮に報告しましょう。
マリユスについては、王家が裁きをくだしてくれるでしょう。
ジュールのことについては、口外は無用です!」
母親がテキパキとその場を取り仕切る。
姉のシャンタルも、母親も、とっくに分かっていたのだ。
ーーマリユスのような男が、たった一人の人間を愛すことなど、決してないことを。
173
お気に入りに追加
1,467
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる