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第10話 裏切りと絶望

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 そこから先は、壮絶な嵐の中にいるような感覚だった。

 俺とマリユスとのコトの真っ最中を目撃した父親は、怒りのあまり血管が切れてしまったのか、なんとその場に泡を吹いて倒れてしまったのだ。

 騒ぎを聞きつけたメイドが、母親を呼び、母親が俺の部屋に駆けつけたときには、俺とマリウスはかろうじて服を着ていたが、部屋や寝台の様子から俺たち二人が何をしていたのかは、バレバレだった。


「お義母様っ、これはっ、これは違うんですっ、これはッ……!」

 まさに間男のテンプレのセリフを履きながら、マリユスは俺から離れた。


「シャンタルがあなたと婚約してから、ジュールの様子がどこかおかしいと思ったら……、まさかこんなことになっていたとは……」

 唇を震わせておののく母親だったが、指示と対応は的確そのものだった。


「旦那様を寝室に運びなさい。それから、ジュールはこの部屋に閉じ込めてしばらく出さないように。マリユスはとりあえず3階の客間に監禁を。その間にマリユスの持ち物や身の回りのものをすべて捜索しなさい。おそらく……、この様子ではジュールのほかにもたくさん愛人がいるでしょう……、各所に報告しなければ」

「はい、奥様!」

 執事をはじめとした、屋敷の男衆が母親の指図通り、倒れた父親を寝室に運び、罪人の俺たちを拘束した。


「マリユス! あなたっ、ジュールにだけは手を出さないって、あれほど約束したでしょう!」

 金切り声に振り向くと、目を三角にしたシャンタルが、マリユスに向かって吠えていた。


「シャンタル、すまない、つい……、だってジュールは……」

「だってもへちまもないっ!! あなたっ、ジュールの純粋さにつけこんで、ジュールをおもちゃにしていたのねっ!
よくも私の可愛いジュールをっ!! 許せないわっ! どうせ手を出すなら、その辺に処女のご令嬢なんて掃いて捨てるほどいたでしょうっ!?」

 俺にはシャンタルの怒りのポイントがどこにあるのかはわからなかったが、続けてシャンタルが言ったセリフに俺は大きな衝撃を受けた。


「王の側室のカミーユとはどうなったのよっ! どうせ、今日も逢いに行っていたんでしょっ!?」


  そう、奇しくもその日は、王の側室のカミーユの29歳の誕生日だったのだ。どんな因果か俺と同じ誕生日だったカミーユを祝いに、マリユスは王宮に忍び込んでいたらしい。もちろん俺の誕生会をすっぽかして……。

 そして俺は、マリユスは俺の他にも愛人がいたこと、しかもその愛人と比べられて、俺が誕生日を後回しにされていたことを同時に知ることになった……。


 その時の俺は、まだ本当に子どもで、マリユスがただひたすら自分を愛しているのだと信じ切っていた。

 だから、自分のほかにもマリユスの愛を受けている人がいること、そして、その人のほうが自分よりも優先順位が高かったことを知った俺は、立ち直れないほどのショックを受けていた。


「マリユス、酷いよっ! 信じてたのにっ! 俺のこと愛してるって、あんなに、言ってたじゃないか!」

 俺は目に涙をためながら、マリユスを睨んだ。


「も、もちろん、愛しているよ、ジュール。君への気持ちは本当に偽りはないっ!」


「……ジュール。馬鹿な子ね。すっかりマリユスに騙されていたのね……」

 シャンタルが悲しげな視線を俺に向ける。

「とにかく、このことは絶対に表には出ないようにしなければ。
シャンタル、王の側室とマリユスが密通しているというのは間違いないのね。だったらとりあえず、そのことを王宮に報告しましょう。
マリユスについては、王家が裁きをくだしてくれるでしょう。
ジュールのことについては、口外は無用です!」

 母親がテキパキとその場を取り仕切る。


 姉のシャンタルも、母親も、とっくに分かっていたのだ。




 ーーマリユスのような男が、たった一人の人間を愛すことなど、決してないことを。

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