上 下
9 / 165

第9話 暴露

しおりを挟む
 淫紋を刻まれた直後のセックスは、正直よく覚えていない。

 ただ、ありえないほどに乱れまくったことと、マリユスが執拗に何度も何度も俺を責め立てて、俺は泣きながらもう許してほしいと懇願したことは、今でもぼんやりと記憶に残っている。

 マリユスは俺に淫紋を刻んだことでなにか満足したのか、それからは俺に対してびっくりするほどべったりになった。

 俺は急に構い倒してくるマリユスに対して驚きはしたが、ついにマリユスが自分だけのものになったのだと思えて、すごくうれしかった。




 ――そして、ついに俺の二十歳の誕生日、俺を地獄のどん底に叩き落とす事件が起こったのだった。




 その日の夕食、仕事でどうしても都合がつかないというマリユスを除いた俺の家族は、屋敷で俺の二十歳の誕生日を祝ってくれていた。


「ジュール、そろそろイネスとの結婚について考えないといけないな」

 父親がもったいぶった口調で切り出した。


「……」

 結婚する気などさらさらない俺は、押し黙った。


「たまには息抜きも必要だ。勉学に励むのもいいが、一度イネスに会いに行ってやれ。
寂しがっていると聞いているぞ」


「……私は、イネスとの婚約を破棄したいと思っております」

 俺の言葉に、一同は驚きの声を上げた。


「ジュール、あなた正気? 昔からイネスとは大の仲良しだったじゃない。
お似合いの二人だったのに、どうして?」


 シャンタルが目を丸くする。

 まさか原因は貴方の夫です、などとは言えない。


「いろいろ、考えてのことです……」

 俺は目を伏せる。


「ジュール、そんなに結論を急ぐことはないわ。まだ二十歳になったばかりなのだし、この件については、じっくり考えましょう」


 落ち着いた表情で母親が俺を見る。
 真面目な母親らしい諭し方だった。


「ま、まあ、そうだな。まだ結婚を急ぐような歳でもないのだし」

 父親が咳払いする。


 だが、この時の俺は、もうすでに心は決まっていた。早くイネスとは婚約破棄し、イネスには新しい男性を見つけてもらいたかった。イネスは気立ての優しい可愛い子のなので、相手はいくらでもいるはずだ。


 気の乗らない晩餐を終えた俺は、ひとり部屋に戻りため息をつく。



「せっかくの誕生日に、そんな浮かない顔はいけないな」

 上着をクローゼットにかけていた俺は、不意に後ろから抱きつかれた。


「ーーマリユスっ!!」

 どこからか俺の部屋に忍び込んでいたマリユスだった。


「ごめんね、ジュール。遅くなってしまった」

 マリユスは手にしていた花束を俺に差し出した。


「ジュール、二十歳の誕生日おめでとう。愛してるよ」

「マリユスっ!」

 俺はマリユスに抱きついた。俺が好きだと言っていた花、ーー青いアネモネの花束が床に落ちる。



 マリユスは俺を横抱きにしたまま、俺を寝台まで運んだ。

「ねえ、今日は忙しいんじゃなかったの?」


 思わずでる憎まれ口に、マリユスは微笑んだ。

「どんなに忙しくても、今日は俺の愛するジュールの誕生日だよ。
たとえ、どんな用事があっても、君におめでとうを言いに駆けつけるさ!」

「マリユス、大好きだよ……、もう俺から離れないで!」


 俺は俺の上に乗るマリユスの首に手を回した。


「もちろん……、君は一生俺のものだよ……」

 口づけは深く、甘く、俺を酩酊させるのに十分だった。


「ジュール、君の淫紋を見せて……、ああ、すごくきれいだよ。興奮してるんだね……、赤く光っている……」

「マリユス、身体が熱いんだ……、早く、早く来て……。欲しいんだよ、マリユス!」


 マリユスに淫紋を刻まれたことで、俺は前よりずっと性に貪欲になっていた。


 ーーおそらくそれが、マリユスの本当の狙いだったんだろう。


 マリユスの従順な性の玩具と化した俺は、マリユスの欲望を満たすためにはなんだってできた……。


 そして、二十歳の誕生日の夜、俺の寝台の上で始まった二人の交合は、なかなか終わることができなかった。


 ーーだから、突然の訪問者に俺たちはなすすべもなかった。




「ねえ、ジュール、もう一回……」

 裸でみだらに絡み合ったまま、マリユスが俺の首筋に舌を這わせてきた。


「だめ、だよ……、マリユス、もう……っ」


「嘘つきだね、ジュール。まだ淫紋は光ってるよ」

 マリユスの手が、俺の下腹部に伸びる。


「あっ、んっ、ダメッ、イッたばっかりだからっ、ああっ……」

「力抜いてて、大丈夫、柔らかいままだからすぐに入るよ」


 マリユスが俺の片足を抱え上げたその時……、




「お前たちっ、一体何をしているんだっ!!」




 父親の怒号が、部屋に響いていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。 国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。 王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。 そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。 そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。 彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。 心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。 アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。 王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。 少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

処理中です...