【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

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第5話 選択

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 マリユスは自分のシャツのボタンをはずし、裸の胸を俺にさらした。
 美しい筋肉の曲線があらわになり、俺は思わず目を伏せる。

「やめ、ろ……」

 だが俺の声は、ひどく弱々しいものだった。

「ジュール、君も見せて。君もきっと同じくらい、俺にドキドキしてくれているだろう?」

 マリユスの指が俺のシャツのボタンに伸びる。

 俺はとっさにシャツをつかんだ。

「駄目だっ! 何を考えてるんだ!? あなたは……、あなたはお姉さまと結婚するんでしょう?」

 睨みつける俺に、マリユスは唇のはじをつりあげる。

「……だから?」

「……え?」

 俺は正面から、マリユスに抱きしめられていた。

「俺がシャンタルと結婚するからって、どうだっていうんだい?
君は本当に、純真なんだね。あのシャンタルと血がつながっているなんて、信じられないよ」

「どういう意味ですっ!? 離して、くださいっ!」

「シャンタルと俺は、いわば契約結婚、だよ。お互い束縛せず、自由に恋愛を楽しむために、とりあえず結婚するだけだ」

「とりあえず……?」

 強い力で拘束され、俺はマリユスの腕の中で身動きができない。

「おやおや、その分じゃ、本当に何も知らされていないんだね。ジュールは、ダンデス伯爵のせいで、まだ社交界にはデビューしていなかったのだっけ? でも、社交界の人間なら、誰でも知ってるよ。今までシャンタルが浮名を流した男たちは、両の手では到底足りないくらいだ……」

 俺をからかうかのように、マリユスの手がシャツの中に入ってきて、背中を撫でまわした。

「嘘だっ! お姉さまは、そんな人じゃない! お姉さまは……っ!」

「シャンタルも俺も、一人に縛られるような人間じゃない。
でもさすがにいつまでも独身でいるにはそろそろ都合が悪くなってきた。だから、この結婚はお互いにとって利益があることなんだ」

「そんなの、信じない……」

 気づくと、俺のシャツのボタンは全部外され、マリユスの手のひらが素肌を這っていた。

「シャンタルにすっかり騙されていたんだね。それで……、君はいいの?」

 深緑の瞳が、俺をのぞき込む。
 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「どういう、意味……だよ」

「このまま、楽しいことは何も知らないまま、ずっと真面目に生きていくの? いけないことや悪いことは何一つせずに、清廉潔白なまま……。すべては君のお父様の言うとおりに……。
こんなに美しくて、いやらしい身体を持て余して……」

 マリユスの人差し指が、俺の鎖骨をなぞり、臍までおりていった。


「やっ、あ……」

「敏感、だね、ジュール。君はすごくいけなくて、すごく気持ちいいこと、知りたくはない?」

 マリユスの指が、俺のへそをくすぐる。

 不快なはずなのに、何とも言えないむず痒い感覚が、俺の背中を這っていった。

「いら、ないっ……」

 俺はマリユスから顔をそむける。
 
「ねえ、ジュール、君次第、だよ。俺なら、君に教えてあげることができる。もう戻れないっていうくらい、気持ちいいところまで行きたくない?
もちろん、みんなには秘密だよ。俺と君は、これから秘密の恋人になるんだ」

「や、だ……」

「君が選んで、いいんだよ。ジュール。君の身体は、もう答えが出てるみたいだよ。ほら、こんなに待ちわびてる」

 ピンと乳首を弾かれると、思わずうめき声が漏れる。

「こんなところも感じちゃうんだ。すごく、秘めた才能を感じるよ。ジュール、俺なら君の魅力を、もっともっと引き出してあげることができるよ……」

「んっ……」

 首筋を吸われると、身体の力が抜けて頭がぼおっとしてきた。

「どうする? ジュール。君が決めるんだ。怖がらなくてもいい……。
君が知らないだけで、貴族の男なら、みんながやっていることだよ。
誰もが経験する、ちょっとした悪い遊びだよ」

 俺はマリユスの美しい唇にくぎ付けになっていた。

「みんなが……」

 マリユスの誘いは、まさに悪魔の誘惑だった。
 恋愛経験にも乏しく、悪いことをしたこともない堅物の俺には、ほとんど劇薬と言ってよかった。
 マリユスにとって、俺をその手に堕とすことなど、赤子の手をひねるように簡単なことだったのだろう。


「そうだよ、ジュール。みんな、君の知らないところで楽しんでるんだ。君だけ除け者なんて、悲しすぎるろう?
だから俺が連れて行ってあげる。さあ、この先も、もっともっと知りたいなら、君から俺にキスして」


 そしてもちろん、悪魔の誘惑をはねのけることができる人間なんて、いるはずがなかった。

「……」

 俺はマリユスの首に両手をまわすと、背伸びをする。

「そうだよ、ジュール。それでいい……」

 触れた唇は思っていたよりも、温度が低くひんやりとしていた……。



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