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第4話 虜
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「なにするんですかっ、やめ……っ、んっ……」
振り向いたところを、強引に口づけられた。
俺は目を大きく見開いた。目の前には、整ったマリユスの顔がある。
「君の唇は、甘いね……」
顔を離したマリユスがにやりと笑う。
「あ、アンタっ、……いったい、何を、どういう、つもりでっ!」
俺は拳で唇をぬぐう。
「あれ? すごく動揺してるね? もしかして、キスは初めてなのかな?」
マリユスは人差し指でゆっくりと俺の唇を撫でた。
「……っ」
図星だった。
俺には当時、2歳年下の婚約者・イネスがいたが、イネスは純粋無垢な娘で、結婚式のその時までキスはとっておきたいという理想を持っていた。
物わかりのいいふりをした俺は、そのイネスの希望をずっと尊重してきたのだ。
だから……。
「へえ……、18歳なのに手つかずとは、さすがはダンデス家のお坊ちゃまだ。
国宝級の、希少価値だね……」
マリユスの瞳が、細められる。
「馬鹿に、するなっ! ふざけるなよっ、アンタはお姉さまの婚約者だろっ!?
こんなことして、許されると思うなっ……んっ、んんっ!!」
楽し気に俺を見ると、マリユスは再び唇を重ねてきた。
「ねえ、こんなに隙だらけで……、まるで襲ってくださいっていっているようなものだよ。
ジュール、君はもっと自分の魅力を自覚した方がいい。
この金茶の髪も、青灰色の瞳も、甘い声も、俺をどれだけときめかせているか、わかっているの……?」
「……っ、んっ、あ、ああ」
マリユスのぬめった舌が俺の咥内を這いまわる。
男同士で、こんなこと絶対に気持ち悪いはずなのに、俺の心は甘く反応していた。
がくんと力の抜けた俺を、マリユスは支えた。
「立っていられないくらい、感じちゃった?
すごく敏感だね……、すごくいいよ」
「やめっ……」
耳たぶを噛まれて、俺の身体は跳ねた。
「可愛いよ、ジュール。君は本当に素敵だよ」
「しらじらしいっ! 俺が、素敵なわけ、ないだろっ!」
俺はマリユスの胸を両手で押し返した。
「君は全然自分の価値をわかっていないね。こんなに俺の心を震わせる子に会ったのは、生れてはじめてだよ」
――マリユス・ロルジュは、生まれついての女たらし。こんなセリフはいままで何万回と言ってきたことだろう。
だが、この時の俺は、マリユスの俺への惜しみない賛美に、心のどこかで喜びを感じていた。
これまで生きてきて、ずっと姉のシャンタルだけが、注目を浴びていた。シャンタルに比べて、どうしても容姿が劣る俺は「真面目で地味なシャンタルの弟」という存在でしか周りから見られていなかった。
でも俺だって、本当はいつも心のどこかで、シャンタルのように賞賛されることを望んでいた。
――マリユスは俺のそういう心の隙を、巧みに突いてきた。
マリユスのようにひときわ美しい男に、自分という存在を認められ、褒められ、俺はどこか有頂天になってしまった。
「嘘だ……」
「嘘じゃない、ねえ、ほら、わかる? 触ってみて、俺の心臓、こんなにドキドキしてる……。
全部、君のせいだよ」
マリユスが俺の手をつかみ、自分の胸に当てさせた。
筋肉質の逞しい手触りに、俺はドキリとする。
「もっと触って。いいんだよ……、全部、君のものだよ。
ジュール、俺はもう、君の虜だ…‥」
振り向いたところを、強引に口づけられた。
俺は目を大きく見開いた。目の前には、整ったマリユスの顔がある。
「君の唇は、甘いね……」
顔を離したマリユスがにやりと笑う。
「あ、アンタっ、……いったい、何を、どういう、つもりでっ!」
俺は拳で唇をぬぐう。
「あれ? すごく動揺してるね? もしかして、キスは初めてなのかな?」
マリユスは人差し指でゆっくりと俺の唇を撫でた。
「……っ」
図星だった。
俺には当時、2歳年下の婚約者・イネスがいたが、イネスは純粋無垢な娘で、結婚式のその時までキスはとっておきたいという理想を持っていた。
物わかりのいいふりをした俺は、そのイネスの希望をずっと尊重してきたのだ。
だから……。
「へえ……、18歳なのに手つかずとは、さすがはダンデス家のお坊ちゃまだ。
国宝級の、希少価値だね……」
マリユスの瞳が、細められる。
「馬鹿に、するなっ! ふざけるなよっ、アンタはお姉さまの婚約者だろっ!?
こんなことして、許されると思うなっ……んっ、んんっ!!」
楽し気に俺を見ると、マリユスは再び唇を重ねてきた。
「ねえ、こんなに隙だらけで……、まるで襲ってくださいっていっているようなものだよ。
ジュール、君はもっと自分の魅力を自覚した方がいい。
この金茶の髪も、青灰色の瞳も、甘い声も、俺をどれだけときめかせているか、わかっているの……?」
「……っ、んっ、あ、ああ」
マリユスのぬめった舌が俺の咥内を這いまわる。
男同士で、こんなこと絶対に気持ち悪いはずなのに、俺の心は甘く反応していた。
がくんと力の抜けた俺を、マリユスは支えた。
「立っていられないくらい、感じちゃった?
すごく敏感だね……、すごくいいよ」
「やめっ……」
耳たぶを噛まれて、俺の身体は跳ねた。
「可愛いよ、ジュール。君は本当に素敵だよ」
「しらじらしいっ! 俺が、素敵なわけ、ないだろっ!」
俺はマリユスの胸を両手で押し返した。
「君は全然自分の価値をわかっていないね。こんなに俺の心を震わせる子に会ったのは、生れてはじめてだよ」
――マリユス・ロルジュは、生まれついての女たらし。こんなセリフはいままで何万回と言ってきたことだろう。
だが、この時の俺は、マリユスの俺への惜しみない賛美に、心のどこかで喜びを感じていた。
これまで生きてきて、ずっと姉のシャンタルだけが、注目を浴びていた。シャンタルに比べて、どうしても容姿が劣る俺は「真面目で地味なシャンタルの弟」という存在でしか周りから見られていなかった。
でも俺だって、本当はいつも心のどこかで、シャンタルのように賞賛されることを望んでいた。
――マリユスは俺のそういう心の隙を、巧みに突いてきた。
マリユスのようにひときわ美しい男に、自分という存在を認められ、褒められ、俺はどこか有頂天になってしまった。
「嘘だ……」
「嘘じゃない、ねえ、ほら、わかる? 触ってみて、俺の心臓、こんなにドキドキしてる……。
全部、君のせいだよ」
マリユスが俺の手をつかみ、自分の胸に当てさせた。
筋肉質の逞しい手触りに、俺はドキリとする。
「もっと触って。いいんだよ……、全部、君のものだよ。
ジュール、俺はもう、君の虜だ…‥」
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