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【番外編】
金の精霊の受難(後編)
しおりを挟むアムルのキラキラした水色の瞳で見つめられ、思わず「もちろんよ! 私を一体誰だと思っているの!?」と答えそうになるのをぐっとこらえる。
もし本当にそんなことをしたら、あの恐ろしい魔王に羽をむしられるくらいではすまない。
「それは……、ちょっと……、できかねるわね……」
金の精霊がアムルに初めて会った時の印象は、虚ろな瞳の精気のないオメガというものだった。なぜこんなオメガに、魔王が執着するのかもよくわからなかった。
だが、魔法国に来てからのアムルは、すっかり明るく快活になった。魔力も強く、人間にしては造作が整っていることもあり、アミードの部下の魔法使いからも秋波を送られているのをよく見る。
そんなこともあるから余計に、魔王はアムルを自分の傍らから離そうとしない。
ーー魔王様のイメージもすっかり変わってしまったけど……。
「そう……、ですか……」
しゅんとしたアムルを見て、さすがの金の精霊もすこし良心が痛んだ。
「で、何があったの? 魔王様をお部屋から追い出したりして……」
薄々何があったか気づいてはいたが、とりあえずアムルにたずねてみる。
「それが……! 酷いんです! アミードが絶対に誰も来ないし、一度だけでいいからっていうから……、その……、玉座で……」
アムルが言いよどむ。
ーーなるほど、魔王は最愛の番と、玉座で一度いたしてみたかったと……。
金の精霊は遠い目になる。
「でも、なにもそんなに怒ることもないじゃない。愛する者同士の交合は、本来とても崇高なものよ」
金の精霊の言葉に、アムルは顔を歪ませた。
「精霊様には、わからないのですっ! アミードはっ、あいつはっ、御前会議があって、部下たちがすでに広間に勢ぞろいしていることを承知の上で、私を押し倒して服を脱がせて……!」
「帳はおろしていたのでしょう? なら、見られてはいないじゃない」
アムルは拳を握りしめ、ぶるぶると震え始めた。
「帳は……っ、おろしていたのですが、あいつはっ、わざと薄い帳をおろしたんだっ! だから私達がどんな格好をして交わっていたか、私がどんな声を出していたか、全てっ、丸わかりでっ!」
もう一度アムルは枕に突っ伏した。
「ちょうどヒートになってしまって、私もわけがわからない状態になってしまったのをいいことに、あいつはっ、私にいやらしいことをいっぱいさせて、恥ずかしい言葉をたくさん言わせて……っ! ああっ、おかげでもう明日からもう外を歩けないっ!!!」
「まあ……、それは……」
思わず金の精霊も言葉を濁した。
魔王が悪趣味なのは知っていたが、これほどとは……。おそらく魔王の部下たちを牽制するためのことだろうが、それにしても加虐趣味が酷い。
「アミードに言ってください! 絶対に許さないから、と! これからは部屋を分けることにするから、もうここには来るなと!」
「……」
なぜか、アムルからも伝言を言付かることになってしまった金の精霊は、しおしおと魔王のもとに戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「役立たずめ!!」
赤い魔眼で見据えられると、精霊といえども肝が冷えた。
「魔王様、アムルは今興奮しているんです。しばらく様子を見て……」
「断る!」
ーーああ、もう帰りたい。帰る場所なんてないけど……。
「魔王様、とにかく今日のところは……」
ーーなぜ金の精霊ともあろう私が、こんな痴話喧嘩の仲裁を!?
「くそっ、こうなったら仕方がない、扉を魔力で吹き飛ばす!」
「ええっ!? 魔王様っ!?」
アミードはすでにその手に魔力を集め始めている。
魔王自ら宮殿の破壊とは、本当にシャレにならない。
なんとか魔王の気をそらそうと、金の精霊が魔王の頭上を飛び回る。
ーーその時、
「もうっ、夜遅くにうるさいわね! 集中できないじゃない!」
銀のローブを羽織った少女が、赤髪をなびかせてこちらに向かってきた。
見た目はすでに立派な魔女ーー、12歳になったばかりのアムルの娘・マイイだった。
「あっ、マイイ。ごめんね、もう寝てた?」
アミードがとたんに相好を崩す。アミードが手のひらに集めていた魔力は、一気に霧散した。
「今ちょうど帳を下ろす練習をしてたの」
「すごいね! もうそんな高等な魔法が使えるんだ! さすがマイイ!」
マイイを次の女王へと考えているアミードは、マイイの魔法の上達がとても嬉しいらしい。
「パパ、何なの? またお母様を怒らせたの?」
アミードをパパと呼ぶマイイは、はあーっとため息をついた。
「それがね、マイイ、聞いてくれよ! アムルったらひどいんだ! 今日御前会議があって、アムルの……」
突然、寝室の扉が大きな音を立てて開いた。
「アミードっ! 子どもに何を話すつもりだっ!」
魔王がどうやっても開くことが出来なかった扉がついに開き、中から焦った表情のアムルが出てくる。
もちろん、魔王がその隙を見逃すはずはなかった。
「良かった! アムル。開けてくれてありがとう! じゃあ、マイイ、おやすみなさい!」
「ちょっ、なにっ!? こらっ、アミードっ、僕はまだ許してな……、んっ、んんっ……」
にやりと笑ったアミードは、あっという間にアムルを抱き込むと、素早くその唇を奪い、後ろ手に扉を閉めた。
「……」
「……」
金の精霊とマイイはお互いに顔を見合わせる。
「……あなた、一体何年パパの部下をやってるわけ?」
マイイが蔑んだような視線を向けてくる。
「はっ!? 私は金の精霊よ! 部下なんかじゃないわ」
「精霊が聞いて呆れるわ! 使役されているくせに、わからないの?」
青い瞳のマイイが挑戦的な眼差しを向けてくる。
「どういう意味よっ!?」
マイイはやれやれと肩をすくめて見せた。
「あのね、パパのこれは、全部遊戯なのよ」
「遊戯?」
「喧嘩も、仲直りまでも全て含めて、お母様とする遊戯の一連なの。
だから……、まともに取り合うだけ無駄だってこと」
「……」
返す言葉をなくした金の精霊に背を向け、マイイはひらひらと手をふった。
「じゃあね、今日は魔王様のお部屋にはいっちゃだめよ。精霊さん!」
ーー何を、何を、何をぉおおおおおっ!!!!!!
金の精霊はぷるぷるとその小さな身体を震わせる。
ーー何よっ、何よっ、たかが、たかが人間の小娘のくせにっ!!!!
しかし、なぜだろう。
年を経て成長するごとに、マイイが精霊の主人であるアミードに似てくるのは……。
ーー末恐ろしい娘だわ……。
金の精霊は首を振ると、ふらふらと飛び始めた。
ーー今は早くルゥルゥに会いたい……。
もはや金の精霊の心のよりどころとなっているのは、まだ幼く純粋なルウルゥだけなのだった。
(了)
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感想ありがとうございます❤最後まで呼んでいただきありがとうございました。
マーリクは最後はちょっと不憫でしたね・・・でも王妃がいてくれたのでよかったです。ラブラブとは言い難いですがね・・😅
漫画化!私も見たみたいです〜!イラストで見たいですね。作者ですが・・・笑
温かいコメントありがとうございました❤感謝です。
こちらにも感想ありがとうございます!
いえいえ、連載中でも雑音になんて全然なりませんよ〜!感想いただけてとってもうれしいです❤
マーリクですが、私もお気に入りだったので気に入ってくださってうれしいです。
もちろんマーリクもアムルを純粋に愛しており、それ故の行動だったので、マーリク自身にもいろいろと葛藤があったことと思います!
アムルのほうも、マーリクのことは少年時代から憎からず思っており、それ故に二人の関係はとてもむずかしいものになってしまいました……。
立場上、側室にしかできませんでしたが、マーリクのアムルを一途に思う姿に共感していただけてとても光栄です!!
私も兄弟BLは、大好物なので、とても書いていて楽しかったです!が、やっぱりアミードは、最後ちょっと振り切れていましたね!まあ、それくらいの熱意?がないと、双子BLは成就させられないかと……。
アミードは、当初は爽やか系の美形のつもりだったのですが、最後はただの魔王にしか思えなくなっていました……。
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カミーラも気に入っていただきありがとうございます。女性キャラはいつも楽しくかけているのですが、この方は私の作品の登場人物にしては、いつになく真っ当な人間でよかったです……!
お読みいただきありがとうございます。いつも感想うれしいです。感謝、感謝です❤
完結おめでとうございます!番外編楽しみにしてます!
皆幸せになってよかった
最後までありがとうございました❤
番外編は、その後のアミード&アムルのお話です。よろしくおねがいします😍
感想ありがとうございます!!