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第24話 魔王の番
しおりを挟む温かい腕の中で、アムルはまどろんでいた。
――こんなにやすらかな気持ちで眠りについたのはいつ以来だろう。
目を開けると、血のように赤い瞳が、優しくアムルを見つめていた。
「目が、覚めたの?」
「うん……」
アムルはアミードの肩口に、自分の額を押し当てる。
「まだ、眠っていても大丈夫だよ。夜明けまで時間がある……」
アミードは囁くように言うと、ゆっくりとアムルの裸の背を撫でた。
こんな風に裸で抱き合っているだけでも、信じられないほどの幸福感に満たされるのは、相手がアミードだからなのだろう。
「アミード、もうどこにも行かないで……」
アムルはアミードの背に手をまわす。
「行かないよ。アムル……、これからはずっと一緒にいよう」
アミードはアムルのつむじにキスを落とす。
「でも……」
アミードの言葉に、アムルは顔を曇らせる。
アミードは魔法国を治める魔王で、自分はこの国の側室だ。
夜伽を終えて使命を果たしたアムルに、もう魔王とのつながりはない……。
「アムル、俺と一緒に魔法国に行こう」
アミードからの提案に、アムルは目を見開く。
「そんなこと、できないよ……」
この国には、マイイとルゥルゥもいる。子供たちを捨てて、自分だけがアミードと逃げるようなまねはできない。
悲し気にアミードを見上げるアムルに、アミードはほほ笑みかけた。
「きっと、そう言うと思ったよ。相変わらずアムルは優しいね。
でも、もうマーリクに遠慮なんていらないよ。あいつは……、7年もアムルを独り占めしてきたんだから」
アミードの赤い瞳に、ほの暗い陰がかかる。
「マーリクだけじゃないよ。アミード、僕、子供を産んだんだ……」
恥ずかし気に目を伏せるアムルに、アミードはこれ以上なく慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「アムルのことなら、全部知ってるよ。とっても可愛いマイイとルゥルゥのことも。アムル、何をそんなに心配するの?
アムルの子供は、俺の子供だよ。もちろん一緒に魔法国に連れていくよ」
「……でも!」
アミードは、アムルを引き寄せるとその逞しい胸にぎゅっと抱きしめた。
「アムル、なんで俺がこんなに時間をかけたのか、わかる? 全部、アムルのためだよ。
アムルが悲しまないように、ちゃんと計画したんだ。だから、アムルは何も心配しなくていいよ。
さあ、もうひと眠りして。夜が明けたら、一緒に何もかも終わらせよう。
明日はアムルにも手伝ってもらうことがあるから、少しでも身体を休めておいて……」
「わかった、アミード……」
アミードの優しい香りに包まれて、アムルはもう一度目を閉じる。
――今は、何も考えたくない……。今だけは、アミードを感じていたい。
しばらくして、穏やかな寝息を立て始めたアムルを確認したアミードは、その魔眼に決意の光を宿した。
「アムル……、これからはずっと一緒だよ……、もう絶対に誰にも渡さない……!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
早朝――。
魔王・アミードは、昨晩の宴に出ていた者すべてを、再び大広間に集めた。
魔王に肩を抱かれ、おぼつかない足取りで大広間に現れた側室のアムルを見て、一同はざわめいた。
まだぼんやりとしているアムルの様子を見て、正妃のカミーラは蒼白になった。アルファであるカミーラは、アムルの変化を誰よりも早く感じ取ることができた。
――まさか、魔王に番にされたのか!?
――アムルはヒートが起こらない体質だったはずなのに、なぜ……!?
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