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第21話 黒い仮面の下
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「アミードっ、アミードっ、そこにいるんだろうっ!? 返事をしろっ!」
アムルは立ち上がり、闇の中に手を伸ばす。
いま、アムルの心には相反する二つの感情がせめぎ合っていた。
もう二度と会うこともないと思っていた双子の弟を一目見たいという切望、そして、いまアミードがここにいるはずはなく、これは魔王が作り出した幻想にすぎないのだという寂寥。
だが……、
――幻でもいい、アミードに会いたい!
この懐かしいアミードの気配すら魔王が作り出した幻想にすぎず、自分はただからかわれているだけだとしても、それでもアムルは構わなかった。
「アミードっ、アミードっ、会いたいんだ! お願いだっ、そばに来て…‥、あ……っ」
気が付くと、後ろから力強い腕に抱きしめられていた。
「魔王様、こんな子のどこがいいんですか? こんな貧相なオメガ……、私の方がよっぽど可愛いのにっ!」
甲高い声と共に、部屋に明かりがともった。
「……っ!」
恐る恐る振り向くと、あの黒い仮面の魔王の腕の中に、アムルはいた。
アムルを抱きしめる腕は温かく、そしてやはり懐かしい香りがした。
近くに浮かんでいる金の精霊は、魔王からアムルを引きはがしたいのか、しきりにアムルの水色の髪を引っ張っている。
「……アミード、なの?」
アムルの言葉がまるで合図だったかのように、魔王の仮面が真ん中から二つに割れた。
中からこぼれ落ちたのは、輝くばかりの金髪。
そして……、
「ああ、アムル……、やっと、やっとだよ。やっとアムルに会えた…‥っ」
現れたのは、懐かしく愛しい顔。
「アミードっ! どうして…‥っ」
アミードはアムルの後ろ首をつかむと、その唇を塞ぐ。
「んっ、あ……」
「アムル、アムル……、ああ、何も変わってない。ずっと会いたかったよ。俺のアムル……っ」
息もつかせないような性急な口づけ。
少し開いた唇に、アミードの熱い舌がねじ込まれる。
「んっ、はっ、アミード、アミード、駄目、ちゃんと……」
アムルがアミードの漆黒の軍服をぎゅっとつかむ。
「駄目、先にアムルを感じたいんだ。……一体、何年、待ったと、思ってるんだ……」
低い声でささやかれると、アムルの身体から力が抜けた。
舌を吸われ、咥内をすべて舐められる。
気づくと、アムルは寝台の上に押し倒されていた。
「アムル、今日はアムルが俺の夜伽の相手をしてくれるんだよね?」
アムルをのぞき込む瞳は……、まるで血のように深い赤。
「アミードっ……!」
アムルが大きく息を吸い込んだその時、
「ちょっと待ちなさーいっ!!!
魔王様っ、オメガの貴方っ! ここに私がいることをまさか忘れているんじゃないでしょうねっ!!!!」
耳をつんざくような金切り声が、二人の動きを止めた。
「貴様っ、邪魔するなとあれほど……」
アミードが歯ぎしりする。
「精霊の私をないがしろにして、こんなオメガにかまけるなんて、ひどいですわ、魔王様っ!」
精霊は金色の粉を振りまきながら、アミードの周りを浮遊する。
「出ていけ!」
アミードが手をかざすと、そこから黒い帳が下りてくる。
「闇の中に閉じ込められたいのか? ……邪魔者は出ていけ!
聞こえなかったか、出ていくんだ!」
一言一言切るように強い口調で言うと、たちまち金の精霊はシュンとなった。
「だって、だって、私は魔王様の精霊なんですよ……」
アミードは舌打ちする。
「これだから、金の精霊は嫌だったんだ。傲慢で、プライドだけが高い。
最初から、水の精霊と契約しておけばよかった。あっちのほうが、よほど身の程をわきまえていた……」
ギロリとアミードに睨まれると、金の精霊の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
「そんな……、魔王様! ひどい、ひどい……」
「今からでも遅くはないぞ。俺はいつでも契約を無効にしてやるからなっ」
魔力で一撃を出そうとしたアミードの手を、アムルが止めた。
「やめるんだ、アミード、こんな小さな子に!
か弱い女の子をいじめるんじゃない!」
「おい、アムル、相手は精霊だぞ! か弱いわけが……」
アムルの言葉に、金の精霊はぱああっと顔を輝かせた。
「まあああっ! いけ好かない子だと思っていたけど、意外にいいところもあるのね! オメガの貴方!
フンっ、まあいいわ! これに免じて、今回だけは許してあげる。
でも忘れないでね、魔王様は、私の……っ」
「消・え・ろ!」
アミードが手を振り上げると、金の精霊は瞬時に消えた。
アムルは立ち上がり、闇の中に手を伸ばす。
いま、アムルの心には相反する二つの感情がせめぎ合っていた。
もう二度と会うこともないと思っていた双子の弟を一目見たいという切望、そして、いまアミードがここにいるはずはなく、これは魔王が作り出した幻想にすぎないのだという寂寥。
だが……、
――幻でもいい、アミードに会いたい!
この懐かしいアミードの気配すら魔王が作り出した幻想にすぎず、自分はただからかわれているだけだとしても、それでもアムルは構わなかった。
「アミードっ、アミードっ、会いたいんだ! お願いだっ、そばに来て…‥、あ……っ」
気が付くと、後ろから力強い腕に抱きしめられていた。
「魔王様、こんな子のどこがいいんですか? こんな貧相なオメガ……、私の方がよっぽど可愛いのにっ!」
甲高い声と共に、部屋に明かりがともった。
「……っ!」
恐る恐る振り向くと、あの黒い仮面の魔王の腕の中に、アムルはいた。
アムルを抱きしめる腕は温かく、そしてやはり懐かしい香りがした。
近くに浮かんでいる金の精霊は、魔王からアムルを引きはがしたいのか、しきりにアムルの水色の髪を引っ張っている。
「……アミード、なの?」
アムルの言葉がまるで合図だったかのように、魔王の仮面が真ん中から二つに割れた。
中からこぼれ落ちたのは、輝くばかりの金髪。
そして……、
「ああ、アムル……、やっと、やっとだよ。やっとアムルに会えた…‥っ」
現れたのは、懐かしく愛しい顔。
「アミードっ! どうして…‥っ」
アミードはアムルの後ろ首をつかむと、その唇を塞ぐ。
「んっ、あ……」
「アムル、アムル……、ああ、何も変わってない。ずっと会いたかったよ。俺のアムル……っ」
息もつかせないような性急な口づけ。
少し開いた唇に、アミードの熱い舌がねじ込まれる。
「んっ、はっ、アミード、アミード、駄目、ちゃんと……」
アムルがアミードの漆黒の軍服をぎゅっとつかむ。
「駄目、先にアムルを感じたいんだ。……一体、何年、待ったと、思ってるんだ……」
低い声でささやかれると、アムルの身体から力が抜けた。
舌を吸われ、咥内をすべて舐められる。
気づくと、アムルは寝台の上に押し倒されていた。
「アムル、今日はアムルが俺の夜伽の相手をしてくれるんだよね?」
アムルをのぞき込む瞳は……、まるで血のように深い赤。
「アミードっ……!」
アムルが大きく息を吸い込んだその時、
「ちょっと待ちなさーいっ!!!
魔王様っ、オメガの貴方っ! ここに私がいることをまさか忘れているんじゃないでしょうねっ!!!!」
耳をつんざくような金切り声が、二人の動きを止めた。
「貴様っ、邪魔するなとあれほど……」
アミードが歯ぎしりする。
「精霊の私をないがしろにして、こんなオメガにかまけるなんて、ひどいですわ、魔王様っ!」
精霊は金色の粉を振りまきながら、アミードの周りを浮遊する。
「出ていけ!」
アミードが手をかざすと、そこから黒い帳が下りてくる。
「闇の中に閉じ込められたいのか? ……邪魔者は出ていけ!
聞こえなかったか、出ていくんだ!」
一言一言切るように強い口調で言うと、たちまち金の精霊はシュンとなった。
「だって、だって、私は魔王様の精霊なんですよ……」
アミードは舌打ちする。
「これだから、金の精霊は嫌だったんだ。傲慢で、プライドだけが高い。
最初から、水の精霊と契約しておけばよかった。あっちのほうが、よほど身の程をわきまえていた……」
ギロリとアミードに睨まれると、金の精霊の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
「そんな……、魔王様! ひどい、ひどい……」
「今からでも遅くはないぞ。俺はいつでも契約を無効にしてやるからなっ」
魔力で一撃を出そうとしたアミードの手を、アムルが止めた。
「やめるんだ、アミード、こんな小さな子に!
か弱い女の子をいじめるんじゃない!」
「おい、アムル、相手は精霊だぞ! か弱いわけが……」
アムルの言葉に、金の精霊はぱああっと顔を輝かせた。
「まあああっ! いけ好かない子だと思っていたけど、意外にいいところもあるのね! オメガの貴方!
フンっ、まあいいわ! これに免じて、今回だけは許してあげる。
でも忘れないでね、魔王様は、私の……っ」
「消・え・ろ!」
アミードが手を振り上げると、金の精霊は瞬時に消えた。
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