【完結】オメガの半身 〜王太子と公爵家の双子〜

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
21 / 29

第21話 黒い仮面の下

しおりを挟む
「アミードっ、アミードっ、そこにいるんだろうっ!? 返事をしろっ!」

 アムルは立ち上がり、闇の中に手を伸ばす。

 いま、アムルの心には相反する二つの感情がせめぎ合っていた。

 もう二度と会うこともないと思っていた双子の弟を一目見たいという切望、そして、いまアミードがここにいるはずはなく、これは魔王が作り出した幻想にすぎないのだという寂寥。

 だが……、

 ――幻でもいい、アミードに会いたい!


 この懐かしいアミードの気配すら魔王が作り出した幻想にすぎず、自分はただからかわれているだけだとしても、それでもアムルは構わなかった。


「アミードっ、アミードっ、会いたいんだ! お願いだっ、そばに来て…‥、あ……っ」

 気が付くと、後ろから力強い腕に抱きしめられていた。



「魔王様、こんな子のどこがいいんですか? こんな貧相なオメガ……、私の方がよっぽど可愛いのにっ!」

 甲高い声と共に、部屋に明かりがともった。


「……っ!」

 恐る恐る振り向くと、あの黒い仮面の魔王の腕の中に、アムルはいた。

 アムルを抱きしめる腕は温かく、そしてやはり懐かしい香りがした。

 近くに浮かんでいる金の精霊は、魔王からアムルを引きはがしたいのか、しきりにアムルの水色の髪を引っ張っている。



「……アミード、なの?」


 アムルの言葉がまるで合図だったかのように、魔王の仮面が真ん中から二つに割れた。

 中からこぼれ落ちたのは、輝くばかりの金髪。


 そして……、


「ああ、アムル……、やっと、やっとだよ。やっとアムルに会えた…‥っ」

 現れたのは、懐かしく愛しい顔。


「アミードっ! どうして…‥っ」

 アミードはアムルの後ろ首をつかむと、その唇を塞ぐ。

「んっ、あ……」

「アムル、アムル……、ああ、何も変わってない。ずっと会いたかったよ。俺のアムル……っ」

 息もつかせないような性急な口づけ。
 少し開いた唇に、アミードの熱い舌がねじ込まれる。

「んっ、はっ、アミード、アミード、駄目、ちゃんと……」

 アムルがアミードの漆黒の軍服をぎゅっとつかむ。

「駄目、先にアムルを感じたいんだ。……一体、何年、待ったと、思ってるんだ……」

 低い声でささやかれると、アムルの身体から力が抜けた。

 舌を吸われ、咥内をすべて舐められる。


 気づくと、アムルは寝台の上に押し倒されていた。

「アムル、今日はアムルが俺の夜伽の相手をしてくれるんだよね?」

 アムルをのぞき込む瞳は……、まるで血のように深い赤。

「アミードっ……!」

 アムルが大きく息を吸い込んだその時、

「ちょっと待ちなさーいっ!!!
魔王様っ、オメガの貴方っ! ここに私がいることをまさか忘れているんじゃないでしょうねっ!!!!」

 耳をつんざくような金切り声が、二人の動きを止めた。


「貴様っ、邪魔するなとあれほど……」

 アミードが歯ぎしりする。

「精霊の私をないがしろにして、こんなオメガにかまけるなんて、ひどいですわ、魔王様っ!」

 精霊は金色の粉を振りまきながら、アミードの周りを浮遊する。


「出ていけ!」

 アミードが手をかざすと、そこから黒い帳が下りてくる。

「闇の中に閉じ込められたいのか? ……邪魔者は出ていけ!
聞こえなかったか、出ていくんだ!」

 一言一言切るように強い口調で言うと、たちまち金の精霊はシュンとなった。


「だって、だって、私は魔王様の精霊なんですよ……」

 アミードは舌打ちする。

「これだから、金の精霊は嫌だったんだ。傲慢で、プライドだけが高い。
最初から、水の精霊と契約しておけばよかった。あっちのほうが、よほど身の程をわきまえていた……」

 ギロリとアミードに睨まれると、金の精霊の瞳にじわりと涙が浮かぶ。

「そんな……、魔王様! ひどい、ひどい……」

「今からでも遅くはないぞ。俺はいつでも契約を無効にしてやるからなっ」

 魔力で一撃を出そうとしたアミードの手を、アムルが止めた。

「やめるんだ、アミード、こんな小さな子に!
か弱い女の子をいじめるんじゃない!」

「おい、アムル、相手は精霊だぞ! か弱いわけが……」


 アムルの言葉に、金の精霊はぱああっと顔を輝かせた。


「まあああっ! いけ好かない子だと思っていたけど、意外にいいところもあるのね! オメガの貴方!
フンっ、まあいいわ! これに免じて、今回だけは許してあげる。
でも忘れないでね、魔王様は、私の……っ」


「消・え・ろ!」


 アミードが手を振り上げると、金の精霊は瞬時に消えた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...