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第17話 魅了の瞳
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「魅了……」
聞いたことはあったが、そんな能力は、おとぎ話の中でのことだと思っていた。この国では、魔法を使える魔力の高いものはたくさんいるが、あくまでそれは物質に対しての作用のみだ。
人の心を操ることができる『魅了』は呪術の一種とされる。
「さすがの双子でもこのことは知らなかったのだな。アムル、お前の弟は生まれつき『魅了の瞳』を持っているんだ」
ーー魅了の瞳。
見つめた者の心を奪い、意のままに操れるという禁術。
「アミードが……、そんなはず……」
アムルの視線に、アミードは目を伏せる。
「アムル……、俺を見ないで」
「アムル、お前の愚かな弟は、私に魅了をかけ、私の心を自分に向けさせ、アムルのことを忘れさせた。己の醜い欲望を満たすためだけに……」
「つまり、アミードは、マーリクのことが……」
「違うっ!」
アミードがアムルを見つめる。アミードの白い肌に、青い静脈が透けて見えた。
「魅了の瞳は万能じゃない! 魅了は、自分が本当に愛している人にはかけることができないんだ。だから……」
「だから、アムルを娶る予定の私を魅了して、アムルと私の仲を裂こうとしたんだ」
マーリクがアムルの肩に手を置く。
「まさか、なんで? だって、僕たちは……」
アムルの身体は小刻みに震えだした。
――アムルに愛しているといったアミードの言葉は、真実だった!?
「どうしても、どうしても許せなかったんだ! アムルがマーリクのものになるなんて!
ただの幼馴染だったくせに、王位を利用して、アムルを自分のものにするなんてっ!」
アミードが叫ぶ。繋がれた鎖がじゃらじゃらと音を立てた。
「アムルはお前の双子の兄だ。どんなに恋慕したところで、成就するはずはない。なあ…‥、アムル……」
後ろに立ったマーリクがアムルの肩を撫で、着ていたアミードのシャツの隙間から手を差し入れた。
「……っ」
「アムルからその汚い手を離せっ!」
「さあ、次はアムル、お前の話だ」
マーリクは、アムルのシャツのボタンを全部はずすと、後ろから抱きしめるようにして、その素肌に手を這わせた。
「…‥んっ!」
「アムル……、あの時言っていた話は本当なのか……?
この噛み傷は本当にアミードがつけたのか?」
マーリクが、アムルのうなじを撫でる。
「マーリク、やめて、これは……っ」
マーリクがアムルのシャツを床に落とす。
アムルの上半身があらわになった。そこには、赤い吸い痕が無数に散らばっていた。
「……どうやら、アミードと情を交わしたというのは、本当のようだな」
マーリクの薄緑の瞳が、アムルを視姦している。
「マーリク、これは……」
「アムルは何も悪くない! 俺が無理やり犯したんだ! アムルは抵抗したけど、どうしてもアムルを俺の番にしたかった!」
アミードが大声で訴える。
「わかっているのか、アミード。将来の王の番の純潔を奪うのが、どれほど大きな罪なのかは……?」
「マーリク……許して」
アムルがマーリクに縋りつく。
「お願い、マーリク、アミードを許して! アミードのせいじゃない、僕が、僕が……、勝手に勘違いして!
二人を殺そうとしたのは本当だ。どんな罰も受ける! だから、アミードは、アミードだけは……っ!」
「素晴らしい兄弟愛だな。はたして、これが兄弟愛と言えるなら、だが……」
マーリクは、アムルを引きはがした。顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。
「もしお前たち二人の罪が明らかになれば、累は家にも及ぶだろう。良くて取りつぶし、悪ければ一家全員処刑もありうる」
「そんなっ!」
アムルはアミードを見る。今更ながら、自分が激情にかられて巻き起こした事態の大きさを知る。
「俺をこの場で殺せば全部済む話だろう? さっさとやれよ、マーリク」
アミードは冷笑すると唾を吐いた。
「殺すだけで済むと思うか? まず、その魅了の瞳だ。その瞳をくりぬく」
「やめろ!!!!」
アムルがマーリクの腕を掴む。
「僕が兄だ。僕がすべての責任をとる! だから、アミードは、アミードの命だけは……。なんでもする、マーリク。
僕の命も、身体も、全部、君のものだ……」
「言ったな、アムル」
マーリクの低い声が響いた。
「後悔するなよ。私は今、ものすごく怒っているんだ」
聞いたことはあったが、そんな能力は、おとぎ話の中でのことだと思っていた。この国では、魔法を使える魔力の高いものはたくさんいるが、あくまでそれは物質に対しての作用のみだ。
人の心を操ることができる『魅了』は呪術の一種とされる。
「さすがの双子でもこのことは知らなかったのだな。アムル、お前の弟は生まれつき『魅了の瞳』を持っているんだ」
ーー魅了の瞳。
見つめた者の心を奪い、意のままに操れるという禁術。
「アミードが……、そんなはず……」
アムルの視線に、アミードは目を伏せる。
「アムル……、俺を見ないで」
「アムル、お前の愚かな弟は、私に魅了をかけ、私の心を自分に向けさせ、アムルのことを忘れさせた。己の醜い欲望を満たすためだけに……」
「つまり、アミードは、マーリクのことが……」
「違うっ!」
アミードがアムルを見つめる。アミードの白い肌に、青い静脈が透けて見えた。
「魅了の瞳は万能じゃない! 魅了は、自分が本当に愛している人にはかけることができないんだ。だから……」
「だから、アムルを娶る予定の私を魅了して、アムルと私の仲を裂こうとしたんだ」
マーリクがアムルの肩に手を置く。
「まさか、なんで? だって、僕たちは……」
アムルの身体は小刻みに震えだした。
――アムルに愛しているといったアミードの言葉は、真実だった!?
「どうしても、どうしても許せなかったんだ! アムルがマーリクのものになるなんて!
ただの幼馴染だったくせに、王位を利用して、アムルを自分のものにするなんてっ!」
アミードが叫ぶ。繋がれた鎖がじゃらじゃらと音を立てた。
「アムルはお前の双子の兄だ。どんなに恋慕したところで、成就するはずはない。なあ…‥、アムル……」
後ろに立ったマーリクがアムルの肩を撫で、着ていたアミードのシャツの隙間から手を差し入れた。
「……っ」
「アムルからその汚い手を離せっ!」
「さあ、次はアムル、お前の話だ」
マーリクは、アムルのシャツのボタンを全部はずすと、後ろから抱きしめるようにして、その素肌に手を這わせた。
「…‥んっ!」
「アムル……、あの時言っていた話は本当なのか……?
この噛み傷は本当にアミードがつけたのか?」
マーリクが、アムルのうなじを撫でる。
「マーリク、やめて、これは……っ」
マーリクがアムルのシャツを床に落とす。
アムルの上半身があらわになった。そこには、赤い吸い痕が無数に散らばっていた。
「……どうやら、アミードと情を交わしたというのは、本当のようだな」
マーリクの薄緑の瞳が、アムルを視姦している。
「マーリク、これは……」
「アムルは何も悪くない! 俺が無理やり犯したんだ! アムルは抵抗したけど、どうしてもアムルを俺の番にしたかった!」
アミードが大声で訴える。
「わかっているのか、アミード。将来の王の番の純潔を奪うのが、どれほど大きな罪なのかは……?」
「マーリク……許して」
アムルがマーリクに縋りつく。
「お願い、マーリク、アミードを許して! アミードのせいじゃない、僕が、僕が……、勝手に勘違いして!
二人を殺そうとしたのは本当だ。どんな罰も受ける! だから、アミードは、アミードだけは……っ!」
「素晴らしい兄弟愛だな。はたして、これが兄弟愛と言えるなら、だが……」
マーリクは、アムルを引きはがした。顔には酷薄な笑みが浮かんでいた。
「もしお前たち二人の罪が明らかになれば、累は家にも及ぶだろう。良くて取りつぶし、悪ければ一家全員処刑もありうる」
「そんなっ!」
アムルはアミードを見る。今更ながら、自分が激情にかられて巻き起こした事態の大きさを知る。
「俺をこの場で殺せば全部済む話だろう? さっさとやれよ、マーリク」
アミードは冷笑すると唾を吐いた。
「殺すだけで済むと思うか? まず、その魅了の瞳だ。その瞳をくりぬく」
「やめろ!!!!」
アムルがマーリクの腕を掴む。
「僕が兄だ。僕がすべての責任をとる! だから、アミードは、アミードの命だけは……。なんでもする、マーリク。
僕の命も、身体も、全部、君のものだ……」
「言ったな、アムル」
マーリクの低い声が響いた。
「後悔するなよ。私は今、ものすごく怒っているんだ」
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