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第4話 二人の嘘

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「アムル、アムル……」

 顔中に口づけを落とされ、アムルは目を覚ました。

「陛下……」

 アムルはマーリクと全裸で抱き合った状態だった。

 アムルは不意にうなじに痛みを感じ、顔をしかめる。


「また、噛んだんですか?」

 詰るようにいうと、マーリクはアムルをきつく抱きしめた。

「かなり深く感じていたようだったから、もしかしてヒートが来たかもしれないと思ってな。
どうだ? 番になれただろうか?」

 マーリクはアムルの首筋を愛し気に撫でる。


「なれるわけ、ないでしょう。陛下、もうあきらめてください。私にヒートが来ることはありません」

「医師も言っていたぞ。精神の影響も大きいのだと。だから、きっといつか、お前にも……」

「無理です、マーリク」

 噛み痕を舐め始めたマーリクに、アムルはため息をつく。


 ――オメガなのにヒートが来ない。よって、アルファのマーリクと番になることはできない。


 医師が言うように、これは心の問題によるところが大きい。アムル自身が一番よくわかっている。

 なぜなら、自分のオメガ性を封印したのは、ほかならぬアムル本人だからだ。


 ――僕は絶対に誰とも番にはならない!


 マーリクに抱きしめられ肌を吸われながら、アムルは唇を噛み締める。


「なあ、アムル。私はお前との間に、もう一人子どもが欲しい。次は王子がいいな」

 マーリクには正妃が一人と、側室が七人いる。正妃のカミーラはアルファで、カミーラとの間に王子が一人。側室はアムル以外全員ベータの女性で、誰も王の子を産んでいない。

「カミーラ様に言われました。次にもし男子を産んだら、そなたの首をはねると」

「相変わらず恐ろしい女だ……」

 アムルとの間にどうしても子が欲しかったというマーリクは、オメガを強制的に発情させるという薬を使って、アムルを妊娠させることに成功した。だが、発情は偽りのものだったので、その行為の際にマーリクがアムルのうなじを噛んでも、二人が番になることはなかった。

「マイイとルゥルゥが姫で本当によかったです。私はもう、ごめんですよ、あんな思いをするのは……。もう、触らないでください、もうっ! まだ、貴方はっ……」

 臀部にまわったマーリクの手を、アムルはぴしゃりとはねのける。


「ふふ、今頃媚薬の効果があらわれてきたようだぞ」

 ゴリ、と固いものを下腹部に当てられ、アムルは肝が冷える思いだった。

「それなら、ぜひ今からでもほかの方の元に行ってください。陛下のお渡りをまっている方々がどれだけたくさんいるか、わかっていらっしゃいますか?
それに、せっかくですから、一晩で何人の方の元に通えるか、記録を作ってみてはいかがですか?
きっと絶世の王として、後世まで語り継がれて……っ」

 話の続きは王の唇で封じられた。


「それなら私は別の記録を作ることとするかな? アムル……」

「それは、どういう……?」

 マーリクの薄緑の瞳に、顔を引きつらせる自分が映っていた。

「一晩で一体何回お前を達せられるか、これから数えてみることにしよう。よし、まだ柔らかい。いいな?」

 返事も聞かず、王の剛直にアムルは貫かれていた。


「ぐあ、あ、あ、あ、あ……!」

「ああ、私を悦んで迎えてくれているぞ。やはり、お前が一番だ。アムル……。怖がって泣き叫ばれては勃つものも勃たないからな!」


「んんっ、へい、かっ……! あ、あああっ!」


 ――嘘つき。


 アムルはマーリクの背に手をまわし、爪を立てた。


 ――この、大嘘つきが! お前に初めて犯されたとき、僕はずっと泣いていた。顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、何度もやめてほしいと懇願した。でもお前は、僕が泣けば泣くほど、叫べば叫ぶほど、僕の中に埋め込んだものを欲望で大きく膨らまして、何度も、何度も……っ!!


 大きく開かされた脚。気が遠くなるほど、何度も打ち込まれる楔……。

 声を枯らし、叫びながらアムルは思う。




 ――彼と自分では、いったいどちらが不幸なのだろう……?




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