上 下
73 / 74
【番外編】

明日は騎士団休みます。【前編】

しおりを挟む
 私はルカ・レオンスカヤ。

 見目麗しい類まれなる魔法の使い手で、現在はベリーエフ騎士団に所属している騎士でもある。




 ――ところで私は今、とてつもない怒りの炎に包まれている。

 それは……、





「ちょ、アスラン、ちょっと、ダメだって……!」

「ふふ、ククリ、可愛い……」

「もぅっ、ダメだって、早くおろして! ほら、この前も同じことして、お母様に怒られただろ? ジェノ兄様にも!」


「いいじゃないか、ククリ。ククリの定位置は、いつだって俺の膝の上だよ」





 ――そんなワケ、あるかーーーーーっ!!!!




 
 ちなみにここは、ベリーエフ領に建てられたベリーエフ騎士団本部。

 そして今は、作戦会議の真っ最中!!



 このククリ団長とアスラン副団長は、婚姻関係であることをいいことに、騎士団の任務やこうした会議においても常にいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ……(以下略)!!!!



「おいっ、アナスタシア、お前はこの状況をなんとも思わないのか!? いい加減注意したらどうだ!」


 私は隣に座る、さきほどからまったくやる気の感じられない赤毛の小娘に小声で言う。


「は? いいじゃない、新婚なんだし。大目に見てあげなさいよ。どうせそのうち飽きるって!」




 ――そのセリフ、確か約3か月前にも聞いた!

 ――しかも、飽きるどころか、二人の密着度合いは日に日に上がっていくようで……。



「ねえ、そんなことより、この前の討伐でアンタにかけてもらった『全回復』の魔法! 
私、あのあとすっごくお肌の調子がいいのよねー。
私、明日デートなの。しかもね、わかる? そろそろプロポーズの予感ってやつ!
だからね、ルカ、この会議終わったら、もう一回私にあの魔法、かけてくれない?」



 恥ずかしげもなく、私に頼むアナスタシア。
 私は憤怒のあまり、思わず白目になる。


 ――私の崇高な魔法を、美容目的に使うなど!!




 私はアナスタシアを無視し、ついにその場に立ち上がった。


「ええーいっ、もう、辛抱ならん!
ククリ団長、今日という今日は言わせていただきますよっ!
あなた方お二人は、公私混同もいいところですっ! 騎士団内の風紀が乱れます!
どうか今後はお控えくださいっ!」


 私の進言に、ククリははっとした表情になる。


「あっ、ごめん! ごめんね、ルカ!
ほら、言っただろ! アスラン離してっ!」


 さすがは私のククリ様。私の要望にすぐに応えて、ひらりとアスラン副団長の膝の上から飛び降りた。


 相変わらず美しい身のこなし……。惚れる……。結婚して!





「ルカ……、貴様、いい度胸だな」


 愛しのククリから注意されてしまったアスランは、もちろんその行き場のない怒りを私へ向けてくる。


「自業自得だ。少しはわきまえたらどうだ、アスラン!」


「公私混同、だと?
悪いがルカ、ここは私設の騎士団、つまりは俺の騎士団だ!
ここには、はじめから『公』など存在しない! あるのはすべて『私』だ。
つまりは、俺がなにをしようと、お前に注意される筋合いなどない!!」


 ーーこの男、もとからどこかおかしなところがあると思っていたが、最近それにますます磨きがかかっている!!



「そうそう! それに最初っから、この騎士団に風紀なんてなかったしねー」


 私とアスランのやりとりを面白がっているとしか思えないアナスタシアが、横から茶々を入れる。

 
 そんな私達に、我が愛しのククリは慌てた様子で仲裁に入った。



「ああ、もう!! やめてよ、二人とも!
えーっと、とにかく、次の魔獣討伐は、いつもみたいにアナスタシアが突撃して、その後俺とアスランが援護しつつ攻撃、アスランは攻撃魔法も使って、ルカが防御魔法でシールド張りつつ回復魔法で、いつもみたいにチョチョイのチョイって、そんな感じでOK?」


「「ラジャー!」」


 ーーなんだその適当な作戦はっ!!




 しかし、毎度この調子で、なんだかんだうまくいき、このベリーエフ騎士団は類を見ないような魔獣討伐の実績を残しているのも事実である……。


 

 ーー本当に何なんだ、この作戦会議!

 ーー本当に何なんだ、この騎士団はっ!!







「じゃ、私はこれから王都にドレスを取りに行くから失礼するわね!」


 何のためにここにいるのかもわからないアナスタシアが、そそくさと帰る支度をする。



「では、私もこれで失礼する!」


 これ以上ここにいて、最愛のククリと憎むべきアスランが目の前でいちゃつくのを見ているのも耐え難いため、私も席をたった。



「あっ、待って、ルカ!」


 そんな私に、ククリは声をかけてきた。



「何でしょう、ククリ様?」

 

 平然を装ってはいるが、内心は飛び上がりたいほどの歓喜であふれている私。

 いつだって、私はククリ様の虜! もう、どうにでもして欲しい!!!!



「あのさ、ルカ。あれからだいぶ時間経っちゃったんだけど、前、コミュニケーションパーティで約束しただろ?
あの時はあげられなかったから、クッキー作ってきたんだ!
よかったら、もらってくれる?」









 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...