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【番外編】

アスランの物語 9

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 「朝食と夕食は必ず二人で一緒にとること!」

 こんな決まりを俺たちの間に作ってくれたククリに、俺はとても感謝している。


 この可愛い約束のおかげで、俺は毎日ククリと顔を合わせて一日二度の食事が楽しめているのだ。

 しかも、なんとかして俺を泊りがけの遠征に行かせたり、深夜までかかる討伐に駆り出させたいジェノ副団長の策略を、俺はククリのおかげで逃れられている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 
 その日の魔法騎士団の会議は定刻で終わったため、俺は余裕をもってククリの待つ我が家に戻ることができた。

 だが―ー。

 広大な敷地が広がる屋敷の門を潜ろうとしたところで、ある人物に呼び止められた。


「エルミラ様……」


 珍しく義母・エルミラは一人だった。


「お帰りなさい、アスラン。少し、話せる?」

 美しいドレスを身に纏い、とても機嫌のよさそうなエルミラに、俺は嫌な予感を覚えた。

「ええ……」

 俺は顎を引き、エルミラの言葉を待つ。

 エルミラは俺を満足気にじっくりと眺めてから、その赤い唇を開いた。


「アスラン、残念ながらあなたの負けよ。
ククリが今日、私にあなたと離婚したいと申し出てきたわ。
その様子だとまだ知らないみたいだから、教えておいてあげるわね。
あの子……、ついに目が覚めたみたい。
あなたもびっくりするわよ。今のあの子の姿を見たら!」

 くすくすと笑いながら、エルミラはドレスの裾を翻した。

「ああ、そうそう、お父様が出したお触れのことだけど、
今までククリに付き合ってくれたお礼として、ククリと離縁したとしても
あなたには新しい領地と、騎士団発足の権利を与えてくださるように、念を押しておいたわ。
だから、安心してね。
……今までありがとう、アスラン」


 絶句して、立ちすくむ俺。


 エルミラは、もう二度と振り返らなかった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 エルミラに聞いていたこととはいえ、元の男性の姿に戻ったククリは、俺を心底驚かせた。

 ――一体、なにがあった?


 だが、それ以上に、初めてククリに出会い、その姿に心奪われたころのあの思いが懐かしくよみがえってくるのも事実だった。

 そして……、

 俺は気づいた。

 短く切られた髪からのぞくうなじ、腰から臀部にかけてのラインがはっきりとわかる細身のズボン。
 薄い胸が呼吸で上下するのがわかるほど、装飾をそぎ落としたシンプルで美しい艶のある白いシャツ……。


 今までククリが着ていたふわりとしたスカートや、レースやリボンの多いドレス姿の方が、よほど俺にとって刺激が少なかったのだと。

 俺は思わず、そのククリの艶めかしいともいえる姿に、生唾を飲み込んでいた。



 だがそんな己の醜い欲望を、ククリに知られるわけにはいかなかった。

 夕食の席で、さっそく俺に何かを言いだそうとしたククリ。

 それが何かをすでに知っている俺は、魔法騎士団のコミュニケーションパーティを持ち出して、先手を打った。


 優しいククリは、俺の騎士団での立場に配慮し、自分の希望を飲み込んだ。



 ――離婚など、絶対に応じるものか!






 一体、ククリに、何があったのだろう?

 俺は、それを知り、その原因を即刻排除する必要がある!!



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