58 / 74
【番外編】
アスランの物語 4
しおりを挟む
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルカ・レオンスカヤを排除し、ようやくククリと二人きりになれたと思ったのもつかの間、思わぬ伏兵が俺を待ち受けていた。
「アスラン、アンタ、ククリが好きなの?」
アナスタシア・ウィッテは、思ったことをそのまま口に出す女性だった。
ククリとアナスタシアと3人で森にピクニックに行ったときのこと。
ククリが野生のウサギを追いかけるのに夢中になって……、
たまたま二人きりになったとき、アナスタシアは俺に切り出してきた。
「……」
無言のままの俺に、アナスタシアは肯定と受け取ったようだ。
「よかったじゃない。両想いで」
アナスタシアの言葉に、俺は思わず前のめりになる。
「本当なのかっ!? ククリ様も、俺をっ……!?」
俺の言葉に、アナスタシアはげんなりとした表情になる。
「まあ、ククリもアンタを好きなのは間違いない、でも……」
アナスタシアは、俺の鼻先に人差し指を突きつけてきた。
「アスラン、アンタ、ちょっと最近露骨すぎよ!
アンタがククリを見る目、……まるでおいしそうな獲物を目の前にした人食い狼みたい!」
「……っ」
たしかに、最近自覚はあった。
ことあるごとに、ククリに屈託のない笑顔を向けられている。
そして、ククリからの賞賛の数々。
「アスラン、すごいな!」
「アスランのそういうところ、いいな!」
極めつけは、
「俺、アスランのこと、好きだよ!」
こんなククリの直球の感情を受けて、平常心など保てるものか!
「アスラン、あのね、こんなこと言いたくはないけど……、
アンタの好きとククリの好きは、たぶん違うわよ」
それも、なんとなく、気づいていた……。
認めたくは、なかったが……。
「知ってるでしょ。ククリは、恋愛とか、そういう男女のいろいろなこととか、誰にも教わったことがないの!
あのエルミラ様の意向で、ククリのそういうことの知識は5歳児程度よ!」
「……わかっている」
「ククリは多分、アンタのこと、優しくて頼りがいのある従兄のお兄さん、くらいにしか思ってないわよ。
その優しい憧れの従兄が、自分をいやらしい目で見て、脳内で自分を好き放題弄んでいる、なんて知ったら、いったいククリはどうなってしまうでしょうね?」
なんという鋭い指摘!
このアナスタシアという女性に、俺は底知れぬ恐れを感じた。
「……善処する。今後は、ククリ様に、俺の心の内を悟られないように……」
俺はぐっと拳を握り締めた。
「それはそうと……、ククリの方に、少しはそういうことに目覚めてもらう、というアプローチもあるんじゃない?
もうククリも14歳になるんだから……」
アナスタシアの薄緑の瞳が、光る。
「それは、どう、いう……」
「ククリに男女の違いっていうのを、まずは認識してもらわないとね!
来るとき、すごくぬかるんでた道があったでしょ。帰りにそこを通るのよ。
アスラン、その時アンタはククリをほうっておいて、先に私をわざとらしくエスコートするのよ。
その時ククリがどんな反応をするか……、それを見てから、今後のことを考えましょ!」
「……わかった」
俺はうなずいた。
――その時のアナスタシアの提案が、俺とククリの運命を、大きく変えることになるとは、知らずに……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ルカ・レオンスカヤを排除し、ようやくククリと二人きりになれたと思ったのもつかの間、思わぬ伏兵が俺を待ち受けていた。
「アスラン、アンタ、ククリが好きなの?」
アナスタシア・ウィッテは、思ったことをそのまま口に出す女性だった。
ククリとアナスタシアと3人で森にピクニックに行ったときのこと。
ククリが野生のウサギを追いかけるのに夢中になって……、
たまたま二人きりになったとき、アナスタシアは俺に切り出してきた。
「……」
無言のままの俺に、アナスタシアは肯定と受け取ったようだ。
「よかったじゃない。両想いで」
アナスタシアの言葉に、俺は思わず前のめりになる。
「本当なのかっ!? ククリ様も、俺をっ……!?」
俺の言葉に、アナスタシアはげんなりとした表情になる。
「まあ、ククリもアンタを好きなのは間違いない、でも……」
アナスタシアは、俺の鼻先に人差し指を突きつけてきた。
「アスラン、アンタ、ちょっと最近露骨すぎよ!
アンタがククリを見る目、……まるでおいしそうな獲物を目の前にした人食い狼みたい!」
「……っ」
たしかに、最近自覚はあった。
ことあるごとに、ククリに屈託のない笑顔を向けられている。
そして、ククリからの賞賛の数々。
「アスラン、すごいな!」
「アスランのそういうところ、いいな!」
極めつけは、
「俺、アスランのこと、好きだよ!」
こんなククリの直球の感情を受けて、平常心など保てるものか!
「アスラン、あのね、こんなこと言いたくはないけど……、
アンタの好きとククリの好きは、たぶん違うわよ」
それも、なんとなく、気づいていた……。
認めたくは、なかったが……。
「知ってるでしょ。ククリは、恋愛とか、そういう男女のいろいろなこととか、誰にも教わったことがないの!
あのエルミラ様の意向で、ククリのそういうことの知識は5歳児程度よ!」
「……わかっている」
「ククリは多分、アンタのこと、優しくて頼りがいのある従兄のお兄さん、くらいにしか思ってないわよ。
その優しい憧れの従兄が、自分をいやらしい目で見て、脳内で自分を好き放題弄んでいる、なんて知ったら、いったいククリはどうなってしまうでしょうね?」
なんという鋭い指摘!
このアナスタシアという女性に、俺は底知れぬ恐れを感じた。
「……善処する。今後は、ククリ様に、俺の心の内を悟られないように……」
俺はぐっと拳を握り締めた。
「それはそうと……、ククリの方に、少しはそういうことに目覚めてもらう、というアプローチもあるんじゃない?
もうククリも14歳になるんだから……」
アナスタシアの薄緑の瞳が、光る。
「それは、どう、いう……」
「ククリに男女の違いっていうのを、まずは認識してもらわないとね!
来るとき、すごくぬかるんでた道があったでしょ。帰りにそこを通るのよ。
アスラン、その時アンタはククリをほうっておいて、先に私をわざとらしくエスコートするのよ。
その時ククリがどんな反応をするか……、それを見てから、今後のことを考えましょ!」
「……わかった」
俺はうなずいた。
――その時のアナスタシアの提案が、俺とククリの運命を、大きく変えることになるとは、知らずに……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1,327
お気に入りに追加
3,508
あなたにおすすめの小説
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる