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第31話
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「アナ、令嬢らしくふるまうのはやめたのか……? 母上に禁止されてたんじゃないのか、その言葉遣い……」
「うるさいっ、他の人の前ではちゃんと喋っとるわ! いちいち指摘してくるなっ!
お付きの侍女まで引き連れて……、お前は小うるさい小姑かなにかかっ!?」
以前とかわらないアナとの会話に、俺はなんとも懐かしい気持ちになった。
「アナ、君に話が……」
「断る!」
俺が言い終わる前に、アナがギロリと俺を睨む。
「そんな……、少しだけでいいから……って、
アナ、一体そんな格好で何をしてたんだ?」
アナスタシアは手にした長剣にはおよそ不似合いな、ピンクのリボンにまみれたドレスに身を包んでいた。
そしてその顏には、白粉を塗りたくれるだけ塗りたくっている。
「フン、さきほど不届き者の魔法使いがのこのこ出向いてきたから、思い知らしてやったまでのこと!
あまりにも手応えがなかったから、その後、素振りを千回ほどして、気合を入れていたというわけだ!」
アナはいい終えると、その重そうな長剣を一振りしてから、鞘に収めた。
ーー剣をしまったアナスタシアは、戦闘モードが解除されたようだ……。
「やだ! いつの間にかこんなに汚れてる!!」
急に、ドレスの裾の汚れを気にし始めた!
「アナ、俺、ずっとアナに謝りたかったんだ!」
「はっ、私は、全然アンタなんかには、会いたくなかったけどねっ!!
そんな話なら、今度にして頂戴!
この格好を見ればわかるでしょ! 私はこれから大切な用事があるの!!」
ドレスをはたきながら、アナスタシアは答える。
「アナ、お願いだよ。俺が悪かった。だから少しだけ……」
「ククリ! アンタには散々迷惑をかけられたのよ!
もうこれ以上は無理!!」
「アナ! お願い、お願いだよ!
一生のお願い! 俺の一大事なんだ! ちょっと話を聞いてくれるだけでいいから!
忘れたのか、アナ! 俺たち、永遠の友情を誓い合った仲じゃないか!」
俺の情けない懇願に、
「だあぁーっ、どいつも、こいつも……」
アナはウンザリした、というように天を仰ぐと、俺に向き直った。
「ククリ……、アンタ……、女の子のフリはやめたのよね?」
俺の格好を上から下まで見て、アナスタシアは言った。
「ああ、やめた! やめたんだ! ああいう格好をして、色んな人に迷惑をかけることは、
もう一切やめた!!」
「ふうん、それなら……」
アナスタシアの若草色の瞳がキラリと光る。
「なら、まずは私を倒すことだな!」
言うと、アナスタシアは俺に、鞘に入ったままの長剣を放った。
「わ、わ!!」
なんとか長剣を受け取った俺。
長期間稽古もしていない、かつ、以前までのダイエットですっかり筋力も失っているため、ずっしりと長剣は重かった。
おそらく、今の俺では、この長剣は扱いきれない!
「アナ、短剣にしない?」
「却下!」
言うとアナスタシアは、俺に渡したのとは別の、新しい長剣を鞘から引き抜き、身構えた。
「ククリ、いざ、勝負!
アンタが勝ったら、その大事な話とやらを聞いてやろう!」
ーーなんでそうなる!?
ーー俺、いきなり絶体絶命!!!!
「うるさいっ、他の人の前ではちゃんと喋っとるわ! いちいち指摘してくるなっ!
お付きの侍女まで引き連れて……、お前は小うるさい小姑かなにかかっ!?」
以前とかわらないアナとの会話に、俺はなんとも懐かしい気持ちになった。
「アナ、君に話が……」
「断る!」
俺が言い終わる前に、アナがギロリと俺を睨む。
「そんな……、少しだけでいいから……って、
アナ、一体そんな格好で何をしてたんだ?」
アナスタシアは手にした長剣にはおよそ不似合いな、ピンクのリボンにまみれたドレスに身を包んでいた。
そしてその顏には、白粉を塗りたくれるだけ塗りたくっている。
「フン、さきほど不届き者の魔法使いがのこのこ出向いてきたから、思い知らしてやったまでのこと!
あまりにも手応えがなかったから、その後、素振りを千回ほどして、気合を入れていたというわけだ!」
アナはいい終えると、その重そうな長剣を一振りしてから、鞘に収めた。
ーー剣をしまったアナスタシアは、戦闘モードが解除されたようだ……。
「やだ! いつの間にかこんなに汚れてる!!」
急に、ドレスの裾の汚れを気にし始めた!
「アナ、俺、ずっとアナに謝りたかったんだ!」
「はっ、私は、全然アンタなんかには、会いたくなかったけどねっ!!
そんな話なら、今度にして頂戴!
この格好を見ればわかるでしょ! 私はこれから大切な用事があるの!!」
ドレスをはたきながら、アナスタシアは答える。
「アナ、お願いだよ。俺が悪かった。だから少しだけ……」
「ククリ! アンタには散々迷惑をかけられたのよ!
もうこれ以上は無理!!」
「アナ! お願い、お願いだよ!
一生のお願い! 俺の一大事なんだ! ちょっと話を聞いてくれるだけでいいから!
忘れたのか、アナ! 俺たち、永遠の友情を誓い合った仲じゃないか!」
俺の情けない懇願に、
「だあぁーっ、どいつも、こいつも……」
アナはウンザリした、というように天を仰ぐと、俺に向き直った。
「ククリ……、アンタ……、女の子のフリはやめたのよね?」
俺の格好を上から下まで見て、アナスタシアは言った。
「ああ、やめた! やめたんだ! ああいう格好をして、色んな人に迷惑をかけることは、
もう一切やめた!!」
「ふうん、それなら……」
アナスタシアの若草色の瞳がキラリと光る。
「なら、まずは私を倒すことだな!」
言うと、アナスタシアは俺に、鞘に入ったままの長剣を放った。
「わ、わ!!」
なんとか長剣を受け取った俺。
長期間稽古もしていない、かつ、以前までのダイエットですっかり筋力も失っているため、ずっしりと長剣は重かった。
おそらく、今の俺では、この長剣は扱いきれない!
「アナ、短剣にしない?」
「却下!」
言うとアナスタシアは、俺に渡したのとは別の、新しい長剣を鞘から引き抜き、身構えた。
「ククリ、いざ、勝負!
アンタが勝ったら、その大事な話とやらを聞いてやろう!」
ーーなんでそうなる!?
ーー俺、いきなり絶体絶命!!!!
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