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第27話
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「いいですか、ククリ様。何かあったらすぐに私に連絡してください!
事が動いてからでは、遅いのですよ!」
帰り際、ルカに何度も念を押された俺。
本当はすぐにでも、アナスタシアの住む南のウィッテ領へ向かいたかったが……。
そうはいっても、さすがにもう時間も時間だ。馬車で行っても、屋敷に戻ってくる頃には夜になってしまうだろう。
「アナに会うのはまた明日だ!
ネリー、今日俺たちがしたことは、絶対にアスランに知られては駄目だよ!」
――俺がアスランの身辺を嗅ぎまわっていることを、アスランに悟られるわけにはいかない……。
でもこんな気持ちを抱えたまま、俺はアスランをいつも通り迎えることができるのか?
本当なら、今すぐにでもアナスタシアに会って、事の真偽を確かめたいのに!!
まさか『夕食は二人で必ず一緒にとる!』というアスランに課した掟に、自分自身が苦しめられる日が来るとは……。
「ククリ様、大丈夫なのですか?
ルカ様に一緒に来ていただいた方がいいのでは……?
あの赤毛のアナスタシアは、ククリ様に恐ろしいことをしようとしているのでは……?」
「心配ないよ! まさか、あのアナスタシアに限って、そんなことはあり得ない!」
怯えるネリーを励ますと、俺はぐっと唇を引き結ぶ。
ーーそう……、俺は……、なぜか今のこの状況に、強烈な違和感を覚えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アスランは、いつも通り夕食前にきちんと帰宅した。
「……」
「……」
今日も向かい合って、出されたスープを無言で飲む俺たち。
ふと、アスランはその手を止めた。
「ククリ、今日は……、どこに行っていたの?」
アスランの神秘的な瞳……。
見つめられると俺はいまだに心臓がバクバクする……。
そして……、
アスランに対して隠し事がある今は、なおのこと……。
「んぐっ……!!」
動揺するあまり、スープが変なところに入ってしまった!
「ぐっ、ゴホっ……、べ、別にっ、そっ、その辺をぶらついてただけだけどっ!?」
ワガママ気ままな公爵令息らしく、俺はすっとぼける。
だが……、
「ふうん。……じゃあ、今日は、誰かと、会った?」
「……!!!!」
今日この日ほど、俺は自分の隠し事のできない馬鹿正直な体質を悔やんだことはない!
対するアスランは、まるで「ポーカーフェイス講座~上級編~」を前世で履修してきたのかと思うほど、
俺に対するあれやこれやも、アナスタシアとのあんなことも、決して表情に出すことはないというのに!!
「ククリ、誰と、会ったの?」
決して責めるような響きはない。
でも……、だからこそ……、
何もかもお見通しなのではないかと、勘ぐってしまう!!!!
「えっ、なんで? 誰とも会ってないし!
な、なんで突然、そんなこと、聞くんだよっ!」
浮気確定の亭主よろしく、逆切れ風味の返事を返す俺!
「今日はいつもの公開練習があったのに、ククリの姿がどこにもなかったから……」
すこし寂し気な表情になったアスランに、俺の胸はぎゅっと締め付けられた。
そうだ! いつもなら、何を置いてでも駆けつけていた魔法騎士団の「公開練習」。
俺は毎回、アスランの雄姿を一番いい席で見るために、開門三時間前から誰よりも早く入場門に並ぶ徹底ぶりだった。
それなのに!!
俺は今日、アスランの周りをこそこそ嗅ぎまわるのに忙しく、すっかりそのことを忘れていたらしい!
――でも、公開練習って、今日だったっけ? ちゃんとスケジュール帳に記録していたはずだったのに!
「ごめん、アスラン! 実はさ、行くつもりだったんだけど、直前にお母様にお茶に誘われて!
それで話し込んでるうちに、時間を忘れちゃってさ!
だから、次は絶対見に行くから……」
言いながら、俺はふと思う。
――次、なんてあるのか?
――俺たちに?
「そっか……。それならよかった。なにかあったんじゃないかって、心配してたんだ」
ふわっと花が咲いたみたいに笑うアスランに、俺の心はきゅんとときめく。
「うん、だから、大丈夫、だよ……」
――俺が20歳になったら……、
――アスランは、俺をどうするつもりなんだ!?
事が動いてからでは、遅いのですよ!」
帰り際、ルカに何度も念を押された俺。
本当はすぐにでも、アナスタシアの住む南のウィッテ領へ向かいたかったが……。
そうはいっても、さすがにもう時間も時間だ。馬車で行っても、屋敷に戻ってくる頃には夜になってしまうだろう。
「アナに会うのはまた明日だ!
ネリー、今日俺たちがしたことは、絶対にアスランに知られては駄目だよ!」
――俺がアスランの身辺を嗅ぎまわっていることを、アスランに悟られるわけにはいかない……。
でもこんな気持ちを抱えたまま、俺はアスランをいつも通り迎えることができるのか?
本当なら、今すぐにでもアナスタシアに会って、事の真偽を確かめたいのに!!
まさか『夕食は二人で必ず一緒にとる!』というアスランに課した掟に、自分自身が苦しめられる日が来るとは……。
「ククリ様、大丈夫なのですか?
ルカ様に一緒に来ていただいた方がいいのでは……?
あの赤毛のアナスタシアは、ククリ様に恐ろしいことをしようとしているのでは……?」
「心配ないよ! まさか、あのアナスタシアに限って、そんなことはあり得ない!」
怯えるネリーを励ますと、俺はぐっと唇を引き結ぶ。
ーーそう……、俺は……、なぜか今のこの状況に、強烈な違和感を覚えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アスランは、いつも通り夕食前にきちんと帰宅した。
「……」
「……」
今日も向かい合って、出されたスープを無言で飲む俺たち。
ふと、アスランはその手を止めた。
「ククリ、今日は……、どこに行っていたの?」
アスランの神秘的な瞳……。
見つめられると俺はいまだに心臓がバクバクする……。
そして……、
アスランに対して隠し事がある今は、なおのこと……。
「んぐっ……!!」
動揺するあまり、スープが変なところに入ってしまった!
「ぐっ、ゴホっ……、べ、別にっ、そっ、その辺をぶらついてただけだけどっ!?」
ワガママ気ままな公爵令息らしく、俺はすっとぼける。
だが……、
「ふうん。……じゃあ、今日は、誰かと、会った?」
「……!!!!」
今日この日ほど、俺は自分の隠し事のできない馬鹿正直な体質を悔やんだことはない!
対するアスランは、まるで「ポーカーフェイス講座~上級編~」を前世で履修してきたのかと思うほど、
俺に対するあれやこれやも、アナスタシアとのあんなことも、決して表情に出すことはないというのに!!
「ククリ、誰と、会ったの?」
決して責めるような響きはない。
でも……、だからこそ……、
何もかもお見通しなのではないかと、勘ぐってしまう!!!!
「えっ、なんで? 誰とも会ってないし!
な、なんで突然、そんなこと、聞くんだよっ!」
浮気確定の亭主よろしく、逆切れ風味の返事を返す俺!
「今日はいつもの公開練習があったのに、ククリの姿がどこにもなかったから……」
すこし寂し気な表情になったアスランに、俺の胸はぎゅっと締め付けられた。
そうだ! いつもなら、何を置いてでも駆けつけていた魔法騎士団の「公開練習」。
俺は毎回、アスランの雄姿を一番いい席で見るために、開門三時間前から誰よりも早く入場門に並ぶ徹底ぶりだった。
それなのに!!
俺は今日、アスランの周りをこそこそ嗅ぎまわるのに忙しく、すっかりそのことを忘れていたらしい!
――でも、公開練習って、今日だったっけ? ちゃんとスケジュール帳に記録していたはずだったのに!
「ごめん、アスラン! 実はさ、行くつもりだったんだけど、直前にお母様にお茶に誘われて!
それで話し込んでるうちに、時間を忘れちゃってさ!
だから、次は絶対見に行くから……」
言いながら、俺はふと思う。
――次、なんてあるのか?
――俺たちに?
「そっか……。それならよかった。なにかあったんじゃないかって、心配してたんだ」
ふわっと花が咲いたみたいに笑うアスランに、俺の心はきゅんとときめく。
「うん、だから、大丈夫、だよ……」
――俺が20歳になったら……、
――アスランは、俺をどうするつもりなんだ!?
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