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第86話
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ナセルはまだ体調が思わしくないと周りに告げ、病回復を祈願するため神殿に通っていた。
呪いのアンクレットの影響がなくなった今、ナセルはほとんど生活に支障がないほど回復していたが、俺の代わりににナディアを説得しにいってくれていたのだ。
ナセルによると、ナディアはもともと『七夜の儀式』には反対で、だまし討ちのようにして儀式を行わせてしまった俺に、かなりの罪悪感を覚えていたらしい。
あまり発言権は期待できないとナディア自身は言っているが、俺に取っての強い味方であることは間違いなかった。
そして俺は、計画に気づかれないように、以前と同じ生活を送っているふりをしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「神子! 本当に神子は素晴らしい! もう駄目だと思っていたナセルも外に出られるほど元気になりました!
それもこれも、すべて神子のおかげですぞ!」
抱き着くように俺に両手を広げてくるイケおじ王様を、俺はひらりとかわした。
「あの、俺は特に何も……、神子としてナセルの健康を祈ったというだけで」
「その祈りが大切なのじゃ! 神子様の祈りはすべてを解決する!
神子様、神子様がいなくなってからというもの、サンドロオリヴェの大切な地下水脈が枯渇しそうになっていたのですぞ!
しかし、神子様がお戻りになった今、またサンドロオリヴェは以前の輝きをとりもどしておる!」
大魔導士のアブドゥラは、いかつい魔法の杖を手に、ご機嫌の様子だ。
王様と魔導士のじいさんが結託しているというナセルの言葉は本当らしい。
そういえば、二人はいつも一緒に俺の前に現れている。
「今日はわざわざ、お招きいただき……、あれ、ナセルは?」
王の御前会議を明日に控えたこの日、ナセルの回復祝いとのことで、俺は私的にイケおじ王様に夕食会に招かれていた。
といっても、なぜか部屋にいるのは俺と王様と、大魔導士のみ!
ナセルの祝いのはずなのに、ナセル自身がいないことに、俺は首を傾げた。
「ナセルはまだ本調子ではないようですから、遠慮させました。
今日は折り入って、神子に大切なお話がありまして、このように食事にお招きしたというわけです」
王様が俺に席つくよう促す。
「はあ……」
俺が王様の向かいの、天鵞絨張りの豪華な椅子に腰を下ろすと、さっそく会食が始まった。
「今日は祝いの席です! さあ、神子どんどん飲んで!」
肝心の主役が不在だというのに、いったい何を祝うというのだろう?
だが、イケおじ王様はまるでそんなことを気にせず、俺に葡萄酒を進めてくる。
「あの、ナセルのことは……」
「まあまあ、いいではありませんか! 神子!
今日は特別に珍しい食材を用意させたので、たくさん召し上がってください!」
たしかに、俺の目の前には、見たこともないようなご馳走が並べられている。
だが、この間の失敗のこともあるので、俺は葡萄酒には口をつけなかった。
「神子様、葡萄酒はお嫌いですか? あまり食事も進まぬご様子。
この日のために、とっておきのものを陛下が選ばれたのですよ」
アブドゥラが俺の様子を伺う。
「いえ、今日は、あまり飲みたい気分では…‥」
俺の返事に、王様とアブドゥラが、顔を見合わせる。
「困りましたね、とても大切でめでたい話があるというのに……」
「神子様には、いい気分になってもらわねばならんというのに!」
「大切な話、というのは?」
まさか俺の計画に勘づかれたのでは、と俺はドキリとして膝の上で拳を握り締めた。
「なになに、とてもめでたい話なのですよ!」
錦糸の刺繍のローブをまとった王様のしたり顔。
「神子様にとっても、これ以上ないいいお話で!」
黒いローブのアブドゥラの瞳がドロリと光る。
王様が俺に向かって、葡萄酒のなみなみと入った杯を掲げた。
「神子……、いえ、ヨータ。
神子の加護を受けるお役目、ナセルから私が引き継ぎます。
明日の御前会議で、神子と私の正式な婚姻を発表しましょう!」
呪いのアンクレットの影響がなくなった今、ナセルはほとんど生活に支障がないほど回復していたが、俺の代わりににナディアを説得しにいってくれていたのだ。
ナセルによると、ナディアはもともと『七夜の儀式』には反対で、だまし討ちのようにして儀式を行わせてしまった俺に、かなりの罪悪感を覚えていたらしい。
あまり発言権は期待できないとナディア自身は言っているが、俺に取っての強い味方であることは間違いなかった。
そして俺は、計画に気づかれないように、以前と同じ生活を送っているふりをしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「神子! 本当に神子は素晴らしい! もう駄目だと思っていたナセルも外に出られるほど元気になりました!
それもこれも、すべて神子のおかげですぞ!」
抱き着くように俺に両手を広げてくるイケおじ王様を、俺はひらりとかわした。
「あの、俺は特に何も……、神子としてナセルの健康を祈ったというだけで」
「その祈りが大切なのじゃ! 神子様の祈りはすべてを解決する!
神子様、神子様がいなくなってからというもの、サンドロオリヴェの大切な地下水脈が枯渇しそうになっていたのですぞ!
しかし、神子様がお戻りになった今、またサンドロオリヴェは以前の輝きをとりもどしておる!」
大魔導士のアブドゥラは、いかつい魔法の杖を手に、ご機嫌の様子だ。
王様と魔導士のじいさんが結託しているというナセルの言葉は本当らしい。
そういえば、二人はいつも一緒に俺の前に現れている。
「今日はわざわざ、お招きいただき……、あれ、ナセルは?」
王の御前会議を明日に控えたこの日、ナセルの回復祝いとのことで、俺は私的にイケおじ王様に夕食会に招かれていた。
といっても、なぜか部屋にいるのは俺と王様と、大魔導士のみ!
ナセルの祝いのはずなのに、ナセル自身がいないことに、俺は首を傾げた。
「ナセルはまだ本調子ではないようですから、遠慮させました。
今日は折り入って、神子に大切なお話がありまして、このように食事にお招きしたというわけです」
王様が俺に席つくよう促す。
「はあ……」
俺が王様の向かいの、天鵞絨張りの豪華な椅子に腰を下ろすと、さっそく会食が始まった。
「今日は祝いの席です! さあ、神子どんどん飲んで!」
肝心の主役が不在だというのに、いったい何を祝うというのだろう?
だが、イケおじ王様はまるでそんなことを気にせず、俺に葡萄酒を進めてくる。
「あの、ナセルのことは……」
「まあまあ、いいではありませんか! 神子!
今日は特別に珍しい食材を用意させたので、たくさん召し上がってください!」
たしかに、俺の目の前には、見たこともないようなご馳走が並べられている。
だが、この間の失敗のこともあるので、俺は葡萄酒には口をつけなかった。
「神子様、葡萄酒はお嫌いですか? あまり食事も進まぬご様子。
この日のために、とっておきのものを陛下が選ばれたのですよ」
アブドゥラが俺の様子を伺う。
「いえ、今日は、あまり飲みたい気分では…‥」
俺の返事に、王様とアブドゥラが、顔を見合わせる。
「困りましたね、とても大切でめでたい話があるというのに……」
「神子様には、いい気分になってもらわねばならんというのに!」
「大切な話、というのは?」
まさか俺の計画に勘づかれたのでは、と俺はドキリとして膝の上で拳を握り締めた。
「なになに、とてもめでたい話なのですよ!」
錦糸の刺繍のローブをまとった王様のしたり顔。
「神子様にとっても、これ以上ないいいお話で!」
黒いローブのアブドゥラの瞳がドロリと光る。
王様が俺に向かって、葡萄酒のなみなみと入った杯を掲げた。
「神子……、いえ、ヨータ。
神子の加護を受けるお役目、ナセルから私が引き継ぎます。
明日の御前会議で、神子と私の正式な婚姻を発表しましょう!」
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