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第83話
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俺は全裸で、やせ細ってしまったナセルの身体に抱き着いた。
――本当は、ただ祈るだけでもいいのかもしれない……。
服を脱ぐ必要性がどこまであるかはわからなかったが、ナセルの回復が最優先の今、俺にできることはなんでもしたかった。
――もし、ナセルが俺と直接肌を合わせることに、なにか特別な意味があるのだとしたら……。
薄い夜着を着たナセルの身体は冷え切っていて、呼吸をしているのが不思議なくらいの状態だった。
「ナセル……、ナセル……、元の元気な姿に戻って……」
俺はしっかりとナセルの身体を抱き寄せ、その首筋に顔を埋める。
――もし、俺が本当の神子で、俺の推測が正しければ……、
――俺の祈りが、本当に神に届くのだとすれば……、
俺はきっと、ナセルを救えるはずだ!
俺はナセルをしっかりと抱きしめ、彼の回復をひたすら祈った……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ヨータ、ヨータ……」
くぐもった声。
頬を柔らかな何かが、撫でていく。
「ん……」
「ヨータ……、神子……」
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
呼びかけに目を開けた俺は、薄緑の瞳と目が合った。
「ナセルっ……」
「これは……夢か? お前が戻ってくるはずはない。
幻なのか……、私は……、死んだのか?」
大真面目なナセルの顔に、俺は噴き出していた。
「死んでない。君のために、ここに来たんだ」
「嘘だ。そんなこと、ありえない」
言いながら、ナセルはそっと俺の肩に触れた。
「ナセル、気が付いてよかった。
なにか、飲む? 食べられるんなら、何か持ってこさせようか……」
起き上がろうとする俺を、ナセルが抱き込んできた。
「嫌だ! 行くな! そう言って、どこかに消えるつもりなんだろう!
行かせない!」
ナセルが俺の肩を揺さぶる。
「ナセル、大丈夫だよ。俺は、幻なんかじゃない」
俺はナセルに向き直ると、その薄い背中を撫でた。
「嘘だ! お前が戻ってくるはずがない! お前は、私の元から逃げ出したんだ。
私はずっと、お前に酷いことをしていた。
お前が思い通りになるなら、お前の精神が破壊されてもかまわないとすら、思った!
どんなひどい目に遭わせても、お前は私の神子なのだから受け入れるべきだと……、だから、私は……っ!」
「見て、ナセル」
俺は、今まで自分の脚にはまっていたアンクレットをナセルに差し出した。
「……これは!」
「さっき、外れたんだ。これは、俺への戒めなんかじゃない、これは……君への呪いだ。
違う?」
差し出されたアンクレットに、ナセルは息を呑んだ。
「外せたのか、これを……?」
足輪にはめ込まれた薄緑の宝石には、真ん中から大きなヒビが入っていた。
「わかったんだ。君が瀕死だと聞いたとき……。だから、外すことができた。
この宝石は、俺が足につけたあの時からずっと、君の生気を奪っていたんだね」
「……神子の加護を受ける者は、その力を悪用しないように、制限を受けなければならない……。
本来なら、儀式のたびに力を得ることができるので、神子がそばにいる限り、こんなざまになるはずはない……」
ナセルは細く息を吐いた。
「陛下も、あの魔導士も、それを知ってて君を見殺しにしたのか?」
俺の言葉に、ナセルは目を閉じた。
「仕方のないことだ。私は、神子を王宮から去らせた。それは私自身の責任だ。
神子の加護を受ける者として、罰を受けるのは当然のことだ」
「サンドロオリヴェは、こうやって歴代の神子の力をずっと利用してきたんだね。
……そして、神子の力を独り占めし、自分たちの国のためだけに、利用した」
ナセルの薄緑の瞳が、こちらを向いた。
「そうだ。そのために、あの『七夜の儀式』がどうしても必要だった」
――本当は、ただ祈るだけでもいいのかもしれない……。
服を脱ぐ必要性がどこまであるかはわからなかったが、ナセルの回復が最優先の今、俺にできることはなんでもしたかった。
――もし、ナセルが俺と直接肌を合わせることに、なにか特別な意味があるのだとしたら……。
薄い夜着を着たナセルの身体は冷え切っていて、呼吸をしているのが不思議なくらいの状態だった。
「ナセル……、ナセル……、元の元気な姿に戻って……」
俺はしっかりとナセルの身体を抱き寄せ、その首筋に顔を埋める。
――もし、俺が本当の神子で、俺の推測が正しければ……、
――俺の祈りが、本当に神に届くのだとすれば……、
俺はきっと、ナセルを救えるはずだ!
俺はナセルをしっかりと抱きしめ、彼の回復をひたすら祈った……。
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「ヨータ、ヨータ……」
くぐもった声。
頬を柔らかな何かが、撫でていく。
「ん……」
「ヨータ……、神子……」
いつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
呼びかけに目を開けた俺は、薄緑の瞳と目が合った。
「ナセルっ……」
「これは……夢か? お前が戻ってくるはずはない。
幻なのか……、私は……、死んだのか?」
大真面目なナセルの顔に、俺は噴き出していた。
「死んでない。君のために、ここに来たんだ」
「嘘だ。そんなこと、ありえない」
言いながら、ナセルはそっと俺の肩に触れた。
「ナセル、気が付いてよかった。
なにか、飲む? 食べられるんなら、何か持ってこさせようか……」
起き上がろうとする俺を、ナセルが抱き込んできた。
「嫌だ! 行くな! そう言って、どこかに消えるつもりなんだろう!
行かせない!」
ナセルが俺の肩を揺さぶる。
「ナセル、大丈夫だよ。俺は、幻なんかじゃない」
俺はナセルに向き直ると、その薄い背中を撫でた。
「嘘だ! お前が戻ってくるはずがない! お前は、私の元から逃げ出したんだ。
私はずっと、お前に酷いことをしていた。
お前が思い通りになるなら、お前の精神が破壊されてもかまわないとすら、思った!
どんなひどい目に遭わせても、お前は私の神子なのだから受け入れるべきだと……、だから、私は……っ!」
「見て、ナセル」
俺は、今まで自分の脚にはまっていたアンクレットをナセルに差し出した。
「……これは!」
「さっき、外れたんだ。これは、俺への戒めなんかじゃない、これは……君への呪いだ。
違う?」
差し出されたアンクレットに、ナセルは息を呑んだ。
「外せたのか、これを……?」
足輪にはめ込まれた薄緑の宝石には、真ん中から大きなヒビが入っていた。
「わかったんだ。君が瀕死だと聞いたとき……。だから、外すことができた。
この宝石は、俺が足につけたあの時からずっと、君の生気を奪っていたんだね」
「……神子の加護を受ける者は、その力を悪用しないように、制限を受けなければならない……。
本来なら、儀式のたびに力を得ることができるので、神子がそばにいる限り、こんなざまになるはずはない……」
ナセルは細く息を吐いた。
「陛下も、あの魔導士も、それを知ってて君を見殺しにしたのか?」
俺の言葉に、ナセルは目を閉じた。
「仕方のないことだ。私は、神子を王宮から去らせた。それは私自身の責任だ。
神子の加護を受ける者として、罰を受けるのは当然のことだ」
「サンドロオリヴェは、こうやって歴代の神子の力をずっと利用してきたんだね。
……そして、神子の力を独り占めし、自分たちの国のためだけに、利用した」
ナセルの薄緑の瞳が、こちらを向いた。
「そうだ。そのために、あの『七夜の儀式』がどうしても必要だった」
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