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第80話

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「神子様、しかしこれからサンドロオリヴェまでは、大変長い道のりですぞ」

 ルドビへと向かうセファーたちの隊列を見送りながら、師団長は言った。


「ナセルの病状は一刻を争うんだろう? 一番近いルートは……?」

 俺は師団長が手にしている地図をのぞき込む。


「山越えになりますが、我々は馬ですので、距離は長くなりますが町を回っていくルートのほうが……」


 ――やはり、王宮までは相当日数がかかりそうだ。



「……てあげても、いいけど?」

 俺の命で手足の拘束を解かれたロロが、横でぽつりと言った。


「え?」


「だーかーらっ、転移魔法を使ってあげてもいいよって言ってんのっ!」

 なぜか頬を膨らまして怒り出すロロ。


「貴様っ、転移魔法までつかえるのか!
やはり神子のふりをして、今まで魔法で皆をだましていたのだなっ!」


「まあまあ、師団長落ち着いて!」

 ロロに食って掛かる師団長を、俺はなんとかなだめた。


「ロロ、本当に転移魔法が使えるの?」

 俺の言葉に、ロロは小悪魔っぽい表情になる。

「まあ、すっごい魔力の消費量にはなるけどね。
あと、今の僕、歩き疲れてくったくた! ろくな食事も貰えてなかったしね。
とりあえず、肉と果物、あと甘いものをいっぱい頂戴!
食後に師団長が持ってる高級ポーションを飲めば、サンドロオリヴェまでひとっとびできそうかなー?」


「こんのっ、クソガキがっ!!」

 殴りかからんばかりの師団長だったが、歯ぎしりしながらもロロの望みのものを用意させた。


「神子様も一緒に食べよ! ほら、言うでしょ、腹が減っては戦はできぬ!」

「……」


「貴様っ!!」

「いいの? 僕の魔法がなかったら、またあのくっそ長い距離を馬でちんたら走る羽目になるんだよ?」

 いきり立つ師団長を、ロロは鼻で笑う。


「王宮に戻ったら、極刑に処するように陛下に進言してやるっ!」

「フンっ、こっちには神子様がついてるんだもんねー! たかだか近衛師団長の分際で、偉そうにするなよっ!」

「この、小童がっ……!!」


 ――師団長……、完全に、ロロに手玉に取られている……。



 たっぷりの食事を終え、高級ポーションを飲んだロロは、顔にも生気が戻ってきたようだった。

 八つ裂きの刑を免れるという安堵感からか、いつもの余裕めいた表情も顏に戻ってきている。


「じゃ、神子様行こっか! 僕と手をつないで!」


「おいっ、貴様、神子様を連れて逃亡する気じゃないだろうな? 俺ももちろんついていく!」

 師団長の言葉に、

「えーっ、アンタも? さらに魔力消費しちゃうんだけど、アンタ重そうだし……」

 不服そうに口を尖らせるロロ。


「ロロ、早く行こう! ナセルが待ってる」

 俺の言葉に、ロロは片眉を上げた。


「あーあ、今の神子様の顔、ナセル殿下に見せてあげたいよ。
自分が死ぬ間際になって、ようやく神子様に本気で心配されるなんて、本当に難儀な人だよね!」


 ロロは俺と師団長の背中に手を回すと、その桃色の瞳を閉じると詠唱を始める。


「ちょっと悪酔いしちゃうかもだけど、我慢してねー!」



 次の瞬間、ぐにゃりと空間がひしゃげた。




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