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第65話
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「水を!」
この町についてからというもの、セファーは怒ってばかりいるような気がする。
「ありがと」
セファーから水を受け取ると、寝台に腰掛けた俺はそれを一口飲んだ。
「神子、いくら俺の部族の前だとはいっても、軽々しく男の前で飲みすぎるのは……」
「……うん……」
顔を上げると、目の前に立つセファーが二重にぶれる。
――やっぱり、相当酔いが回ってる。
「神子、聞いているのか?」
俺の顔を心配げにのぞき込むセファー。
その青い瞳と目が合った俺は、思わずその腕を強く引いていた。
「神子っ!?」
俺はセファーの首に片手を回し、その耳元に唇を寄せた。
「……セファーなんて、嫌いだ!」
「え……?」
今度はセファーと唇が触れ合いそうなくらいに、顔を近づける。
「大っ嫌いだ! セファーなんて!」
「神子、どうしたんだ、急に……」
おろおろした表情のセファーを、俺は突き飛ばした。
「可愛い許嫁がいるくせにっ! なんで、俺にあんなことしたんだよっ!!」
――そう、俺は完全に酔っぱらっていて……、
セファーに絡んで八つ当たりをするという、とんでもない愚行をやらかしてしまっていた!
「あんなこと、とは……」
困惑するセファーに、俺はなおも食って掛かる。
「テントの中で、毎晩毎晩! 俺はファティマの代わりだったってわけか?
悪かったな、あんなに綺麗でかわいくもなくって!」
「神子……」
捨てられた子犬のようなセファーの瞳に、ますます俺は意地悪したい気持ちになってしまう。
「王宮にいるときから知ってたよ!
セファーには故郷に大事な許嫁がいるって! でもさ、あんな風に、あんなことされたら、俺だって、期待しちゃうだろ?」
「期待……?」
「もういいっ! 出て行けよ! ファティマと末永くお幸せにっ!」
酔っぱらっているとはいえ、よくもまあこんなことが言えたと我ながら思うが、口にだしてしまった言葉は、もうどうやっても取り返すことができない。
「神子……、ファティマは、ただの幼馴染だ」
「嘘つけ! 許嫁がいるからって、どんなご令嬢の誘いも断ってたくせに!」
「それは……、師団長が、女性の誘いを断るには、決まった人がいることにするのが一番いい、と教えてくれたから……」
すがるようなセファーの眼差し。
「でも、どう見たって、ファティマは君のこと、好きじゃないか! それに、君だって、あんな、可愛い子……」
言っている自分が、むなしくなってきた。
俺はベッドに突っ伏すと、シーツを頭からかぶった。
「神子、俺は……」
「もういいからっ! 忘れて……! 俺はもう大丈夫だから、下に戻れよ!」
「……わかった。きちんと、する……」
セファーの声がして、そのまま足音が遠ざかっていく。
そして、部屋のドアが、閉まった。
――セファーは俺を残し、部屋を出て行った。
この町についてからというもの、セファーは怒ってばかりいるような気がする。
「ありがと」
セファーから水を受け取ると、寝台に腰掛けた俺はそれを一口飲んだ。
「神子、いくら俺の部族の前だとはいっても、軽々しく男の前で飲みすぎるのは……」
「……うん……」
顔を上げると、目の前に立つセファーが二重にぶれる。
――やっぱり、相当酔いが回ってる。
「神子、聞いているのか?」
俺の顔を心配げにのぞき込むセファー。
その青い瞳と目が合った俺は、思わずその腕を強く引いていた。
「神子っ!?」
俺はセファーの首に片手を回し、その耳元に唇を寄せた。
「……セファーなんて、嫌いだ!」
「え……?」
今度はセファーと唇が触れ合いそうなくらいに、顔を近づける。
「大っ嫌いだ! セファーなんて!」
「神子、どうしたんだ、急に……」
おろおろした表情のセファーを、俺は突き飛ばした。
「可愛い許嫁がいるくせにっ! なんで、俺にあんなことしたんだよっ!!」
――そう、俺は完全に酔っぱらっていて……、
セファーに絡んで八つ当たりをするという、とんでもない愚行をやらかしてしまっていた!
「あんなこと、とは……」
困惑するセファーに、俺はなおも食って掛かる。
「テントの中で、毎晩毎晩! 俺はファティマの代わりだったってわけか?
悪かったな、あんなに綺麗でかわいくもなくって!」
「神子……」
捨てられた子犬のようなセファーの瞳に、ますます俺は意地悪したい気持ちになってしまう。
「王宮にいるときから知ってたよ!
セファーには故郷に大事な許嫁がいるって! でもさ、あんな風に、あんなことされたら、俺だって、期待しちゃうだろ?」
「期待……?」
「もういいっ! 出て行けよ! ファティマと末永くお幸せにっ!」
酔っぱらっているとはいえ、よくもまあこんなことが言えたと我ながら思うが、口にだしてしまった言葉は、もうどうやっても取り返すことができない。
「神子……、ファティマは、ただの幼馴染だ」
「嘘つけ! 許嫁がいるからって、どんなご令嬢の誘いも断ってたくせに!」
「それは……、師団長が、女性の誘いを断るには、決まった人がいることにするのが一番いい、と教えてくれたから……」
すがるようなセファーの眼差し。
「でも、どう見たって、ファティマは君のこと、好きじゃないか! それに、君だって、あんな、可愛い子……」
言っている自分が、むなしくなってきた。
俺はベッドに突っ伏すと、シーツを頭からかぶった。
「神子、俺は……」
「もういいからっ! 忘れて……! 俺はもう大丈夫だから、下に戻れよ!」
「……わかった。きちんと、する……」
セファーの声がして、そのまま足音が遠ざかっていく。
そして、部屋のドアが、閉まった。
――セファーは俺を残し、部屋を出て行った。
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