上 下
63 / 97

第63話

しおりを挟む
「ん? セファー、なにか言った?」

「何も!!」


 一体何が気に入らないのか、さっきから怒った様子のセファー。


 ーーもしかして、久しぶりに可愛い許嫁に会って、照れてるのかな?


 そうか、きっとセファーは、いわゆる世間一般で言うところの、ツンデレというやつに違いない!

 ツンデレセファーは、他人の俺がいる前でデレるわけにはいかないので、ファティマに対してこんなぶっきらぼうな態度になっているのだ!


 故郷に婚約者がいるからと、ありとあらゆるご令嬢たちからのお誘いを断り続けていたセファー。

 ……そりゃ、そうだよな。こんな可愛くて綺麗で、おまけに気立ての良さそうな子が待ってるんだから、よそ見なんて、するわけないよな。


 チャジルという人と落ち合うために、町の中心部にある宿屋に向かう俺達。

 顔では笑っていたが……、俺の胸中はもちろん、穏やかではなかった。


「ねえ、セファー、王宮での楽しい話を聞かせて!」

「楽しいことなど、なにもない」

「ひどーい、そんなこと言わずに、教えてよ! 貴族のご令嬢たちはどんなドレスを着ているの?」

「……興味がないので全く覚えていない」


 俺はセファーにまとわりつくようにして歩くファティマの姿をちらりと見る。


 ーー本当に、絵になる二人だ……。

 ファティマという、セファーが大切にしている女性を目の当たりにしてしまった俺。
 
 だが、彼女の輝くばかりの美しさに、俺はもはや嫉妬する気も起こらなかった。


 セファーとファティマ、二人が並んでいるだけで、それだけで完璧な世界がそこにはあった。

 そこに、平凡な俺の入る隙間など、どこにもない。


 ―ー現実は、どこまでも残酷だった……。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「セファーから話は聞きました。神子様、我々は喜んで神子様をルドビの村にお迎えします」

 チャジルという男は、セファーの部族の長の側近だという。

 歳は40半ばくらいだろうか、セファーのように褐色の肌の持ち主で、薄茶色の髪は、やはりセファーのように長く伸ばして後ろで束ねている。


 セファーは人払いをし、宿屋の一室で俺の本当の身分をチャジルに明かした。

「でも、俺は今、サンドロオリヴェの王子に探されているらしく、そんなお尋ね者の俺がいることでルドビの皆さんにご迷惑をおかけするのではないかと……」

 心配を口にした俺に、

「それについてはご心配なく。我々は、戦闘にも秀でた部族です。サンドロオリヴェの騎士が束になってかかってきたところで、負けるわけはありません。
ルドビの村は、守りも強固です。
神子様を我らが地に迎えることは、我が部族の誉れです。必ず私達が、神子様をお守りいたします」

 チャジルは恭しく俺に頭を下げる。


「でも……」

「神子は、俺が必ず守る!」

 セファーが後ろから、俺の両肩に手を置いた。


「セファー、お前……」

 何か言いたげな顔をするチャジル。

 俺とセファーの顔を見比べると、小さくチャジルは頷いた。

「……セファーの強い思いはわかった。
俺たちも、神子を守るためにできることはなんでもしよう。
だが、まだルドビに戻るまでは気を抜けない。どこで誰が聞いているとも知れないから、この方が神子だということはまだ仲間にも伏せておこう」

「わかった。チャジルに任せる」


 チャジルは温和そうな瞳を、俺に向けた。

「神子、今日は我々はここに泊まって、明日朝早くにルドビへ発つつもりです。
部屋を用意しますので、どうかゆっくりとお過ごしください。夜には一席設けますので、ぜひ我々の仲間を紹介させてください!」

 
 そんなこんなで、俺はヘルビナの街で、はからずもセファーの部族と合流することができたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...