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第63話
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「ん? セファー、なにか言った?」
「何も!!」
一体何が気に入らないのか、さっきから怒った様子のセファー。
ーーもしかして、久しぶりに可愛い許嫁に会って、照れてるのかな?
そうか、きっとセファーは、いわゆる世間一般で言うところの、ツンデレというやつに違いない!
ツンデレセファーは、他人の俺がいる前でデレるわけにはいかないので、ファティマに対してこんなぶっきらぼうな態度になっているのだ!
故郷に婚約者がいるからと、ありとあらゆるご令嬢たちからのお誘いを断り続けていたセファー。
……そりゃ、そうだよな。こんな可愛くて綺麗で、おまけに気立ての良さそうな子が待ってるんだから、よそ見なんて、するわけないよな。
チャジルという人と落ち合うために、町の中心部にある宿屋に向かう俺達。
顔では笑っていたが……、俺の胸中はもちろん、穏やかではなかった。
「ねえ、セファー、王宮での楽しい話を聞かせて!」
「楽しいことなど、なにもない」
「ひどーい、そんなこと言わずに、教えてよ! 貴族のご令嬢たちはどんなドレスを着ているの?」
「……興味がないので全く覚えていない」
俺はセファーにまとわりつくようにして歩くファティマの姿をちらりと見る。
ーー本当に、絵になる二人だ……。
ファティマという、セファーが大切にしている女性を目の当たりにしてしまった俺。
だが、彼女の輝くばかりの美しさに、俺はもはや嫉妬する気も起こらなかった。
セファーとファティマ、二人が並んでいるだけで、それだけで完璧な世界がそこにはあった。
そこに、平凡な俺の入る隙間など、どこにもない。
―ー現実は、どこまでも残酷だった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「セファーから話は聞きました。神子様、我々は喜んで神子様をルドビの村にお迎えします」
チャジルという男は、セファーの部族の長の側近だという。
歳は40半ばくらいだろうか、セファーのように褐色の肌の持ち主で、薄茶色の髪は、やはりセファーのように長く伸ばして後ろで束ねている。
セファーは人払いをし、宿屋の一室で俺の本当の身分をチャジルに明かした。
「でも、俺は今、サンドロオリヴェの王子に探されているらしく、そんなお尋ね者の俺がいることでルドビの皆さんにご迷惑をおかけするのではないかと……」
心配を口にした俺に、
「それについてはご心配なく。我々は、戦闘にも秀でた部族です。サンドロオリヴェの騎士が束になってかかってきたところで、負けるわけはありません。
ルドビの村は、守りも強固です。
神子様を我らが地に迎えることは、我が部族の誉れです。必ず私達が、神子様をお守りいたします」
チャジルは恭しく俺に頭を下げる。
「でも……」
「神子は、俺が必ず守る!」
セファーが後ろから、俺の両肩に手を置いた。
「セファー、お前……」
何か言いたげな顔をするチャジル。
俺とセファーの顔を見比べると、小さくチャジルは頷いた。
「……セファーの強い思いはわかった。
俺たちも、神子を守るためにできることはなんでもしよう。
だが、まだルドビに戻るまでは気を抜けない。どこで誰が聞いているとも知れないから、この方が神子だということはまだ仲間にも伏せておこう」
「わかった。チャジルに任せる」
チャジルは温和そうな瞳を、俺に向けた。
「神子、今日は我々はここに泊まって、明日朝早くにルドビへ発つつもりです。
部屋を用意しますので、どうかゆっくりとお過ごしください。夜には一席設けますので、ぜひ我々の仲間を紹介させてください!」
そんなこんなで、俺はヘルビナの街で、はからずもセファーの部族と合流することができたのだった。
「何も!!」
一体何が気に入らないのか、さっきから怒った様子のセファー。
ーーもしかして、久しぶりに可愛い許嫁に会って、照れてるのかな?
そうか、きっとセファーは、いわゆる世間一般で言うところの、ツンデレというやつに違いない!
ツンデレセファーは、他人の俺がいる前でデレるわけにはいかないので、ファティマに対してこんなぶっきらぼうな態度になっているのだ!
故郷に婚約者がいるからと、ありとあらゆるご令嬢たちからのお誘いを断り続けていたセファー。
……そりゃ、そうだよな。こんな可愛くて綺麗で、おまけに気立ての良さそうな子が待ってるんだから、よそ見なんて、するわけないよな。
チャジルという人と落ち合うために、町の中心部にある宿屋に向かう俺達。
顔では笑っていたが……、俺の胸中はもちろん、穏やかではなかった。
「ねえ、セファー、王宮での楽しい話を聞かせて!」
「楽しいことなど、なにもない」
「ひどーい、そんなこと言わずに、教えてよ! 貴族のご令嬢たちはどんなドレスを着ているの?」
「……興味がないので全く覚えていない」
俺はセファーにまとわりつくようにして歩くファティマの姿をちらりと見る。
ーー本当に、絵になる二人だ……。
ファティマという、セファーが大切にしている女性を目の当たりにしてしまった俺。
だが、彼女の輝くばかりの美しさに、俺はもはや嫉妬する気も起こらなかった。
セファーとファティマ、二人が並んでいるだけで、それだけで完璧な世界がそこにはあった。
そこに、平凡な俺の入る隙間など、どこにもない。
―ー現実は、どこまでも残酷だった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「セファーから話は聞きました。神子様、我々は喜んで神子様をルドビの村にお迎えします」
チャジルという男は、セファーの部族の長の側近だという。
歳は40半ばくらいだろうか、セファーのように褐色の肌の持ち主で、薄茶色の髪は、やはりセファーのように長く伸ばして後ろで束ねている。
セファーは人払いをし、宿屋の一室で俺の本当の身分をチャジルに明かした。
「でも、俺は今、サンドロオリヴェの王子に探されているらしく、そんなお尋ね者の俺がいることでルドビの皆さんにご迷惑をおかけするのではないかと……」
心配を口にした俺に、
「それについてはご心配なく。我々は、戦闘にも秀でた部族です。サンドロオリヴェの騎士が束になってかかってきたところで、負けるわけはありません。
ルドビの村は、守りも強固です。
神子様を我らが地に迎えることは、我が部族の誉れです。必ず私達が、神子様をお守りいたします」
チャジルは恭しく俺に頭を下げる。
「でも……」
「神子は、俺が必ず守る!」
セファーが後ろから、俺の両肩に手を置いた。
「セファー、お前……」
何か言いたげな顔をするチャジル。
俺とセファーの顔を見比べると、小さくチャジルは頷いた。
「……セファーの強い思いはわかった。
俺たちも、神子を守るためにできることはなんでもしよう。
だが、まだルドビに戻るまでは気を抜けない。どこで誰が聞いているとも知れないから、この方が神子だということはまだ仲間にも伏せておこう」
「わかった。チャジルに任せる」
チャジルは温和そうな瞳を、俺に向けた。
「神子、今日は我々はここに泊まって、明日朝早くにルドビへ発つつもりです。
部屋を用意しますので、どうかゆっくりとお過ごしください。夜には一席設けますので、ぜひ我々の仲間を紹介させてください!」
そんなこんなで、俺はヘルビナの街で、はからずもセファーの部族と合流することができたのだった。
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