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第62話
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「ファティマ……」
セファーは驚いたように、その褐色美女を見つめていた。
「やっぱりっ、セファーなのよね!?」
セファーにファティマと呼ばれたその美女は、花がほころぶような笑顔で、俺たちに近づいてきた。
セファーはなぜか表情をこわばらせ、俺をその背中に隠すように立った。
「どうしてここにいるんだ? 一人なのか? こんなところに女一人で……」
ファティマは首を振る。
「まさか! 忘れたの? もうすぐ村の祭りでしょ?
みんなで買い出しにきてるんだって! ちょっと時間ができたから洋服を見に来たの!
でも、どうして、どうして?
急に休暇がもらえたの? セファーってば、護衛騎士になってから全然帰ってきてくれないんだもん!」
ファティマはセファーの手を取ると、ぎゅっと握り締めた。
「……大切な用があって、戻ってきた。なら、チャジルも一緒にここに来ているのか?」
セファーはやんわりとその手を離すと、ファティマに問いかける。
「うん、いるよ。……その人は? お友達?」
セファーの後ろにいる俺に気づいたファティマは、俺に微笑みかける。
ファティマの瞳と同じ水色の石の耳飾りが、耳元で涼やかに揺れる。
――わぁー、なんというか、すごく美人で、すごく、可愛い!!
王宮の取り澄ました姫君たちに比べて、親しみやすく、健康的かつ明るい美人だ。
こうしてみると、セファーとも雰囲気が似ている……、ということは同じ部族のお嬢さんなのだろうか……?
「あの……、俺は……」
「この人は大切な客人だ!」
自己紹介しようとした俺をさえぎり、セファーは言った。
そしてまた、ファティマとの間に立ちふさがるようにする。
「そう……、なんだ。私はファティマ・メルリン。セファーの幼馴染です。よろしくね!」
この空間が、一瞬でぱあっと明るくなるような笑み。
そして、愚かな俺はようやく気付いた。
――このファティマこそ、セファーがこれ以上なく大切にしていた幼馴染の許嫁なのだと!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わー、すごく可愛い! セファーありがとう!!」
俺の買い物のついでだといって、ファティマの洋服も買ってあげた、……というか買わされたセファー。
「すごく似合ってるね。……綺麗だ」
お世辞抜きに、俺は言った。
ファティマが自分で選んだドレスは、淡い水色の幾重にも重なった薄衣がヒラヒラとしていて可憐で、彼女の魅力を存分に引き出していた。
ドレスを着てくるくる回って見せるファティマは、まるで水の妖精みたいで……。
「……アンタの洋服は、全部俺が選んだ!」
ムッとした様子のセファー。
俺が許嫁のファティマを、じろじろ見ていることが気に入らないのだろう。
またセファーは、俺とファティマの間に壁を作るように立ちふさがった。
「ありがとう、セファー。すごく着心地がよさそうだよ」
俺が礼を言うと、セファーはちょっとだけ機嫌を直したようだ……。
「もっといいものも、たくさん買えたのに……」
「十分すぎるよ。それより、ファティマにもう一着買ってあげたら?」
「それこそ十分だろう! あいつは店が開けるほどの衣装持ちだ」
眉間に深いシワを寄せるセファー。
「ひどーい、セファー! 私、このピンクのドレスも着てみたいな!」
「……行くぞ、チャジルに話がある」
ファティマの可愛らしいおねだりを綺麗にスルーすると、セファーはすたすたと店の外に出て行った。
「……とんだ誤算だ! せっかく、ようやく、やっと、二人きりになれたところだというのに!!」
セファーは驚いたように、その褐色美女を見つめていた。
「やっぱりっ、セファーなのよね!?」
セファーにファティマと呼ばれたその美女は、花がほころぶような笑顔で、俺たちに近づいてきた。
セファーはなぜか表情をこわばらせ、俺をその背中に隠すように立った。
「どうしてここにいるんだ? 一人なのか? こんなところに女一人で……」
ファティマは首を振る。
「まさか! 忘れたの? もうすぐ村の祭りでしょ?
みんなで買い出しにきてるんだって! ちょっと時間ができたから洋服を見に来たの!
でも、どうして、どうして?
急に休暇がもらえたの? セファーってば、護衛騎士になってから全然帰ってきてくれないんだもん!」
ファティマはセファーの手を取ると、ぎゅっと握り締めた。
「……大切な用があって、戻ってきた。なら、チャジルも一緒にここに来ているのか?」
セファーはやんわりとその手を離すと、ファティマに問いかける。
「うん、いるよ。……その人は? お友達?」
セファーの後ろにいる俺に気づいたファティマは、俺に微笑みかける。
ファティマの瞳と同じ水色の石の耳飾りが、耳元で涼やかに揺れる。
――わぁー、なんというか、すごく美人で、すごく、可愛い!!
王宮の取り澄ました姫君たちに比べて、親しみやすく、健康的かつ明るい美人だ。
こうしてみると、セファーとも雰囲気が似ている……、ということは同じ部族のお嬢さんなのだろうか……?
「あの……、俺は……」
「この人は大切な客人だ!」
自己紹介しようとした俺をさえぎり、セファーは言った。
そしてまた、ファティマとの間に立ちふさがるようにする。
「そう……、なんだ。私はファティマ・メルリン。セファーの幼馴染です。よろしくね!」
この空間が、一瞬でぱあっと明るくなるような笑み。
そして、愚かな俺はようやく気付いた。
――このファティマこそ、セファーがこれ以上なく大切にしていた幼馴染の許嫁なのだと!
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「わー、すごく可愛い! セファーありがとう!!」
俺の買い物のついでだといって、ファティマの洋服も買ってあげた、……というか買わされたセファー。
「すごく似合ってるね。……綺麗だ」
お世辞抜きに、俺は言った。
ファティマが自分で選んだドレスは、淡い水色の幾重にも重なった薄衣がヒラヒラとしていて可憐で、彼女の魅力を存分に引き出していた。
ドレスを着てくるくる回って見せるファティマは、まるで水の妖精みたいで……。
「……アンタの洋服は、全部俺が選んだ!」
ムッとした様子のセファー。
俺が許嫁のファティマを、じろじろ見ていることが気に入らないのだろう。
またセファーは、俺とファティマの間に壁を作るように立ちふさがった。
「ありがとう、セファー。すごく着心地がよさそうだよ」
俺が礼を言うと、セファーはちょっとだけ機嫌を直したようだ……。
「もっといいものも、たくさん買えたのに……」
「十分すぎるよ。それより、ファティマにもう一着買ってあげたら?」
「それこそ十分だろう! あいつは店が開けるほどの衣装持ちだ」
眉間に深いシワを寄せるセファー。
「ひどーい、セファー! 私、このピンクのドレスも着てみたいな!」
「……行くぞ、チャジルに話がある」
ファティマの可愛らしいおねだりを綺麗にスルーすると、セファーはすたすたと店の外に出て行った。
「……とんだ誤算だ! せっかく、ようやく、やっと、二人きりになれたところだというのに!!」
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