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第53話

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「神子……、神子……」

 温かい腕の中で、俺はまどろんでいる。

 その逞しい胸元に鼻先をこすりつけると、ぎゅっと力強く抱き込まれた。



 ――なぜだろう……。すごく、落ち着く……。

 ――ずっとこうしていたい……。



 長い指が、あやすようにゆっくりと俺の髪を梳いていく。

 俺もぎゅっと抱き着くと、不意に顎を持ち上げられ、唇には甘い息がかかる。


「んっ……、あ……」

 しっとりとした唇が俺の唇に重なる。


 くすぐるように舌先で舐められると、自然とねだるような声が出てしまう。


「ん……」


 上唇、下唇と、まるでちょっとした悪戯みたいに甘噛みされると、俺の口は誘うように開いた。

 そして舌が入ってくる頃には、俺はすっかり与えられる口づけに夢中になっていた……。




「あ……、もっと……、して……」

 キスをねだったつもりだったのに、唇はなぜかドンドン首から下に降りて行って……、


「あっ、そこっ……!」

 乳首を舐められたところで、俺の意識は覚醒した!!



「神子……」

 全裸の俺の上にのしかかり、その美しい瞳をきらめかせているのは……、


「セファーっ!!!!」


 そして俺は同時に、昨夜のセファーとのあれやこれやを思い出し、顔から火が出そうになった。


「神子……、まだ、身体がくすぶっているのなら、俺が……」

 そう言ってセファーは俺の両肩に手を置くと、俺の胸にキスを落とす。


「うわあああああああああっ!!!!」


 俺は大声をあげて、セファーを力任せに押すと、そのままベッドから転がり落ちた。




「神子っ!?」


「だ、大丈夫! もう大丈夫! もうすっかり、媚薬の効果は切れた。
セファー、昨日はごめん、もう、絶対にあんなこと、しない!」

 尻もちをついたまま、シーツを身体に巻き付けて叫ぶように言う俺に、セファーは眉間にシワを寄せた。


「神子は一体何をあやまっているんだ?
俺に黙って、薬のためにあの男に身体を許そうとしたことか、それとも……」


「わああ! 全部、全部だよっ!
それに加えて、昨日の夜、セファーをここで襲っちゃったことも、全部!
もう、あんなことはしない! 神に誓う! だから……」


「……そのことなら、何も問題はない」

 セファーはにやりと笑うと、かがみ込んで俺をひょいと横抱きにした。


「わ、わ! セファーっ!?」

 セファーの美しすぎる顔がドアップに迫る!


「神子、これからは神子の身体は、俺が責任を持って慰める。
だから約束してほしい……、もうほかの誰にも、この身体をむやみに与えたりしない、と」


「え、あ……、うん、約束する。もうあんなことは、絶対しない、でも……」


 ーーセファーが俺を責任を持って慰めるって……?

 ーーどういう、意味?


 セファーの真意をはかりかねる俺だったが、俺の返事に満足したのか、セファーは俺をそのまま寝台におろしてくれた。




「セファー、回復してよかった!」

 セファーを見上げて、俺は言った。


 はだけたシャツからのぞくセファーの身体は、すっかり元通りのようだった。


「神子、これを見てほしい……」

 言うとセファーは、おもむろにシャツをぬいで上半身裸になった。



 ーーうわぁあ! 相変わらず、見惚れるくらい、イイ身体……!


 って、そんなことじゃなく!



「小さな傷や、痣までも、全て消えている! 神子のおかげだ」


 セファーの言う通り、その身体には、コストーに来てからずっと増え続けていた生傷、擦り傷、打撲のあとですら、もう一つも見つからなかった。



「薬が効いたんだね!」

 俺の言葉に、セファーは首を振った。


「ボルカが持ってきたのは、解毒薬と即効性のある回復薬だ。
あの娘のおかげで、すぐに神子のもとに駆けつけられる状態になったことは事実だが……、
その薬の効果だけでは、傷と痣が治った説明はつかない」


「でもそれは、セファーの回復力が……」


「俺が、昨日神子の加護を受けたからだ……」

 少し赤くなったセファーは言った。



「加護? でも、俺、一方的にセファーに気持ちよくしてもらっただけで……」

 あの魔法使いのジイさんいわく「加護を受けるには、神子の胎内に、子種を入れることが大事!!」だったはずだが……。



「神子は偉大だ!」


 しかし、すっかり俺を崇拝しきっているセファーには、自己免疫力の高さすらも、俺からのありがたい加護となって認識されてしまっているらしい。



 だが、なんの効果であろうと、セファーが全回復してくれたことで、俺たちは次の一歩を踏み出すことができることになった!


 それは……。






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