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第50話

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 宿屋についてから、セファーはずっと無言だった。

 すぐにセファーに謝って、そしてセファーの回復をともに喜んで、そして今までのいきさつを詳しく説明したい俺だったが……。


「くっ……!」

 俺は、自分の身体が、大変大きな問題を抱えていることに、今更ながら気づいた。



「神子、着替えを……」

 セファーの黒いマントにくるまり、寝台にじっと座ったままの俺に、セファーが新しい服を手渡す。


「あ、ああ、ありがとう……、っ……!!」

 受け取ろうとした手が、セファーの指先に触れる。


「……神子?」


 その美しい青い瞳と目が合うと、心臓を鷲掴みにされたような感覚になる。


 俺は思わず、セファーの腕をつかんでいた。


「セファーっ、俺……っ」


 どうしよう、息が、苦しい……。

 体の中が、熱くて、どうしようもなく……、



「神子、どうしたんだ? もしかして具合が……」

 かがみこんだセファーに、俺はそのまま抱き着いていた。


「セファーっ、助けて……」

 俺がセファーの首に手を回すと、俺にまとわりついていた黒いマントが床に落ちた。


「……っ、神子っ……!」


 一糸まとわぬ俺の姿に、セファーは息を呑む。


 俺の肌は上気し、陰茎は直立し、乳首は誘うように赤く色づき尖っていた……。



「セファー、お願い……、苦しいんだ……、セファー、助けて……!」


 俺はセファーの首筋に顔を埋める。

 セファーの匂いを嗅ぐと、なぜかとても深い幸福感に満たされる。


「神子、俺はどうすれば……」


 戸惑うセファーの手を、俺は取った。


「触って、セファー、媚薬のせいで、身体が火照って、どうしようもないんだ。
セファーにいっぱい、触って欲しい……」


 しかし俺の昂りに導かれたセファーの手は、まるで火傷しそうなほど熱いものに触れたときみたいに、瞬時に離された。


「駄目だっ、神子を穢すことは、できない……」


 セファーの吐息が熱い……。


「俺は穢されたりなんて、しない。セファーお願い……、このままじゃ、俺、おかしくなる……っ」


 離れようとするセファーの身体を、強引に引き寄せ、自分の身体を擦りつける。



「神子……、……っ!」

 こちらを向いたセファーに、俺は強引に口づけていた。



「んっ……」

 差し入れようとした舌を、固く閉ざされた唇で拒まれる。


 セファーは俺の肩をつかんだ。



「駄目だっ、神子、こんなことをされたら、俺も歯止めがきかなくなるっ!」


 必死になるセファーの首筋に、俺はキスを落とした。


「大丈夫だよ、セファー。
これは俺を穢す行為なんかじゃない、これは……、俺を助ける行為なんだよ……」


「神子……」



 セファーの瞳が、揺れる。



 ーー俺は今、すごく卑怯なことをしている。



 セファーの神子を崇拝する気持ちを利用して、俺は自分の醜い欲望を、満たそうとしている。



 まだ媚薬の効果が切れず、燻ったままの俺の身体……。

 バルロに中途半端にされた俺の欲望は、今セファーに向かっている。




「セファー、来て……」


 でも俺にはわかっていた。


 ーー媚薬のせい、だけじゃない。



 ナセルでも、バルロでもなく……、

 俺は、セファーに触れられたかった。



 そうだ、俺はいつの間にか……、

 セファーをもっともっと自分の側に感じたいと思うようになっていた。



 もう認めざるを得ない。




 俺は、いつのまにか……、

 セファーのことを好きになってしまっていたんだ!












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