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第49話

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「……言い残すことはないか」


 セファーはすっと目を細めると、手にしていた長剣の鋭い切っ先をバルロに向けた。

 その剣身は、青白い光を帯び、高温の火花のようなものがあたりに散っている。

 ――魔剣!

 書物で読んだことがあっただけで、目にするのは初めてだった。

 この世界には魔法があるが、そもそも魔法を使える者は一握り。
 その中でも、剣に魔力を加え、それを使役するには相当な魔力が必要で、魔剣を使える剣士など、いまや伝説の存在となっていた。


「わあっ、タンマタンマタンマっ! ちょっと待て! 落ち着け、落ち着くんだセファーっ!
確かに俺は、ちょっとだけ神子様と気持ちイイことはした! しかし、未遂だっ!
俺はまだ入れてねえっ! なんなら、まだ一回もイッてな……」

「いますぐに、その神子を冒涜する口を閉じろっ!」

 セファーはその青い瞳でバルロを睨みつける。


「ヒっ……」

 バルロの首筋に、そのギラリと光る剣身が当てられた。


「あの世に行ってからも、貴様がした行いを悔い続けるがいいっ!」


「ぎゃーっ、頼むっ、ほんのデキ心なんだっ、許してくれっ!」

 バルロはシーツをつかんでなんとか下半身を隠すと、寝台の上でじりじりと後ずさりして、セファーの剣からのがれようとした。

「それに、俺は世界一の商人になるまでは、絶対死ねないっ!
アンタの神子様に手を出したのは謝るっ!
でも神子様の加護を受ければ、俺はてっとりばやく世界一になれるって、そう思ったんだよ!
それに、これは合意の上だっ! 俺のテクで神子様だって、ちゃんと気持ちよく……」


「それ以上話すと、お前の口にこの剣を突っ込んで、二度とそんなふざけた口がきけなくしてやる!」

 今度はバルロの唇の一ミリ先に、火花を散らす魔剣が迫った。


「セファー、もうやめて!
俺は大丈夫だから!」

 すでに寝台から逃げだしていた俺は、シーツを身体に巻き付けたまま、叫んだ。


「神子……」

 俺の言葉に、セファーはバルロに魔剣を突きつけたまま、頭だけ振り返った。


「セファー、元気になったんだね、よかった!」

 セファーのシャツから覗くその逞しい身体は、すでに元の褐色に戻っている。


 ――解毒が間に合ったんだ。


「なにも、良くない! 俺のせいで、神子の身体を穢してしまった!!」

 セファーの瞳に、苦悩の色が宿る。



「だーかーらっ、それは未遂、未遂だったんだってば!」


「それ以上何か言えば、この世に生を受けたことを後悔するくらい苦しんでから死ぬことになるぞ!」

 セファーの剣先が、シュンとバルロの褐色の頭の先をかすめた。

 褐色の髪は束になってぱらりと、バルロの裸の肩に落ちる。

 
「ヒィー! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんっ!」

 その長剣の切れ味に、バルロは怯えてすっかり青ざめている。


「お願いだ、セファー、どうか剣を下ろして。
全部俺が悪いんだ…‥。
どうしても君を助けたくて、君との約束を破った。
……俺はバルロさんに加護を与える代わりに、君の解毒薬をもらったんだ……」


「サイッテー!!!!」

 バンッと大きな音がしたほうを見ると、ドアを蹴破る勢いで、ボルカが入ってきていた。


「兄貴、見損なったよ!! 女ったらしなのは知ってたけど、まさか最愛の相手がいる人を寝取ろうとするなんてっ!!!!
しかも、セファーをどうしても助けたいっていう先生の弱みに付け込んで、無理矢理手籠めにしようとするとか、
サイテーのサイテーのサイッテー!!!!」

「ボルカ……」

 髪を逆立てんばかりのボルカの勢いに、バルロはぽかんと口を開けている。


「自分が世界一の商人になるためだったら、人の恋人だって犯すわけ?
アタシ、兄貴のことは商人としてちょっとは尊敬してたのに、本当に幻滅した!
サイテーの兄貴のアソコなんか、神子様に呪われて腐ってもげちゃえばいいんだっ!
わーんっ! 先生ごめんねっ、セファーもごめんなさいっ! ヒクっ! ええーんっ、兄貴の大馬鹿野郎っ!!」

 ボルカは泣きながらその場に崩れ落ちた。


「ボルカ、俺は大丈夫だよ」

 俺はボルカに近づき、その頭をぽんぽんと撫でた。


「……うえーんっ、先生、ごめんね。兄貴にいっぱい、エッチなこと、されちゃったんでしょ?」

 オリーブ色の瞳が、俺をのぞき込んでくる。


「……っ、それは……」

 背中を伝う冷や汗。

 後ろからのセファーの視線が、痛すぎる……。



「……っ、この娘に免じて、貴様の命は助けてやる!
今後は妹の足元にひれ伏しながら、生きるがいい!!」


 長剣を腰にしまったセファーは俺に近づくと、後ろから俺を黒いマントですっぽりくるんだ。


「行くぞ、神子!」

「え!? ちょっと、セファーっ!?」


 俺を横抱きにしたまま、セファーはそのまま夜の町へと飛び出した。













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