49 / 97
第49話
しおりを挟む
「……言い残すことはないか」
セファーはすっと目を細めると、手にしていた長剣の鋭い切っ先をバルロに向けた。
その剣身は、青白い光を帯び、高温の火花のようなものがあたりに散っている。
――魔剣!
書物で読んだことがあっただけで、目にするのは初めてだった。
この世界には魔法があるが、そもそも魔法を使える者は一握り。
その中でも、剣に魔力を加え、それを使役するには相当な魔力が必要で、魔剣を使える剣士など、いまや伝説の存在となっていた。
「わあっ、タンマタンマタンマっ! ちょっと待て! 落ち着け、落ち着くんだセファーっ!
確かに俺は、ちょっとだけ神子様と気持ちイイことはした! しかし、未遂だっ!
俺はまだ入れてねえっ! なんなら、まだ一回もイッてな……」
「いますぐに、その神子を冒涜する口を閉じろっ!」
セファーはその青い瞳でバルロを睨みつける。
「ヒっ……」
バルロの首筋に、そのギラリと光る剣身が当てられた。
「あの世に行ってからも、貴様がした行いを悔い続けるがいいっ!」
「ぎゃーっ、頼むっ、ほんのデキ心なんだっ、許してくれっ!」
バルロはシーツをつかんでなんとか下半身を隠すと、寝台の上でじりじりと後ずさりして、セファーの剣からのがれようとした。
「それに、俺は世界一の商人になるまでは、絶対死ねないっ!
アンタの神子様に手を出したのは謝るっ!
でも神子様の加護を受ければ、俺はてっとりばやく世界一になれるって、そう思ったんだよ!
それに、これは合意の上だっ! 俺のテクで神子様だって、ちゃんと気持ちよく……」
「それ以上話すと、お前の口にこの剣を突っ込んで、二度とそんなふざけた口がきけなくしてやる!」
今度はバルロの唇の一ミリ先に、火花を散らす魔剣が迫った。
「セファー、もうやめて!
俺は大丈夫だから!」
すでに寝台から逃げだしていた俺は、シーツを身体に巻き付けたまま、叫んだ。
「神子……」
俺の言葉に、セファーはバルロに魔剣を突きつけたまま、頭だけ振り返った。
「セファー、元気になったんだね、よかった!」
セファーのシャツから覗くその逞しい身体は、すでに元の褐色に戻っている。
――解毒が間に合ったんだ。
「なにも、良くない! 俺のせいで、神子の身体を穢してしまった!!」
セファーの瞳に、苦悩の色が宿る。
「だーかーらっ、それは未遂、未遂だったんだってば!」
「それ以上何か言えば、この世に生を受けたことを後悔するくらい苦しんでから死ぬことになるぞ!」
セファーの剣先が、シュンとバルロの褐色の頭の先をかすめた。
褐色の髪は束になってぱらりと、バルロの裸の肩に落ちる。
「ヒィー! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんっ!」
その長剣の切れ味に、バルロは怯えてすっかり青ざめている。
「お願いだ、セファー、どうか剣を下ろして。
全部俺が悪いんだ…‥。
どうしても君を助けたくて、君との約束を破った。
……俺はバルロさんに加護を与える代わりに、君の解毒薬をもらったんだ……」
「サイッテー!!!!」
バンッと大きな音がしたほうを見ると、ドアを蹴破る勢いで、ボルカが入ってきていた。
「兄貴、見損なったよ!! 女ったらしなのは知ってたけど、まさか最愛の相手がいる人を寝取ろうとするなんてっ!!!!
しかも、セファーをどうしても助けたいっていう先生の弱みに付け込んで、無理矢理手籠めにしようとするとか、
サイテーのサイテーのサイッテー!!!!」
「ボルカ……」
髪を逆立てんばかりのボルカの勢いに、バルロはぽかんと口を開けている。
「自分が世界一の商人になるためだったら、人の恋人だって犯すわけ?
アタシ、兄貴のことは商人としてちょっとは尊敬してたのに、本当に幻滅した!
サイテーの兄貴のアソコなんか、神子様に呪われて腐ってもげちゃえばいいんだっ!
わーんっ! 先生ごめんねっ、セファーもごめんなさいっ! ヒクっ! ええーんっ、兄貴の大馬鹿野郎っ!!」
ボルカは泣きながらその場に崩れ落ちた。
「ボルカ、俺は大丈夫だよ」
俺はボルカに近づき、その頭をぽんぽんと撫でた。
「……うえーんっ、先生、ごめんね。兄貴にいっぱい、エッチなこと、されちゃったんでしょ?」
オリーブ色の瞳が、俺をのぞき込んでくる。
「……っ、それは……」
背中を伝う冷や汗。
後ろからのセファーの視線が、痛すぎる……。
「……っ、この娘に免じて、貴様の命は助けてやる!
今後は妹の足元にひれ伏しながら、生きるがいい!!」
長剣を腰にしまったセファーは俺に近づくと、後ろから俺を黒いマントですっぽりくるんだ。
「行くぞ、神子!」
「え!? ちょっと、セファーっ!?」
俺を横抱きにしたまま、セファーはそのまま夜の町へと飛び出した。
セファーはすっと目を細めると、手にしていた長剣の鋭い切っ先をバルロに向けた。
その剣身は、青白い光を帯び、高温の火花のようなものがあたりに散っている。
――魔剣!
書物で読んだことがあっただけで、目にするのは初めてだった。
この世界には魔法があるが、そもそも魔法を使える者は一握り。
その中でも、剣に魔力を加え、それを使役するには相当な魔力が必要で、魔剣を使える剣士など、いまや伝説の存在となっていた。
「わあっ、タンマタンマタンマっ! ちょっと待て! 落ち着け、落ち着くんだセファーっ!
確かに俺は、ちょっとだけ神子様と気持ちイイことはした! しかし、未遂だっ!
俺はまだ入れてねえっ! なんなら、まだ一回もイッてな……」
「いますぐに、その神子を冒涜する口を閉じろっ!」
セファーはその青い瞳でバルロを睨みつける。
「ヒっ……」
バルロの首筋に、そのギラリと光る剣身が当てられた。
「あの世に行ってからも、貴様がした行いを悔い続けるがいいっ!」
「ぎゃーっ、頼むっ、ほんのデキ心なんだっ、許してくれっ!」
バルロはシーツをつかんでなんとか下半身を隠すと、寝台の上でじりじりと後ずさりして、セファーの剣からのがれようとした。
「それに、俺は世界一の商人になるまでは、絶対死ねないっ!
アンタの神子様に手を出したのは謝るっ!
でも神子様の加護を受ければ、俺はてっとりばやく世界一になれるって、そう思ったんだよ!
それに、これは合意の上だっ! 俺のテクで神子様だって、ちゃんと気持ちよく……」
「それ以上話すと、お前の口にこの剣を突っ込んで、二度とそんなふざけた口がきけなくしてやる!」
今度はバルロの唇の一ミリ先に、火花を散らす魔剣が迫った。
「セファー、もうやめて!
俺は大丈夫だから!」
すでに寝台から逃げだしていた俺は、シーツを身体に巻き付けたまま、叫んだ。
「神子……」
俺の言葉に、セファーはバルロに魔剣を突きつけたまま、頭だけ振り返った。
「セファー、元気になったんだね、よかった!」
セファーのシャツから覗くその逞しい身体は、すでに元の褐色に戻っている。
――解毒が間に合ったんだ。
「なにも、良くない! 俺のせいで、神子の身体を穢してしまった!!」
セファーの瞳に、苦悩の色が宿る。
「だーかーらっ、それは未遂、未遂だったんだってば!」
「それ以上何か言えば、この世に生を受けたことを後悔するくらい苦しんでから死ぬことになるぞ!」
セファーの剣先が、シュンとバルロの褐色の頭の先をかすめた。
褐色の髪は束になってぱらりと、バルロの裸の肩に落ちる。
「ヒィー! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんっ!」
その長剣の切れ味に、バルロは怯えてすっかり青ざめている。
「お願いだ、セファー、どうか剣を下ろして。
全部俺が悪いんだ…‥。
どうしても君を助けたくて、君との約束を破った。
……俺はバルロさんに加護を与える代わりに、君の解毒薬をもらったんだ……」
「サイッテー!!!!」
バンッと大きな音がしたほうを見ると、ドアを蹴破る勢いで、ボルカが入ってきていた。
「兄貴、見損なったよ!! 女ったらしなのは知ってたけど、まさか最愛の相手がいる人を寝取ろうとするなんてっ!!!!
しかも、セファーをどうしても助けたいっていう先生の弱みに付け込んで、無理矢理手籠めにしようとするとか、
サイテーのサイテーのサイッテー!!!!」
「ボルカ……」
髪を逆立てんばかりのボルカの勢いに、バルロはぽかんと口を開けている。
「自分が世界一の商人になるためだったら、人の恋人だって犯すわけ?
アタシ、兄貴のことは商人としてちょっとは尊敬してたのに、本当に幻滅した!
サイテーの兄貴のアソコなんか、神子様に呪われて腐ってもげちゃえばいいんだっ!
わーんっ! 先生ごめんねっ、セファーもごめんなさいっ! ヒクっ! ええーんっ、兄貴の大馬鹿野郎っ!!」
ボルカは泣きながらその場に崩れ落ちた。
「ボルカ、俺は大丈夫だよ」
俺はボルカに近づき、その頭をぽんぽんと撫でた。
「……うえーんっ、先生、ごめんね。兄貴にいっぱい、エッチなこと、されちゃったんでしょ?」
オリーブ色の瞳が、俺をのぞき込んでくる。
「……っ、それは……」
背中を伝う冷や汗。
後ろからのセファーの視線が、痛すぎる……。
「……っ、この娘に免じて、貴様の命は助けてやる!
今後は妹の足元にひれ伏しながら、生きるがいい!!」
長剣を腰にしまったセファーは俺に近づくと、後ろから俺を黒いマントですっぽりくるんだ。
「行くぞ、神子!」
「え!? ちょっと、セファーっ!?」
俺を横抱きにしたまま、セファーはそのまま夜の町へと飛び出した。
1,681
お気に入りに追加
2,092
あなたにおすすめの小説
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる