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第46話

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「怖気づいたか、神子様?
でも、アンタは俺に約束した。
――自分にできることなら、なんでもするってな」

 オリーブ色の瞳が、俺をとらえる。


 ――バルロは、本気だ。

 浮き沈みの激しい商人という職業柄、自分の人生の歩みの力強い支えとして、人智の及ばない神の力を得たいと願うのは、人としての道理だろう。

 俺に神子として、バルロに加護を与えるだけの力があるとは、到底思えない。

 でも……、バルロにとっては、神子である俺に加護を与えられた、という事実そのものが重要なのだろう。

 だとしたら、神子の加護を受けたという自信が、きっと今後のバルロの人生に、勝機をもたらすことになるのに違いない。

 だから……。



「わかった」

 俺は寝台まで近づくと、バルロの横に腰掛けた。

「でも、お願いだ。
このことは、絶対にセファーには言わないで!」

 バルロは片眉を上げると、俺の肩を抱いた。


「もちろんだ。俺だって、命は惜しいからな。
早死になんて、したくねえ」

 言いながら、さっそく慣れた手つきで、俺のシャツのボタンをはずしていく。



「……、やっぱり、男だよな……」

 俺の裸の胸を前に、バルロはつぶやく。


「バルロさん……、できるの?」


 バルロは生粋の女性好きといっていたが……。

 加えて、男の俺にバルロをその気にさせるような魅力があるとも思えない……。

 俺は神子だったが、そのまえにれっきとした男だった。


 ーー男の俺を目の前に、バルロは明らかに戸惑っていた。


「バルロさん、無理なら、何か俺が別の方法を……」

 バルロが首を振る。


「もちろん、できるさ! 俺は、せっかくの神子様の加護を受けるチャンスを不意になんてしない!
そもそも、男も女も、大して変わりなんかないだろ?
……といっても、百戦錬磨の俺とて、男を抱くのは、初めてだ。
でもって、俺は無理やり相手をどうこうする趣味はねえ」

 そう言って、バルロは小さなガラス製の小瓶を俺に差し出した。


「これは……?」

「まあ、一種の媚薬だ。こんなもんは、お互いに気持ちよくなるにこしたことは、ないだろ?」


 いつもの調子でバルロはウィンクすると、自分も瓶の蓋をあけ、一気に呷った。


「……」

 俺も同じように、小瓶の液体を、一気に飲み干した。

 甘いだけのシロップみたいな味が、舌に残る。


 だが、その液体が喉を通って、身体の中に入った瞬間、ドクンっと胎内が疼くような感覚があった。


「……っ!」


「即効性があるって言ってたけど、マジだったみたいだな。
どうだ、ヨータ……、身体がほてってきたか……」


 バルロが人差し指で、俺の裸の背中を一撫でした。


「んっ、あ……!」

 触れられたところから、ビリビリと、しびれてくる。


「ふふっ……、可愛い声、出せるじゃねーか。心配してたけど、全然、イケそうだな?」

 目の前のバルロの顔……、やっぱり、すごく、いい男だった。


 バルロの人差し指が、俺の身体をからかうようにゆっくりたどっていく……。


「あ……っ」


 薬の影響なのだろうか、身体が火照って仕方がない。

 熱くて……、熱くて……、

 もっと、触ってほしくて……。



「バルロさんっ、俺……っ」


 俺は思わずバルロのシャツを握って、引き寄せる。

 バルロはほほ笑むと、俺の顎を持ち上げた。


「神子様はなにもしなくてもいい……。
なに、大丈夫だ。死ぬほど気持ちよくしてやるよ」


 唇が、塞がれた。


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