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第40話
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俺とナセルの間の亀裂が決定的なものとなったのは、たぶんあのことがあってからだ。
「ねえ、神子様、神子様はナセル殿下のことをどう思ってるの?」
王宮の図書館で本を読んでいたら、いきなりロロに声をかけられた。
振り返ると、よく動くピンク色の可愛らしい瞳が、探るように俺を見ていた。
「どうって……、別に……」
ナセルは俺にとって、この国の第一王子――、それ以上でも以下でもなかった。
「ナセル殿下って、すごくかっこいいよね。僕、あの瞳に見つめられると、とろんとした気持ちになっちゃう」
「まあ、そうだね……、顔は、いいと思う……」
性格はいけ好かないが、たしかにナセルの容姿は美しかった。
だが俺は、ナセルに見つめられても冷や汗しかでてこないが……。
このころロロは、すっかりナセルに気に入られ、王宮内でもいつも二人は一緒にいる印象だった。
「君、今、一人なの? ナセルは……?」
「殿下はちょっと用事があって、今は僕一人だよ。
ねえ、神子様、大事なお話があるんだ」
ロロは俺の隣に腰掛けると、俺の顔を覗き込むようにした。
「大事な話?」
「神子様も、僕のこと、違う世界から来たって、きっと信じてないでしょう?
でも僕はいままで、本当にこことは全然違う世界で暮らしてて、ある日急に足元の渦みたいなのに巻きこまれてここに来ちゃったんだ。
でも王宮に召喚された神子様と違って、僕がたどり着いた場所は砂漠の端の辺鄙な村!
……これってさ、不公平じゃない?」
ロロはその可愛らしい唇を尖らせる。
「不公平?」
「そう! だって、神子様は王宮に召喚されたっていうだけで、この国の神子様になれた。
僕だって、本当はそこについていたかもしれないのに!」
「……」
たしかに……。ロロが言っている渦みたいなものに巻きこまれたというのは、俺の状況と酷似している。
「だから僕、よく考えるんだ。
もし、神子様と僕が、逆の立場だったら、どうだったのかなって?」
ロロは、俺の顔をまじまじと見た。
「俺だって、別になりたくて神子になったわけじゃない」
まっすぐすぎる視線に、思わず俺は目を伏せる。
「そう? でもね、僕はあなたが死ぬほどうらやましい!」
「俺が!?」
「だって、そうでしょ? 王宮に召喚されたってだけで、王様からも大事にされて、
着るものも食事も、お部屋だって、この国では最高の待遇だ!
しかも、あんな素敵な王子様を独り占めして……!
ねえ、あなた、自分がどれほどの幸運に恵まれてるか、わかってるの?」
「……」
絶句する俺を見て、ロロはせせら笑った。
「神子様、あなた、もっと自分の立場をわきまえた方がいいよ。
もし僕があなただったら、ナセル殿下にあんな態度を取ったりしない。
もっと、甘えて、うんと可愛がってもらうよ!
……あーあ、ナセル殿下が本当に可哀想。
あなたみたいな、可愛げがない神子に操を立てないといけないなんて!」
言い返すことのできない俺を前に、ロロはあきれ顔で席を立った。
「じゃ、またね、神子様!
王子を譲ってくれる気になったら、いつでも教えて!」
にっこりと笑うロロの顔は、憎たらしいくらい可愛かった。
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