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第37話

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「バルロ、さん!?」

「見てたよー、神官様!
アンタ、算術も得意なんだな。……ますます怪しいなあ、やっぱり金貸しなんだろ、そうだろ?」

 バルロはオリーブ色の色っぽい瞳で、俺を楽し気に見つめてくる。


「違いますよ! 俺はただの神官で……」

「それはそうとさ、アンタ、どうせ暇だろ? ちょっと小遣い稼ぎしてみない? 神官様?」


 ――小遣い稼ぎ??


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 怪しいと思いつつも、バルロについてきてしまった俺。

「ここはさ、いま俺たちが世話になってる商人の店なんだ」

「すごく、大きい規模のお店ですね」


 さきほど俺がいた目抜き通りから、二本筋をはいった、一目でそれとわかる高級な店が並んだ通り。

 さきほどの屋台が並ぶ通りとは違い、どの店も立派な店構えだ。

 その中のとりわけ立派な店に、バルロは入っていた。


「ボルカ、いるか?」

 そこは大きな宝石のついたネックレスや、繊細な細工の指輪、すこし派手な黄金の腕輪など……、見るからに高級そうな装飾品を扱う店だった。

 ――全部がとんでもなく高そう!!


「はーい、ここにいるってば! 兄貴、ナツメヤシちゃんと買ってきてくれた?」


 店の奥の方から顔をのぞかせたのは、バルロの妹、ボルカだった。

 こうして二人そろうと、やはり無駄に色っぽい兄妹であることがわかる。


「お前の新しい算術の先生を連れてきてやったぜ!」

「え!?」

「は!?」

 俺とボルカが同時に、声を上げる。



「神官様、頼むよ。
こいつ、俺の妹だっていうのに、ほんとに出来が悪くてさ! 
このまま簡単な金勘定もできないんじゃ、商家の嫁に出そうにも、貰い手がないんだよ。
アンタを見込んでの頼みだ!
コイツに、算術を仕込んでやってくれ!
なに、贅沢は言わない。本当に簡単な計算ができるようになりさえすりゃ、いいから!」


 そう言ってバルロは俺に拝むみたいなしぐさをする。


「はあーっ!? 兄貴っ! アタシは商人なんとかと結婚する気はないって、何度言ったらわかるわけ?
アタシは素敵な騎士様と結婚するつもりなの! だから、金勘定を覚える必要なんて、ないっつーの!」

 ボルカが苛立たし気に、その褐色の髪をかき上げる。


「その騎士様に秒で振られたお前が、なに言ってんだよ!
そもそも、誰と結婚しようと、簡単な計算もできないアホな嫁なんか、誰が欲しがるかっつーの!
とにかく、お前はこの神官様に算術を習え! いいな!」

「ちぇー、なにさ、兄貴だからって、偉ぶっちゃってさ!」

 ぶつぶついいながら、ボルカは俺をちらりと見る。


「あーあ、どうせなら、この神官様より、あのイケメン騎士様に習いたかったなー!」


 ――悪かったな、イケメン騎士様じゃなくって!!!!

 

 そして俺はなりゆきから、ここコストーで、バルロの妹、ボルカの家庭教師という、新たな職を得たのだった!!


 


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