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第13話

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 イケおじ王様が言っていたとおり、神子としての仕事は、ブラック企業で社畜として日々消耗していた日々と比べたら、びっくりするくらい簡単なものだった。

 神殿で国の安定を祈ったり、農地に出向いて豊作を祈ったり、町に出て民の健康と安全を祈ったり……。

 祈って祈って、祈りまくる日々!!


 何も知らない俺には、神官長であるナディアという年齢不詳の美女がお世話係としてつけられ、彼女からこの世界のこと、神子の仕事のこと、その他ここで暮らしていくうえで必要な常識的知識などを懇切丁寧に教えられた。

 そして、俺は知った。

 俺が召喚された国・サンドロオリヴェは、砂漠に囲まれた王国で、例年の干ばつからくる食糧難、それに伴う民衆の暴動に悩まされていること、また広大な砂漠には、いくつもの独立した部族が点在しており、この王国はその部族からも税を取り、統治という形をとっているがそこからは常に不満の声が上がっていること……そして、この国では国存亡の危機が訪れるたびに、異世界から「神子」を召喚し、その加護の力でなんとかそれを乗り切ってきたこと……。

 この世界のいろいろなことを知るにつれ、俺は青ざめた。


 ーー俺はやっぱり、どう考えても絶対に神子じゃない!!!!


 もともと「神子」として召喚されるはずだったのは、あの時、俺の目の前を歩いていた金髪美女に間違いない、と俺は確信した。

 俺が本来彼女のものであったあのカードをうっかり拾ってしまったばっかりに、俺は間違ってここに連れてこられただけに過ぎないのだ!


 その証拠に、歴代の神子はいずれも適齢期の女性、しかも誰もが振り返るような美女ばかりだったという。

 かたや俺は、30がらみの冴えない男……。

 だから俺は自分は絶対に神子ではない、なにかの間違いでここに来てしまったのだと、ナディア神官長やイケおじ王様、そして俺の召喚に成功?したらしい魔法使いに何度も訴えたのだが、そのことはまるで聞き入れてもらえなかった。

 どうやら彼らにとっては、あの魔法陣で向こうからこっちに来たのが俺だ、ということだけが重要らしく、俺の見た目や性別はもはやどうでもいいことになっているらしい。

 特に魔法使いのじいさんなんかは「私の崇高な魔法に絶対に間違いはない!!」とかムキになって、ますます俺がどれだけ神子としてふさわしいか説教をはじめてくるのでたまったものではなかった。



 だが、冴えない男である俺が「神子」であることが、「どうでもよくない」ヤツが一人だけいた。

 
 それは、この国の第一王子・ナセル。

 なぜなら、彼はこの国を代表して俺の「加護」を受けなければならない人物だからだ。




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「今日は神子様がこの国に来られてちょうど7日目!
まさに今晩、神子様とナセル王子が『七夜の儀式』を行い、我が国と神子様の結びつきはより一層強固なものとなるのです!」

 王宮から少し離れた場所に建つ神殿。

 その石造りの廊下で、つばを飛ばす勢いで、魔法使いのじいさんは俺に顔を近づけてきた。


「七夜の、儀式……?」

 俺はさり気なく顔を反らせて、後ろにいたナディアの顔を見る。


「神官長! もちろん今宵の儀式のことは、もうすでにしっかりと神子様にはお伝えしておるのであろうな!?」

 黒いローブをひきずる魔法使いのじいさんは、ナディアをギロリと睨んだ。


「えっ、ああ、それはもう、そう、それなりに……、ええ、私どもとしてはできる限りのことは……。
しかしですね、大魔道士様、神殿にも神子様が男性だった場合の文献はどこにも残っていないわけで……、男性相手に心構えを説く、といっても私ども女性神官たちもどうしていいかわからず、……つまりは……」

 わかりやすく慌てた様子のナディア。


「何を言う! 神子が女だろうが男だろうが、やることはなにも変わらんだろう!
いいか、要は、神子様の胎内に、ナセル王子の……」


「わあああああっ!! 大魔道士様っ、それ以上は、それ以上はお控えくださいませっ!
ここは神聖な場所なのですよっ」

 ナディアが後ろから、俺の耳を塞ぐ。


「……?」


「とにかくっ! 今宵はどんなことがあっても成功させなければならぬ! もし儀式が失敗するようなことがあったりすれば、それはすべて神殿の責任であるぞ! 事の重大さはわかっておるな!?
……神子様が王子相手に、どうしても気乗りしない、というのであれば、アレを使え! 良いな!」


「は、い……、ちゃんと、わかっております……」

 しゅんとうなだれるナディア。



「神子様、今宵の成功を、心よりお祈りしております。我が国のために、どうか貴方様のお力をお貸しください」


 魔法使いのじいさんは俺に恭しくお辞儀をすると、ドタバタとガニ股で、神殿の廊下を歩いていってしまった。


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