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第7話

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「セファー! 本当に、もういいから! お願いだからもうやめて!
俺は君にこんなことまでしてもらういわれはないし、どこも怪我なんてしてないからちゃんと歩ける!
こんなことしてたら、君の体力がもたないよ……!
セファー、頼む! ちゃんと歩けるから、おろして! ねえ、ねえってばっ!!」

「……」


 俺を横抱きにしたまま、ずんずん歩みを進めるセファーをなんとかなだめすかして、俺はようやく砂の上に降ろしてもらった。

 そして、なおも俺に自分のブーツを履かせようとするセファーを全力で拒否ると、さすがにセファーは諦めたのか、今度は自分の群青色マントをはぎ取ると、それをビリビリと縦に引き裂き始めた。


「セファー、何をっ!?」

「この布で、神子の足を保護する。このマントは強度もあるし耐熱性も高いから、ブーツを履いたのと同程度の効果はあるだろう」



 セファーは俺の前にひざまずくと、俺の編み上げサンダルを脱がせて、器用な手付きで細長くしたマントの布を俺の足に巻き付けていった。


「でも、それじゃ君が……」

 耐熱性があるマントをなくしたら、今度はセファーがこの暑さをしのげなくなってしまうんじゃ……。


「俺は砂漠生まれだ。そこまでやわじゃない」


 淡々と言うと、セファーは俺に、サンダルをその上から履かせた。

 そして、足に巻き付けたマントの残りで、今度は俺の頭をすっぽりと包んだ。


 ーー本当だ。ちょっと涼しく感じる……。



「神子のローブは高価なものだが、砂漠超えには不向きだ。途中で着替えたほうがいいだろう」


「わかった。ありがとう、セファー」


「……」

 セファーは答えず、くるりと俺に背を向け、再び歩き出す。



 セファーの機転を利かせた応急措置のおかげで、俺は随分と楽に砂漠を歩けるようになった。

 もう、足も熱くない。セファーのマントの効果か、頭にも熱がこもらなくなった。


 
 それにしても……。




 「ねえ、セファー、俺たちはいったいどこに向かってるんだ?」


 灼熱の日差しと熱風から俺を守るようにして、俺の目の前を歩くセファーに、俺は声をかけた。 


「ルドビ、俺の故郷だ」

「ああ、知ってる、ルドビね!」


 不意に俺は立ち止まる。


 ーールドビって、あの、砂漠の果ての……?




「……どうした、神子」


「ちょ、ちょっとまってくれよ!
今俺たちって、メチャクチャ軽装だよね。
俺なんか、急に馬車から放り出されたから、王宮にいたときの格好のままだし、もちろん水も食料も持ってない。
しかも、セファー、君だって……」


 俺はセファーをまじまじと見た。



 セファーは、いつもの凛々しい護衛騎士の制服姿。

 だが……、



「ねえ、セファー。君、馬はどうしたの?」


「馬じゃ砂漠を超えられない。王宮に帰した」


「帰した? 帰したって……。
君、荷物は、それだけ……?」

 俺の不安げな表情に、セファーはぐっと唇を引き結んだ。


「水と干し肉を持っている。とりあえず明日まではもつ」


「明日っ!?」


 俺は素っ頓狂な声をあげ、あたりを見渡した。



 一日分の水と食料しかないというのに、今俺の前に広がるのは、一面砂だけの世界。


 こんな状況で、いったいどうやってこの広大な砂漠を超えて、その果てのセファーの故郷まで行こうというのか!?



「心配ない。今晩さえなんとかしのげれば、おそらく今この砂漠を移動中の大規模なキャラバンと遭遇できるはずだ。
キャラバンに合流すれば、一番近い町まで安全にたどり着くことができる」


「キャラバン……、遭遇……、できる、はず……?」


 でもスマホも、GPSもないこの異世界じゃ、お互い移動している者同士が、目印もないこんな広い場所で、運良く巡り会えるなんて思えるはずもなく……。


 そう、とどのつまりは……、

 このセファーだって、俺と同じように、あの第一王子から、この砂漠に置き去りにされたも同然、ということ……。




 もし、本当に俺を安全にどこかに送り届けるつもりがあるならば、その護衛騎士のセファーにはそれなりの食料なり、身支度なりをもたせるに決まっている。

 

 ーー真実を知り、俺は青ざめる。



 ということは……、

 セファーも俺と同じく、俺の護衛を口実に、王宮から追放されてしまった状態である、と考えるのが自然だろう。





 つまりは、要するに……、

 俺たち二人は、野垂れ死ぬことを前提に、あの憎き第一王子により、砂漠の真ん中に放り出されてしまったのだ!!!!



 
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