上 下
5 / 97

第5話

しおりを挟む
「あの、俺……、神子なんかじゃありません! 俺は、日之出陽太っていって、オーロラITソリューションっていうIT企業で働いています」

 なんとか声を出せること、そして自分の頭がクリアで、言葉がちゃんと伝わっていることに、俺は安心した。


「おおっ!!」

 俺の言葉に、魔法使いのじいさんは目を見開く。


「ヒノデヨータ様とおっしゃるのですね! なんとまた神々しいお名前であられることか!!
しかも、神子様は、あちらの世界でも崇高なお名前のアイティーキギョウというところで、日々のお勤めをなされていたのですね!
どうぞ、ご心配なく!
こちらの世界でも、神子様としてヒノデヨータさまは、神子様のお勤めに励むことができますゆえ!」


「は、はぁ……?」


 ――伝わっているようで、なんにも伝わっていないこのもどかしい感覚……。

 早く、早く戻ってくれー! 俺の脳の誤作動!!



「私は認めないぞ! こんな凡庸な男が、この国を救う神子などと!」

 腕を組んだ銀髪イケメンが、忌々し気に俺を見る。


 うん、ムカつくけど、俺が神子ではないという認識は正しい!


「しかし、ナセルよ。我々は今、この目で見たではないか!
このお方が、この魔法陣より異世界から召喚されたところを!」

 ダンディーイケおじが大げさな身振りで、座ったままの俺に向かって片膝をついた。


「神子様、お待ち申し上げておりました!
私はあいにく妃もおりますゆえ、あなた様のご加護は受けることはできませんが、
この国の第一王子・ナセルが、あなた様のご加護を一身にお受けいたします」


「父上っ!!」

 銀髪イケメンが気色ばむ。



 王子っ!? ってことは、王子の父上だから、この人が、王様……?

 うわぁー、俺の貧困な想像力が作り出しそうな妄想そのまんま!!

 早く―、早く目覚めろー、俺!!



 イケおじ王様が、魔法使いに掴まれているのとは反対の手を取って、両手で包み込んだ。

「……っ!!」

 なぜだかゾッと背すじに悪寒が走る。


「さあ、神子様、参りましょう! 神子様のお部屋はすでに居心地よく整えてあります!
今日はもうお疲れでしょうからゆっくりお休みになって、明日から神子様のお勤めについて
いろいろと説明させていただきますね!
なーに、心配などいりません。神子様の力をもってすれば、何もかもたやすいことばかりです!」



 なんでこの人たちは、こうもポジティブに俺を受け入れようとしているのか?

 現実世界に目覚める気配もない俺は、なにか突破口を見つけようと辺りを見渡した。



 その時……、


 石造りの部屋の扉の前に、番兵のように立つ背の高い男と目が合った。



 肌は滑らかな褐色。プラチナブロンドの髪に、深い海のような青い瞳……。



 ――ほら、やっぱりここ、絶対俺のつくりだした妄想の世界だよ!!!!


 俺は確信していた。



 なぜなら、その男は、まるでCGで作ったかのような完璧すぎる美しさだったからだ!!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 見た目と真逆で口が悪いノアが、後宮を出て自由に暮らそうと画策したり、ユリウスをモノにしようとあれこれ画策するも失敗ばかりするお話し。 他の王子たち、異世界からやってきた自称聖女、ノアを娶りたい他国の王子などが絡んできて、なかなか距離が縮まらない二人のじれじれ、もだもだピュアラブストーリー、になるといいな……

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ

ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。 セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?  しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。 ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。 最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...