上 下
91 / 95
【番外編】〜その後のアントンとアルベルトを中心に〜

アルベルト17歳の誕生日 〜その2〜

しおりを挟む
「えーっ、それでアルベルトにあの薬を使われちゃったの?
それはアントンも災難だったわね~」

 アデラは、驚いた様子で口元に手を当てた。

「あの薬って……、アデラ、なにか知ってるの?」

 俺が疑惑の視線を向けると、

「そりゃ知ってるわよ。あの薬は私が、アルベルトに教えてあげたんだもーん。
ほら、アルベルトって、学校でも最近イライラしてたでしょ?
だから、ちょっと気分転換にどうかなって」

 色っぽい流し目を俺に向けてくる。

 俺は思わず眉根を寄せた。

「はあっ? あれが気分転換だって!?
アデラのせいで、俺が昨日どんな目にあったかわかってるのかよっ!!」

 明け方まで続いたアルベルトとの狂乱に、俺の身体はどこもかしこも悲鳴を上げている。

「またまたぁ~!! ふたりでしっぽり楽しんだんでしょ?
恥ずかしがり屋のアントンも、あれのおかげですごく情熱的になれたでしょ?
アルベルトも喜んで、機嫌もすっかりなおったんじゃない?」

 まったく悪びれず俺に微笑みかけるアデラ。
 
 そう……、あの薬のせいで俺は言うもはばかられるような恥ずかしい恰好をいっぱいさせられたり、
思い出すだけでもこの場から逃げ出したくなるようなセリフをアルベルトにたくさん言わされて……。

 ――もう、考えるのはやめよう。

 
 俺はため息をついた。

「たしかに、アルベルトは今朝まではすごーく機嫌が良かった。
でも、今朝ダン兄様から俺に手紙が届いてるのを見て、また急に機嫌が悪くなっちゃって……」

「あらら、あのアルベルトの嫉妬深さもどうにかならないものかしらね~。
ほら、着いたわよ。この店よ」

 もうすぐ、アルベルトの17歳の誕生日。
 俺は、アデラに頼んで、洒落た貴金属店に案内してもらっていたのだった。

 昨年の失敗もあり、おおいに反省した俺は「アルベルトの誕生日プレゼントを、アデラと一緒に買いに行ってくる」と予めアルベルトには伝えてある。

 サプライズでプレゼントを渡したいのはやまやまだが、放課後の別行動についてアルベルトにちゃんと報告しておかないと、こっそり後をつけてくる恐れもあるので致し方ない……。

 アデラにうながされ、店内に入る。ショーケースにはキラキラした宝飾品がところせましと並べてあった。

「いらっしゃいませ。ソールバルグ様」

 アデラの姿を認めた店員が、そそくさと近寄ってくる。

「話していたものをお願いね」

「すぐにお持ちいたします」

 店員が奥の部屋に消える。

「ねえ、本当にあんなシンプルなものでいいの? もっと宝石がいっぱいついた派手な指輪にしたらいいのに!」

 アデラが耳打ちしてくる。

「いいんだよ、毎日つけるものなんだから!」

 俺が考えたアルベルトの17歳の誕生日プレゼントは、二人お揃いのペアリング!!

 ベタすぎるかもとは思ったが、こちらの世界には結婚指輪の習慣はないようなので、それが逆に新鮮でいいかもしれない! との考えからだ。
 
 ほら、アルベルトだって、こっそり俺におそろいのピアスをつけさせていたくらいなんだし!
 それに二人でおそろいのものをつけていれば、少しはアルベルトの不安や嫉妬心も落ち着くかもしれないし……。


「こちらでございます」

「わあ……」

 店員がビロード張りの小箱を開けると、銀色に輝くリングが二つならんでいた。

 ――うん、すごく婚約者っぽい!! ……よくわからんけど。
 とにかく、これで今年のアルベルトの誕生日は堂々とプレゼントが渡せるというものだ!

 すっかり満足した俺は、サイズを確認したあと、綺麗に箱を包装してもらった。

「はあ、アルベルトも本当に大変よね……」

 プレゼントを手にして上機嫌の俺に、アデラがつぶやく。

「え? どういう意味?」

「だって、せっかく婚約したっていうのに、エリアス様もヴィクトル王子も、全然アントンのこと諦める様子がないじゃない。
それに、アントンってば相変わらずふらふらして危なっかしいったら……」

「お、俺はふらふらなんて、してない!」

 思わず俺は反論する。

「そうかしら? もうこの際、エリアス様ともヴィクトル王子とも、一回ずつヤっちゃったら?
想いを遂げられたら、案外二人もおとなしくなるかもしれないわよ!? そしたらアルベルトも落ち着いて一石二鳥!」

 アデラの目がいたずらっぽく輝く。


「はあーーーっ!? ありえないし! だいたいなんだよ、その言い方はっ! それにっ、俺の気持ちはどうなるわけ?」

「あーあ、エリアス様、おかわいそう。このままじゃ、一生童貞のままだわよ。
妄想の中では超一流なのに……」

「ええっ、エリアスって……、そうなの?」

 俺は驚きを隠せない。

「そりゃそうよ。だって、エリアス様の身体って、アントン以外では反応しないんだもの! あーあ、本当におかわいそう。
アントン、もったいぶらないで一回くらいお相手してあげなさいよ!」

 アデラが俺を睨みつける。
 俺は思わず後ずさった。
 いや、ちょっと待て。これじゃ俺が悪者みたいじゃないか!!!


「もったいぶるとか、そういうことじゃないだろ!!!
それに、俺はアルベルトの婚約者なの!!」

「ふーん、でもその割に、アルベルトは納得してないみたいだけど」

「どういう意味だよっ!?」

「アルベルトの気持ち、私にはよくわかるわ~。せっかく手に入ったと思ったら、すり抜けて行ってしまいそうなもどかしい気持ち!
肝心のアントンは、アルベルトの気持ちなんてお構いなしに、いろんな男をたぶらかして……!!!
自分の想いばかりが募って、ますます狂おしく燃えさかる愛の炎!!!!
……もしかしてアントンってば、恋の名手? 魔性の男???」

「おいっ! 人聞きの悪いこと言うなよ!
断じて、俺はたぶらかしてなんか、ない!! だいたい、いっつもアルベルトに、その……、愛してるって、ちゃんと伝えてるし!
毎週末一緒に過ごして……、その、いろんなこともしてるしっ!!! アルベルトを不安になんてさせてないしっ!!!!」

「ふーん、へえー、そーお?」

 全然信じてないアデラの顔。

「だから、この指輪を渡して、俺たちの……、愛をっ、ますます深めてっ……」

「アントーン、そんなことより、これ、アルベルトに渡してあげなさいよ」

「これ……?」

 アデラに渡されたのは、目が覚めるようなピンク色の封筒。きっちりと封がしてある。

 封筒は薄っぺらく、おそらくカードか何かが一枚入っているようだ。


「ああ、アントンが開けちゃだめよ。そのリングと一緒に、アルベルトに一緒に渡してあげて。
愛が深まる魔法のカードよ! 特別にアントンにあげる!」

「え、ああ……、うん。ありがとう」


 この時の俺は知る由もなかった。

 この封筒が、のちにあんな結果をもたらすことになるなんて……!!!!!


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...